2022年ロシアのウクライナ侵攻
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2022年ロシアのウクライナ侵攻(2022ねんロシアのウクライナしんこう)は、ロシアが2022年2月24日に開始したウクライナへの軍事侵攻である[18][19]。ロシアによるウクライナ侵略(英: Russian aggression against Ukraine[20][21][22])とも[23][24]。
概要
攻撃は、長期にわたるウクライナ国境周辺(ベラルーシ側含む)への軍事力の増強、2月21日のロシアによるドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の国家独立承認[25][26]、ウクライナ東部のドンバスへのロシア軍の派遣を経て始まった。
2月24日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの軍事作戦を行うと述べた演説[27][28]が各メディアに対して公表された後、首都キエフ[注 5]の近くを含むウクライナ各地で砲撃や空襲が始まった[29][30][注 6]。ロシアは国連憲章51条の集団的自衛権を主張した[34]。これを受けてウクライナの大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは同日、戒厳令を布いて[35][36]18歳から60歳の男性を出国禁止にする「総動員令」に署名し、戦争状態に入った[37][38][39]。
現実空間の侵攻、サイバー戦争、情報戦が組み合わさったハイブリッド戦争となっている[40][41]。侵攻以後、ロシアは国際社会から強い非難を浴び[42]、各国のロシアに対する制裁が拡大している[43]。
侵攻後、ウクライナ国民を中心とした多数の難民が隣国などへ避難しており、2022年3月15日現在、300万人を超えた[44]。
背景
侵攻前の動き
2021年10月26日、ウクライナ東部の紛争地域ドネツィク州グラニトノエにて、ウクライナ政府軍は親露派武装勢力に向けてドローンによる攻撃を初めて実戦で行った[45]。ウクライナ国防省の主張によると、親露派側からの砲撃で政府側に死傷者が2人発生したことに応戦したものである[45]。ドローン攻撃により親露派は死傷者こそ出なかったが、122ミリ榴弾砲1門が破壊された[45]。2020年7月に強化されたドンバス戦争の停戦協定により、ドローンを含む航空戦力の使用は禁止されているため、ロシアは停戦協定違反としてウクライナを即日非難し、協定に関わったドイツも翌日にウクライナを非難した[45]。ウクライナ大統領ゼレンスキーは欧米諸国から忠告を受ける中、意に介さず「領土と主権を守っている」という声明を発表した[46]。ドローン攻撃は、ロシア大統領プーチンの行動に口実を与えることになった。すなわち、ロシア軍が親露派を守り、ウクライナのNATO加盟を阻止するための行動である[47]。
2021年12月21日、ロシアのプーチン大統領はアメリカと北大西洋条約機構(NATO)に対し、「ロシアの安全保障」という名目で、ウクライナをNATOに参加させないことに関する法的拘束力のある約束を交わすことを要求した[48]。また、ロシア政府は、「ウクライナ政府はミンスク合意を履行していない」として非難した[49]。
それについてアメリカ側は「ウクライナにはウクライナの主権がある」「ウクライナがNATOに加盟するかしないかはウクライナ政府が選ぶことであり、それについてロシアが口出しするのは間違っている」と指摘した[50]。
ロシアによる侵攻計画の否定
国境付近へのロシア軍の増強にもかかわらず[51]、ロシア当局は、ウクライナ侵攻計画を繰り返し否定した[52][53][54]。
- 2021年11月12日、ドミトリー・ペスコフ報道官は「ロシアは誰も脅迫しない」と述べ[52][53]、12月12日には「ウクライナ危機」を称する報道は、ロシアを悪魔化し、潜在的な侵略者とみなしていると非難した[52]。
- 2022年1月19日、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、「ロシアはウクライナに対して攻撃的行動を意図しておらず、いかなる攻撃的行動も起こさない。ウクライナが何といおうと、攻撃や侵攻や侵略を行うことはない」と述べた[52]。
- 1月22日、イギリス政府が諜報機関からロシアがウクライナに親ロシア政府を設置する計画を持っているという報告を受けたと発表すると、ロシアは「イギリスはナンセンスを広め、挑発するのを止めよ」と非難した[52]。
- 2月12日、バイデン米大統領がプーチンと会談すると、ユーリ・ウシャコフ外交顧問はウクライナ侵略というロシア脅威論はヒステリーだと述べた[52][53]。
- 2月16日以降緊迫が報道されると、セルゲイ・ラブロフ外相は「ヨーロッパでの戦争が今度の水曜日に起こるなんてことはない」と噂を否定した[52]。
- 2月20日、アナトリー・アントノフ駐米ロシア大使は、ロシア軍は「誰も脅迫しない。侵略はありえない。そのような計画はない」と述べた[53]。
こうしたロシアの否定に対して、米英側は、ウクライナ国境近くでのロシア軍の動向の衛星写真やロシアの侵略計画、侵攻後の殺害または拘留される主要なウクライナ人のリストが存在することなどの情報を公開した[55]。
情報戦
侵攻の前段階として、印象操作やデマ情報の流布の情報戦、サイバー攻撃が行われた[40]。
2021年12月9日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア国外のロシア語話者に対する差別について「大量虐殺だ」と述べ[56][57]、ウクライナを非難した[58][59][60]。
2022年2月15日、プーチンはマスコミに「ドンバスで起こっていることはまさに大量虐殺である」と語った[61]。
しかし、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)、ウクライナへのOSCE特別監視ミッション、欧州評議会を含むいくつかの国際機関は、ロシアの主張を裏付ける証拠を発見することはできなかった[62][63][64][65]。後に大量虐殺の主張は、ロシアによる偽情報として欧州委員会によって却下された[66]。ウクライナの米国大使館は、ロシア側による「大量虐殺」との主張を「非難すべき虚偽の情報」と指摘し[67]、米国務省のスポークスマン、ネッド・プライスは、ロシアがウクライナ侵略をするための口実としてそのような主張を行っていると述べた[61]。
2月18日、「ドンバスでのロシア人の虐殺」は事実ではないと指摘した米国当局者の質問に関して、アナトリー・アントノフ駐米ロシア大使は大使館のFacebookページに次のような声明を投稿した[68]。
ここでは、米国の二重基準だけでなく、かなり原始的で粗野な皮肉を見ることができます。米国の主な地政学的目標は、ロシアを可能な限り東に押し戻すことです。そのためにはロシア語を話す人々を現在の居住地から追い出す政策が必要です。 したがって我々は、アメリカ人がウクライナでのロシア人の強制的な同化の試みを無視するだけでなく、政治的および軍事的支援を強く容認することを望んでいます。
ドンバスでの動き
ドンバスでの戦闘は2022年2月17日に大幅に激化した。2022年の最初の6週間の1日あたりの攻撃数は2から5であったが[69]、ウクライナ軍は2月17日に60回の攻撃を報告した。 ロシアの国営メディアはまた、同じ日に分離主義者の地位に対する20回以上の砲撃を報じた。たとえば、ウクライナ政府は、ロシアの分離主義者がスタニツィア・ルハンスカで大砲を使って幼稚園を砲撃し、3人の民間人を負傷させたと報告した。 ルガンスク人民共和国は、その軍隊が迫撃砲、グレネードランチャー、および機関銃の発砲でウクライナ政府によって攻撃されたと述べた[70][71]。
翌日、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国は、それぞれの首都からの民間人の強制避難を命じたが、完全な避難は完了するのに数か月かかることが指摘された[72][73][74][75]。ウクライナのメディアは、ウクライナ軍を挑発する試みとして、ドンバスでロシア主導の過激派による砲撃が急増したと報じた[76][77]。
2月21日、ロシア連邦保安庁(FSB。ロシアの諜報機関)は「ウクライナの砲撃により、ロストフ州のロシアとウクライナの国境から150m離れたFSB国境施設が破壊された」と発表した[78]。これとは別に南部軍管区の報道機関は「ロシア軍がその日の朝、ウクライナから2台の歩兵戦闘車で国境を突破した5人の妨害工作員を、ロストフ州ミティアキンスカヤ村の近くで殺害した」と発表した[79]。ウクライナは両方の事件に関与したことを否定し、それらを偽旗作戦と断定して批判した[80][81]。さらに、ドネツクの北30kmにあるザイツェベの村で、2人のウクライナ兵と1人の民間人が砲撃により殺害されたと報告された[82]。
調査ウェブサイトのベリングキャットを含む複数の調査報道機関は、ドンバスで主張された攻撃、爆発、および避難の多くがロシアによるものだという証拠を発表した[83][84][85]。
2月21日、ルガンスク人民共和国のルガンスク火力発電所は未知の勢力から砲撃を受けた[86]。ウクライナのニュースは、火力発電所の閉鎖を余儀なくされた、と述べた[87]。
侵攻
2022年2月21日、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の同意を受けて、プーチン大統領はロシア軍(戦車等を含む)をドンバスに派遣するよう命じた。ロシア側はこの行動を「平和維持ミッション」と呼んでいる[88][89]。その日未明、いくつかの独立したメディアがロシア軍がドンバスに侵入していることを確認した[90][91][92][93]。
2月22日、アメリカのジョー・バイデン大統領は、プーチンがウクライナ東部への派兵の意向を表明したことを受け、「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアに対する制裁を発表した[94]。NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグとカナダの首相ジャスティン・トルドーは、「さらなる侵略」が起こったと述べた。ウクライナの外相ドミトロ・クレーバは、「侵略に大きいも小さいも無い。侵略は侵略だ。」と強く批判した。一方欧州連合外交政策責任者ジョセップ・ボレルは、「本格的な侵略ではない」と述べ、「ロシア軍がウクライナの地に到着しただけだ」と述べた[95]。
同日、連邦院は全会一致でプーチンにロシア国外での軍事力の使用を許可した。ウクライナ側では、ゼレンスキー大統領が予備軍の徴兵を命じたが、動員は停滞している[96]。
2月23日、ウクライナは、ドンバスの占領地を除く全国で非常事態を宣言すると発表した[97]。同日駐ウクライナロシア大使は大使館から避難し、掲げられたロシア国旗を降ろした[98]。また2月23日中に、ウクライナ議会と政府のWebサイトは、銀行のWebサイトとともに、DDoS攻撃に見舞われた[99]。
24日午前5時頃(ウクライナ時間)、プーチンはウクライナ東部で「軍事作戦」を開始すると発表[注 7][101][102]。プーチンは国民向けのテレビ演説の中で、軍事作戦の目的を「ウクライナ政府によって8年間、虐げられてきた人々を保護するため」と述べた[27]。また、ウクライナの領土を占領する計画はないとし、ウクライナ国民の民族自決の権利を支持すると述べた[28][103]。その発表から数分以内に、キエフ、ハリコフ、オデッサ、ドンバスで爆発が報告された[104]。これらの爆発の結果、東ウクライナの空域で民間航空の飛行は制限され、地域は欧州連合航空安全機関によって全体が活発な紛争地帯と見なされた[105]。
午前6時半過ぎ、ウクライナのアントン・ヘラシチェンコ国務大臣によると、ロシア軍はハリコフ市付近から陸路で侵攻してきたという。マリウポル市とオデッサ市では大規模な水陸両用車の上陸が報告され、ヘラシチェンコはオデッサ市付近への上陸を確認した(しかし、これはのちに誤報と発表された)[106][107][108]。午前7時を前にして、ゼレンスキー大統領は戒厳令の導入を発表した[109]。
ベラルーシからウクライナへと軍事車両が侵入し、ロシア、ベラルーシと接するウクライナの国境の検問所などが攻撃を受けている[110]。さらに、南部のクリミア半島との境界においても戦闘が発生している[110]。ウクライナの国境警備隊によれば、ロシア軍の戦車や重機類を伴った部隊がウクライナ北部の複数の地域のほか、ロシアが併合したクリミア半島からも侵攻してきたという。また、ウクライナ軍は南部のオデッサにロシア軍が上陸したという報道については誤りだと述べている[110][111]。ウクライナの国防相は、「ウクライナ東部の部隊や軍司令部、飛行場がロシアからの激しい砲撃を受けている」ことを明らかにしている[111]。また、ウクライナ軍は、「空軍はロシアの空襲撃退に努力している」と述べた[111]。ロシア軍は現地時間の24日の午前5時にロシア側から攻撃を行い、ベラルーシの支援によって、ベラルーシ側からも攻撃を始めた[112]。また、クリミア地域から攻撃も始まり[112]、ウクライナは三方面からの侵攻にさらされている。東と南北からの侵攻の開始により、西方の隣国モルドバからの分離独立を宣言していて、ウクライナと直接国境を接する親ロシア派の沿ドニエストル地域の動向に注目が寄せられた[113]。
同日、ゼレンスキー大統領はロシアとの外交関係を断絶することを発表した[114]。また、ゼレンスキー大統領は90日間の総動員令に署名し、それにより18~60歳の男性は出国を禁じられた[37][115]。
ウクライナ軍が、ロシアと国境を接するほぼすべての地域でロシア軍と戦闘を行っていることが明らかになった。ロシア軍は空から兵士を投入し、キエフの行政区へ侵入している[116]。ロシア軍が24日に開始したウクライナへの本格侵攻について、米国防総省高官は同日、ロシアがミサイル160発以上を発射し、軍事施設や滑走路を攻撃したと明らかにした。また、ベラルーシ領内から弾道ミサイル4発が発射された[117]。
キエフ市長を務める元プロボクシング世界ヘビー級王者のビタリ・クリチコはイギリスのテレビ番組『グッド・モーニング・ブリテン』に出演し、「武器を手に取り戦う」と徹底抗戦を宣言した[118]。
元大統領ペトロ・ポロシェンコも「地獄を準備している」[119]「ウクライナは勝利する」[120]などとツイートし、ゼレンスキー大統領と対立した元大統領も、同盟国に武器供与を要請するなどウクライナ防衛に向けて協力を表明している[121]。
経過
日時は特記のない場合、ウクライナ時間(UTC+2)。日本との時差は-7時間[122]。
2月23日
- 21日~22日の戦闘経過は上記侵攻の節を参照
- ブリンケン米国務長官はNBCニュースのインタビューに答え、ロシアが24日夜明けまでにウクライナに侵攻するとの見方を示した[123]。ただし、ウクライナ本土へのロシア軍の侵入はすでに21日に始まっていたとみられる[124]。
- 午後7時頃(モスクワ時間):アメリカ国防総省の高官は、記者団に「ロシア軍の部隊は最大限の準備ができており、部隊のおよそ80%がいつでも出動できる準備を終えた」と述べ、異例とも言える機密情報開示を行った[125]。
2月24日
- 午前5時頃:プーチン大統領は「ウクライナ政府によって8年間、虐げられてきた人々を保護するため」として、軍事作戦を開始すると発表[101][27]。(ただし、実際には無差別の大量虐殺を行なっている)
- プーチンの演説から数分後、キエフ、ハリコフ、オデッサ、ドンバスで爆発が報告された[126]。
- 午前5時頃:ウクライナ国防省の発表によると、ロシア軍が東部に展開するウクライナ軍部隊へ集中砲撃を開始し、ボルィースピリ、オジョルニ、クルバキン、チュグエフ、クラマトルスク、チョルノバイフカの飛行場、および軍事施設へ爆撃を開始したと発表された。また、ロシア軍はウクライナ・ロシア国境周辺では大規模な砲撃を開始したとも発表した[127]。
- 午前6時半頃:ロシア軍がハリコフ付近に侵入を開始。また、マリウポリとオデッサ地域にロシア軍の水陸両用車が上陸したされたという情報があったが誤報であったと訂正される[128][129][130]。
- 午前7時頃:ロシア軍の車両がベラルーシ・ロシア国境からセンキフカより侵入を開始した[131][110]。
- 午前10時頃:ウクライナ国防省の発表によると、現地時間10時半時点で、チェルニーヒウ地域においてロシア軍の進軍を停止させ、ハリコフ方面では激しい戦闘が行われているとした[132]。また、マリウポリなどの都市を制圧し、ロシア軍の少なくとも6機の航空機、2機のヘリコプター、数十台の装甲車両を撃破したとしている[132](ただしロシア側はそれを否定している)。
- 午前10時頃:ロシア空挺軍がキエフ近郊の空港へ降下したが、ウクライナ軍は反撃の末、奪還したと主張している[133]。
詳細は「アントノフ国際空港の戦い」を参照
- 午後1時半頃:ベラルーシ側からの弾道ミサイル発射が報告された[134]。
- 午後4時頃:チェルノブイリ付近の廃墟でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を開始したとウォロディミル・ゼレンスキー大統領が発表した[135]。
- 午後6時頃:チェルノブイリ原子力発電所とその周辺地域を第41合同軍とみられるロシア軍が占領した[136]。また、キエフでは夜間外出禁止令がキエフ市長のビタリ・クリチコにより宣言された[137]。
- 午後10時頃:ウクライナ国家国境庁はロシア軍が黒海に位置するスネーク島を占領したと発表[138]。戦闘の結果、島を防衛する守備隊は総員戦死し、ゼレンスキー大統領は、全滅したスネーク島守備隊員に対して、英雄勲章を授けると発表した[139]が、後にロシア軍の上陸を2度阻止したものの、弾薬が尽きて投降し、全員無事であることを確認したとウクライナ海軍が発表した[140]。
詳細は「ズミイヌイ島攻撃」を参照
- 午後10時頃:ウクライナ国防省はTwitterで「ロシアに占領されていたヘルソン近郊のドニエプル川にかかる橋の奪還に成功して防衛陣地を構築した」と発表した[141]。
- ウクライナの内閣、外務省、インフラ省、教育省などのサイトがダウンした。ロシアによるサイバー攻撃の懸念が強まる[41]。
- 米国防総省高官は、侵攻の目的はゼレンスキー政権転覆と、傀儡政権樹立であるとした[142]。
- ウクライナ政府は、ロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所を占拠したと発表した[143][144][145]。
詳細は「チェルノブイリの戦い」を参照
- 国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは25日、ロシア軍が24日にドネツク州の病院付近にクラスター弾を搭載したトーチカ弾道ミサイルによる攻撃を行ったとする調査結果を公表した[146]。
2月25日
- 午前1時頃:ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はウクライナ軍の総動員令を発令し、18歳から60歳までのすべてのウクライナ人男性が国を離れることを禁止することを発表した[37][115]。
- 午前1時39分:24日未明より始まったスームィ郊外での市街戦の結果、ロシア軍が同都市から撤退したと報じられた[147]。
詳細は「スームィの戦い」を参照
- 午前3時頃:チェルニーヒウに展開していたロシア軍の一部が降伏した[148]。
詳細は「チェルニーヒウの戦い」を参照
- 午前4時25分:南部ザポロジエ州の国境検問所がミサイル攻撃を受けたとウクライナ国境警備当局は発表した[149]。
- 午前6時47分頃:ウクライナ軍がキエフ近郊のイヴァンキフにかかる橋を爆破し、ロシア軍戦車部隊の進軍を停止させた[150]。また、80台のロシア軍車両がキエフ州のデマル村へ移動している[150]。
- 10時半頃に、ロシア軍はメリトポリ市に侵入。同地は激しく砲撃され、市街地戦が続いた。メリトポリの指導部は同日午後に降伏し、都市はロシアの占領下に置かれた[151][152]と、ロシア国防省は翌26日に発表した[17]。メリトポリ市の近くには港湾都市マリウポリがある[17]。
詳細は「メリトポリの戦い」を参照
- イギリスのベン・ウォーレス国防大臣は、これまでにキエフで450人のロシア人兵士が殺害されたと推定した[153]。
- ロシア地上軍がキエフに侵攻したとウクライナ軍が発表した[154]。また、それによるキエフの陥落が示唆されている。
詳細は「キエフ攻勢 (2022年)」および「キエフの戦い (2022年)」を参照
- ベラルーシから侵入したロシア軍は、首都キエフに迫っており、数時間以内にキエフが陥落する恐れがあるという情報が出ていた。アメリカ合衆国政府は、ロシア軍がチェルノブイリ原発の職員を人質にとっているという情報を発表した。ロシア軍からのミサイルは住宅などの民間施設にも命中し、一般市民にも被害が出ている[155]。
- 当初はロシア軍の総攻撃で数時間でキエフが陥落するとの見方もあったが、ウクライナ側の予想外の善戦より失陥は免れている。これに関しては市民を含むウクライナ側とロシア軍の士気の差、およびロシア軍の新兵の練度の低さが要因と見られており、米国防総省高官からはロシア軍の士気の低さが指摘されている[156]。
2月26日
- 未明:ゼレンスキー大統領がfacebookに動画を投稿。動画内で「今夜は非常に難しい夜になる」と話し、ロシア軍のキエフへ近く予想される攻撃に対して警戒を呼びかけ、「今夜、敵はあらゆる力を使って我々の抵抗を破ろうとするだろう。彼らは今夜、攻撃をしてくる。我々は耐えなければならない。ウクライナの運命はいま、決まろうとしている」「私たちは皆、ここ(キエフ)で国の独立を守っている」と語り、自身が国外逃亡しておらず首都にとどまっていることを伝え、また高齢者など市民には危険があればシェルターに入るよう呼びかけた[157]。在英ウクライナ大使館によれば、ゼレンスキーはアメリカ政府からの脱出の申し出に対し「自分が必要なのは、乗り物ではなく砲弾です」と断った[17]。
詳細は「メリトポリの戦い」を参照
- 午後3時20分: ロシア国防省はウクライナ南東部ザポリージャ州の都市メリトポリをロシア軍が占領したと発表した[158][159]。
- 午後3時30分:ロシア軍は、ウクライナ軍の軍事インフラを合計821箇所破壊したと発表した。破壊したのは軍事飛行場が14箇所、無線通信所を48箇所などとしている[160]。
- 北大西洋条約機構(NATO)はウクライナに侵攻中のロシア軍に対応し即応部隊の一部を東欧加盟国に派遣を決定した[161]。
- イギリス時間午後0時33分(ウクライナ時間午後2時33分):イギリス国防省の確認した情報[162]によると、1.ロシア軍はキエフ中心まで30kmの地点にいる。2.ロシア軍は依然ウクライナ上空の制空権を確保しておらず、ロシア空軍の有効性は低下している。3.ウクライナの武装勢力(おそらく軍のこと)は依然ウクライナ中で抵抗している。4.ロシア軍の死傷者数はクレムリンの想定を上回っていると考えられる。
- ウクライナ軍はFacebookで、これまでの侵攻でロシア兵3,500人以上が死亡、約200人が捕虜になり、ロシア軍軍用機14機、軍用ヘリ8機、戦車102台を失ったと報告した[17]。
- ゼレンスキー大統領は、ロシア側の当初の計画では25日夜から26日にかけてゼレンスキー大統領を拘束する計画であったが、ウクライナ軍が阻止したと述べ、「ここへ来てこの国を守ろうと思う人は誰でも、来てください。武器は提供します」と徹底抗戦の構えを見せた[17]。
- ゼレンスキー大統領は国連のアントニオ・グテーレス事務総長と電話会談し、安全保障理事会でのロシアの投票権を剥奪し、ロシアの行為をウクライナ人に対する「ジェノサイド(集団殺害)」と認定するよう求めた[163]。
- 停戦協議の開催地をめぐって、ロシアはベラルーシを、ウクライナはポーランドを提案[164]。
2月27日
- 午前1時半頃:ロシア軍が北東部にあるハリコフのパイプラインを爆破したことをウクライナのメディアとロイター通信が伝えた[165][166]。
- また、北東部のハリコフにはロシア軍が入った[167]。
- 夕方、キエフの戦闘は前夜よりは強度が低いと英国国防総省が伝えた[168]。
- ヴェルホーヴナ・ラーダ(ウクライナ最高議会)は、ウクライナ軍がキエフ近郊のホストーメリ空港周辺においてカディロフツィの一部隊を殲滅、ロシア国境軍第141連隊司令官マゴメド・ツシャエフを殺害したとTelegramの公式アカウントにおいて発表した[169]。
- 激戦が続いていたハリコフにおいて、ウクライナ軍が市街戦の末、街に進撃したロシア軍を駆逐したとウクライナ当局が発表した[170]。
詳細は「ハルキウの戦い (2022年)」を参照
- ゼレンスキー大統領は、ウクライナが国際司法裁判所(ICJ)にロシアを提訴したとTwitter上で表明した。提訴の具体的な根拠は明らかになっていない[171]。
- プーチン大統領は「北大西洋条約機構(NATO)側から攻撃的な発言が行われている」として、核戦力を含む核抑止部隊の高度警戒態勢を取るよう軍司令部に命じた[172][173]。
- ゼレンスキー大統領は朝、動画を公開し、ロシアによる侵攻に加担しているとして、ベラルーシ南東部の都市、ホメリでの停戦交渉を拒否すると述べた。そして代わりとなる場所として、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、トルコ、アゼルバイジャンの都市の名前を挙げた[174]。
- ゼレンスキー大統領は「ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と対談した結果、ウクライナの代表団が、ロシア側とベラルーシ国境のプリピャチ川地域で前提条件なしに会談することで合意した」と、自身のFacebookで明らかにした[175][176][177]。ロシア側は、交渉はベラルーシ南東部ホメリ州で行うと述べた[178][179]。
2月28日
- ロシア国防省は、セルゲイ・ショイグ国防相がプーチン大統領に対し、戦略核部隊、太平洋艦隊などが「特別態勢」に入ったと報告したと発表した[180][181][182]。これについてアメリカのバイデン大統領はアメリカ国民は核戦争を心配すべきかという質問に対し否定した。また、アメリカ国防総省の高官は28日(日本時間)、記者団に対し「ロシア側を監視しているが、プーチン大統領の命令を受けた具体的な動きはまだ確認されていない」と指摘した[183]。
- 国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン主任検察官は、ロシアによる侵攻を含む近年のウクライナ情勢を巡り、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで近く捜査を開始する方針だと明らかにした[184]。
「2022年ロシアのウクライナ侵攻における戦争犯罪」を参照
- 午前11時頃:ベラルーシのホメリで、侵攻後初めてのロシアとウクライナの停戦交渉が開始[185]。ウクライナ側は即時停戦とロシア軍の撤退を求めたとしているが、ロシア側の交渉目標は明らかになっていない。1回目の交渉では合意に至らず、双方が結果を持ち帰って協議した後、2回目の交渉を行う見通しとなった[186]。ロシア代表団高官によると、次回の交渉はポーランドとベラルーシの国境付近で行われる見通しだとした[187]。
- 午前10時(米国東部時間):国連総会緊急特別会合の開催が決定。ロシアの安保理での拒否権発動を契機として開かれるもので、安保理の求めによって緊急特別会合開催が開かれるのは40年ぶり[188]。緊急会合の開催はウクライナが要請し、日米欧や韓国のほか、対ロ制裁に参加していないブラジルを含む29か国が賛成した。ロシア、中国、キューバ、ベネズエラ、エリトリアの5か国が反対し、インドなど13か国は棄権した[189]。3月3日に決議が採られ、193か国中141か国の賛成で可決された[190]。非難決議の圧倒的多数の賛成は、法的拘束力がなくとも国際社会でのロシアの孤立を浮き彫りにしたとされるが[190]、敵対的行為自体にのみ反対表明しているUAEやサウジアラビア、ブラジルといった中立国も賛成を投じている点に留意。
詳細は「第11回国際連合緊急特別総会」を参照
- プーチンロシア大統領は、フランスのマクロン大統領との電話会談で、ウクライナが「非軍事化、非ナチ化」されることで中立化し[注 8]、クリミアのロシア支配が完全に承認された場合のみに和平となると述べた[196]。
3月1日
- 午後8時43分頃:ゼレンスキー大統領を殺害するためにプーチンによって送りこまれたチェチェン共和国の独裁者ラムザン・カディロフの精鋭暗殺部隊がウクライナ国内から排除されたことが報じられた[197][198]。
3月2日
- ロシア国防省は、ロシア軍がヘルソン中心部を完全に掌握したと発表した[199]。
- 12時(米国東部時間):国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し軍の即時撤退などを求める決議案が賛成141、反対5(ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリア)、棄権35(中華人民共和国、インド、キューバなど)の賛成多数で採択された[42][200]。
- ウクライナ政府関係者は、今回の侵攻以来初めてウクライナ軍が攻勢に転じ、ドネツク州ホルリフカへ進軍を開始したと発表した。同地域は、侵攻以前よりドネツク人民共和国による実行支配下にある[201]。
詳細は「ホルリフカ攻勢」を参照
- 国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナ情勢に伴う戦争犯罪、人道に対する犯罪について、検察官による捜査開始の申立てを受け、日本の赤根智子判事を含む3名の裁判官による検討の段階に入った[202]。
3月3日
- ウクライナとロシアが行った2回目の停戦対話について、交渉にあたったウクライナ大統領府のポドリャク顧問は、期待した結果は得られなかったが、「人道回廊」を巡る協議が行われたほか、対話を継続することで合意したと発表した[203]。人道回廊についてはロシアによる都市攻撃の正当化に利用される可能性が危惧されている[204]。
- プーチン大統領は安全保障会議で、「我々はまさにネオナチと戦っている」と述べ、ロシア軍はウクライナの非武装化と非ナチ化のために戦っていると主張した[205]。
- ゼレンスキー大統領は「民間人によるロシア兵殺害」を合法化する法案にサインを行った。施行は翌4日からとなる[206]。
3月4日
- 未明、欧州最大規模の原子力発電所と言われるザポリージャ原子力発電所周辺で戦闘が発生。原子炉が稼働中であるにも関わらず敷地内にて火災が発生した。戦闘による原子炉への影響はなかったが、6機ある原発の内の1号建屋と2号建屋が損傷を受けたと同原発の報道官が発表した[207]。IAEAは周辺の放射線量に「変化はない」としつつ、原子炉に当たれば「重大な危険」を招くと警告、ロシア軍に攻撃をやめるよう求めた。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は「(最悪の場合)チェルノブイリの10倍の被害になる。ロシア軍は直ちに攻撃をやめよ。」と抗議した[208]。しかし、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は砲撃について「ウクライナ政府が人工的なヒステリーを起こそうとしている」とロシア軍による原発攻撃の可能性を否定し、「ウクライナの民族主義者やテロリストが核による挑発行為を行わないようにするためロシア軍の管理下に置いた」と原発占拠の正当性を主張した[209]。稼働中の原発への攻撃は欧州全体を危険に晒す行為[210]で、明確な国際法違反[211]でもあり、更に人類史上初でもあった[212]。
- 朝、上記ザポリージャ原子力発電所がロシア軍に占領されたとウクライナ原子力規制当局が発表した[213]。
詳細は「ザポリージャの戦い」を参照
- 英紙「タイムズ」は、ウクライナ当局者の話として、ゼレンスキー大統領が過去1週間の間に少なくとも3回、暗殺を仕掛けられていたと報じた。暗殺を試みようとしたのはロシアの民間軍事会社「ワグナー・グループ」の傭兵部隊とされる[214]。
3月5日
- ウクライナのクレバ外相はブリンケン米国務長官との会談後、NATOにウクライナ領空を飛行禁止区域にするよう求めた[215]。ロシアは、NATOが飛行禁止区域を設定すれば「武力紛争への参加」とみなし[215]、「欧州のみならず世界全体に甚大かつ破滅的な結果」をもたらすと警告した[216]。
- プーチン大統領は、欧米の対ロシア制裁は宣戦布告に等しいと述べた。また、ウクライナに飛行禁止区域を設ける試みは、世界に破滅的な結果をもたらすと警告した[217]。
- AFP通信は今後のシナリオとして以下を報じた[218]。
- 西側の支援や制裁による膠着[218]。
- ロシア国内の変化によるプーチン政権倒壊。ただし、その可能性は低い[218]。
- ロシアの軍事的勝利。ただし、キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部名誉教授のローレンス・フリードマンは「侵攻と占領は別物だ」と指摘しており、ウクライナ制圧後の占領は難しいとされる[218]。
- バルト三国、NATO、モルドバなどへの戦火拡大。プーチンはNATO加盟国のバルト三国のロシア系住民の保護についても語っており、NATO対ロシア戦争に発展するリスクもある[218]。
- ほか、核兵器の実戦使用について欧州外交評議会グスタフ・グレッセル研究員はロシアは核兵器を情報戦として使っており、実際に使用しないと予測する[218]。
3月6日
- プーチン大統領は、ウクライナが抵抗をやめてロシア側の要求を満たした場合のみ、軍事作戦を停止すると述べた[219]。
- ウクライナ原子力規制監督局は、ハリコフで小型研究用原子炉がある「物理技術研究所」がロシア軍の砲撃を受け、複数の施設が損壊したと発表した[220]。
3月7日
- ロシア政府は制裁に対する対抗措置として「非友好的な国家・地域」にウクライナ、アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、欧州連合諸国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、韓国、アイスランド、スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン、モナコ、サンマリノ、シンガポール、モンテネグロの各国を認定した[221][222]。
- ロシアとウクライナは、3回目の停戦交渉をベラルーシで行った。ロシア側代表のメジンスキー大統領補佐官は交渉後、「(停戦に向けての)大きな進展はなかった」と説明した[223]。
- ロシアとの第1回停戦協議に参加したウクライナの情報機関の男性職員1名がロシアの二重スパイと判明し、反逆罪の容疑で身柄を拘束されそうになったところ、逃走を試みたために射殺されたことがイギリス・タイムズの報道で明らかになった[224]。
- ゼレンスキー大統領はこの日の夜に放映された米ABCのインタビューで、通訳を介し、NATO加盟を断念する意向を示した[225]。
3月8日
- コーカサス地方のNGOであるOC Mediaは、ウクライナ側の義勇兵としてチェチェン・イチケリア共和国勢力が参戦していることを報道した[226]。
- ゼレンスキー大統領の妻のオレナ・ゼレンスカは各国メディア宛てに公開書簡を送信。書簡の中で「ロシアの報道機関は侵攻を『特別軍事作戦』と呼び、市民の安全を保証しているが、実際にはウクライナ市民の大量殺人だ」と非難した。メディアはウクライナ大統領府にオレナ夫人がキエフにいるか問い合わせたが、回答は得られていない[227]。
3月9日
- ロシアの軍系テレビ局の報道に基づき、英国防省はロシアがウクライナでTOS-1Aから燃料気化爆弾を発射したことを認めたと発表した[228]。
- ロシア国防省はロシア軍の徴集兵がウクライナ侵攻に関与していたことを認め、後方支援任務を遂行する部隊のひとつが破壊工作員の襲撃を受けた際に一部が拘束されたことを明らかにした。この前日、プーチン大統領が国際女性デーに合わせて兵士の母や妻を前に行った「皆さんが最愛の人を心配していることは理解している。徴集兵は衝突に参加しておらず、今後も参加しないと強調する」「予備役の追加招集もない」「侵攻に関わっているのは職業軍人のみ」という演説とはまったく異なる内容となる。なお、現在は戦闘区域への徴集兵の動員防止や、拘束された要員の解放を目指して「包括的な措置」が取られているという[229]。
3月10日
- ウクライナのドミトロ・クレーバ外相とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はトルコ南部のアンタルヤで会談した。会談にはトルコのメヴリュット・チャヴシュオール外相が仲介役として参加したが、停戦合意に関する進展はなかった[230]。ラブロフは会談で「ウクライナを攻撃していない」と述べた[231]。
- ロシア国防省は「(米国の支援を受けた)ウクライナの研究所が、コウモリのコロナウイルスのサンプルを使った実験をしていた」と主張し、自国によるウクライナ侵攻を正当化する発言を行った[232]。
- EUはパリ郊外ベルサイユで非公式首脳会議を開き、ウクライナの加盟について協議したがフランスやオランダが難色を示し見送りとなることが濃厚になった。オランダのマルク・ルッテ首相は「EU加盟は長期的プロセス」と述べ、特例で早期加盟を認めることに否定的な立場を表明。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も「交戦中の国と加盟交渉できるとは思えない」と述べている[233]。
- プーチン大統領は閣僚会議で、ウクライナ侵攻を受けてロシアから撤退する外国企業の資産を国有化するとの政府方針を了承した[234]。
3月11日
- ロシア国営ノーボスチ通信はロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領がモスクワ入りした、とSNSで速報した。タス通信によると、ルカシェンコ大統領はロシアのプーチン大統領と会談し、両国関係や、ウクライナ侵攻にともなって世界各国が科している制裁措置などについて協議するとみられる[235]。ベラルーシ国営ベルタ通信は、「この会談でプーチン氏はベラルーシに近く最新の軍事装備を供与すると表明した」と報道した。一方、ウクライナ内務省のデニセンコ顧問は同日、「ベラルーシ軍は少数で実戦経験がない上、ルカシェンコ氏は侵攻で国民の支持を失うことを恐れている」と指摘。同国軍参戦の可能性は現時点でそれほど高くないとする見方を示した[236]。
- ウクライナの戦略コミュニケーション・情報セキュリティーセンターはプーチンとルカシェンコの会談の結果、ベラルーシがウクライナへの攻撃に踏み切る恐れがあるとし、「暫定データによると、ベラルーシ軍は11日GMT19:00に紛争に巻き込まれる可能性がある」と述べた。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、ウクライナはこれまでベラルーシに対し抑制的な姿勢を示しているものの、「兵士1人がウクライナの国境を越えれば、反撃する」と言明した[237]。
- イェニン内務次官はウクライナでの紛争にベラルーシを引きずり込むためにロシアがあらゆる手段を講じているとテレビのインタビューで述べた。同時に「ベラルーシ政府が紛争への関与を避けるためにあらゆる手段を講じていることも理解している」と語った[238]。
- ウクライナ空軍は、ベラルーシの飛行場から離陸したロシアの軍用機がウクライナ領空を通過した後、ベラルーシのホメリ州レチツァ市郊外のコパーニ村を襲撃したとの情報を、国境警備当局が午後2時30分に入手したと発表した。また、同じ作戦でベラルーシの他の2地域も標的にされたという。ウクライナ空軍はオンライン声明で「これは挑発行為であり、ベラルーシ共和国軍をウクライナとの紛争に巻き込むことが目的だ」と強く批判。国境警備当局も「ウクライナ軍はベラルーシ共和国に対する攻撃行為を計画していないし、する予定もないと正式に宣言する」との声明を発表した[239]。一方でウクライナの国際政治学者アンドリー・グレンコは12日未明Twitterに今回の空爆の目的を「ベラルーシ軍に対ウクライナ参戦の口実を与える為」「これからロシアのプロパガンダは『ウクライナ空軍はベラルーシの町を攻撃した』と主張します」「全てはルカシェンコの了承済み」と分析した記事を投稿した[240]。
- ロシア国防省は、ウクライナ東南部ドネツィク州ヴォルノヴァーハ市を制圧したと発表した[241]。
詳細は「ヴォルノヴァーハの戦い」を参照
- ウクライナ国営通信は、ロシア軍の爆撃機がベラルーシ領内の複数の集落を空爆したと報じた。ウクライナの軍や内務省は、ロシアが同盟国のベラルーシに派兵を迫るため、ウクライナによる攻撃と見せかける偽装工作を行ったと指摘した[242]。
- ウクライナ南東部のメリトポリで、イワン・フョードロフ市長が同市の危機管理センターで物資供給問題に対処中、10人のロシア兵に拉致された[243]。
- 「アメリカがウクライナと生物兵器を開発している」と主張するロシアの要請により国連安全保障理事会の緊急会合が開かれ、ロシアと擁護の姿勢を見せる中国の調査要請に対し、国連及びアメリカ、イギリス、フランス、アルバニアなどがロシアの主張を一蹴し、非難した[244]。
- ウラジーミル・プーチン大統領は安全保障会議の場でウクライナ軍との戦いに加わりたい志願兵の参加を認めるべきとの見解を示した。また、ウクライナから奪った西側のミサイルシステムを親ロシア派武装勢力に提供することを承認した[245]。
3月13日
- ウクライナ軍当局がポーランド国境から約20キロメートルと近いリヴィウ北西にある演習場がロシア軍の攻撃を受けたと発表した[246]。30発以上のミサイルが発射され、35人が死亡、134人が負傷した[246]。ロシアがウクライナ西部の軍事拠点にも攻撃対象を広げていたこととなる[246]。
- ウォール・ストリート・ジャーナルは、「ロシアの検察当局が、同国事業の停止や撤退を発表した外国企業に対し、電話や書簡もしくは職員の訪問を通じて、ロシア政府を批判した関係者の逮捕・知的財産を含む資産の差し押さえなどを警告した」と報じた。これらの企業にはコカ・コーラ、マクドナルド、P&G、IBM、ケンタッキーフライドチキンとピザハットの経営企業であるヤム・ブランズが含まれるという。また対象企業のうち少なくとも1社は、従業員間の電子メールやテキストメッセージが傍受される恐れがあるとして、ロシア事業部門とそれ以外の部門との間の通信制限に乗り出した[247]。
3月14日
3月15日
- ロシア外務省は、アメリカなどによる制裁の報復として、同国のバイデン大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官、ヒラリー・クリントン元国務長官などアメリカ政府高官と関係者13人、さらにカナダのジャスティン・トルドー首相などを入国禁止としたことを発表した[249][250]。
- 在英NGOのシリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)は、11日の義勇兵受け入れの表明に伴い、ロシア政府がシリア国内の体制支配地域で志願兵の登録事務所を開設、シリア軍や政権側民兵組織と調整し志願兵約4万人分のリストを作成したと伝えた。このほか、シリアの政権与党バース党(Baath Party)を通じて、別に1万8000人が志願兵として登録されており、ロシアの民間軍事会社「ワグナー・グループ(Wagner Group)」が審査する運び。ただし、これまでシリアから志願兵が出発したとの情報は確認されていないという[251]。
- アメリカ政府は、欧州とアジアの同盟国に対し「中国政府はロシアからの軍事面並びに財政面での支援要請にある程度前向きな姿勢を示したとみられる」「支援が提供されたかについては明言できない」「軍事支援に関しては、中国は支援の提供を否定する公算が大きい」と外交公電を通じて伝えた。同時に、西側の当局者と米外交官はCNNの取材に対して「中国がロシアに支援を提供するつもりなのかどうかはまだ判然としない」と述べた。また米国政府高官のひとりによれば、ローマで開かれた会合で、バイデン米大統領の最側近の1人は中国側に向け、「ロシアへの支援に踏み切ろうとするならそれに対する結果や影響が生じる可能性がある」と警告したという。
戦闘序列
被害状況
ウクライナ
- 2月24日
- 2月25日
- 2月26日
- 午後5時時点で、OHCHRはウクライナで64人の死者を含めて少なくとも民間人240人の負傷者が出ていると報告し、国際連合人道問題調整事務所(OCHA)は実際の人数はこれよりもさらに多い可能性を指摘している[265]。また国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、16万人以上が国内避難民となり、11万6千人以上が近隣諸国への避難を余儀なくされているとした[265]。
- 首都キエフにミサイル2発が撃ち込まれ、キエフ市政府は、1発は住宅用ビルに、もう1発はジュリャーヌィ空港近くに着弾したと発表した[266]。
- 2月27日
- 3月1日、キエフではテレビ塔が砲撃され、5人の死者が確認された。近くにあるバビ・ヤールホロコースト慰霊地も破壊された[270]。テレビ塔への攻撃は表現の自由と情報を広め受け取る権利を保護する目的で報道基盤への攻撃を回避する国連安全保障理事会決議 2222(2015)に反することや、慰霊地という文化遺産の破壊から、国際連合教育科学文化機関 (ユネスコ) は遺憾の意を後日表明した[271]。ハリコフでは、地方行政官が地方庁舎がミサイル攻撃を受けた瞬間を撮影した動画を配信した[272]。
- 3月2日、ロシア国防省は、今回の軍事作戦によるロシア軍の死者数を初めて公表し、498人が死亡、負傷者は1597人とした。またウクライナ側の死者は2870人以上、負傷者は約3700人としている[273]。
- 3月4日午前2時(ウクライナ時間)、ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所がロシア軍の攻撃を受け、火災が発生していると、地元のエネルゴダールの市長がフェイスブックに投稿した。ドミトロ・クレーバ外相も砲撃による原発の火災をTwitterで明らかにした[274][275]。国際原子力機関(IAEA)は、主要設備に影響はないとウクライナ当局から報告を受けたことを明らかにした[276]。
- 3月9日
- ウクライナ当局は、ロシア軍がマリウポリの産科・小児科病院を爆撃したと発表した。約10日間にわたりロシア側の包囲攻撃が続き、マリウポリのオルロフ副市長は、市民1170人が死亡したと明らかにした[277]。ゼレンスキー大統領は「人々や子どもたちが残骸の下敷きになっている。残虐行為だ。世界はいつまでテロを無視する共犯者でいるのか」と声明を出した[278]。
詳細は「マリウポリの病院への爆撃」を参照
- ロシア軍により占拠されているチェルノブイリ原子力発電所の電源がロシアの軍事行動により切断されたことをウクルエネルゴ社とエネルゴアトム社とが公表した[279][280]。これを受け、ウクライナの原子力規制監督当局は「チェルノブイリ原発には緊急用のディーゼル発電機が準備されており、48時間はバックアップが可能だ」と声明を発表。一方で、原発周囲での戦闘で電力ケーブルの補修作業が難航しているほか、停電の影響は他の町にも影響し、原発職員との電話による通信も途絶えている事を伝えた[281]。ウクライナ当局から説明を受けたIAEAのラファエル・グロッシ事務局長は「使用済み燃料貯蔵施設に関しては、プール内に十分な量の冷却水があり、電力の供給がなくても使用済み燃料からの効果的な熱除去を維持できる。ディーゼル発電機とバッテリーによる非常用の予備電源もある」との具体的理由とともに「安全性に重大な影響を与えないとみている」とコメントした[282][283]。一方で、8日にチェルノブイリ、9日にザポリージャ原子力発電所の監視システムからのデータ送信が停止したことに触れ、グロッシ事務局長は2つの原発の状況を把握できない事に対し懸念を表明した[284][285]。
- ウクライナ当局は、ロシア軍がマリウポリの産科・小児科病院を爆撃したと発表した。約10日間にわたりロシア側の包囲攻撃が続き、マリウポリのオルロフ副市長は、市民1170人が死亡したと明らかにした[277]。ゼレンスキー大統領は「人々や子どもたちが残骸の下敷きになっている。残虐行為だ。世界はいつまでテロを無視する共犯者でいるのか」と声明を出した[278]。
- 3月10日、ロシア軍は、ハリコフにある核物質を扱う「物理技術研究所」を再び攻撃。ウクライナのメディアは、建物の表面が損傷し、付近の宿舎で火災が起きたと報じた[286]。
- 3月11日、ロシア軍は、ハリコフ州イジューム近郊の精神病院を攻撃。同州のシネグボフ知事は戦争犯罪に当たると非難した[287]。ウクライナ政府はロシア軍が掌握したとする南部の都市メリトポリで同市のイワン・フェドロフ市長がロシア軍に拉致されたと訴え、「戦時に民間人を人質に取ることを禁じたジュネーブ条約などで、戦争犯罪に分類されるものだ」と非難する声明した[288]。ウクライナ政府が公開した監視カメラの映像では、男性が腕を捕まれて軍服を着た集団に連れ去られるような様子が確認出来き、ゼレンスキー大統領は、「明らかに侵略者の弱さの表れだ」と述べ、軍事侵攻を進めるロシア側が、新たな手法でウクライナ側に圧力を強めようとしていると非難した[288]。
- 3月14日、攻撃は西部に及び、リブネのテレビ塔がミサイルで攻撃され9人が死亡した[289]。
難民
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による難民数の発表によると、3月11日の時点で、250万人以上が難民として国外に避難した[290]。3月15日、アントニオ・ヴィトリーノ事務局長はTwitterで、300万人を超えたと発表した[44]。
避難先は3月3日時点で、
略奪・性的暴行
2月26日、ロイター通信は、コノトプ北東部でロシア軍の兵站の問題から進軍を停止した際、町の商店がロシア兵に襲撃され略奪があったと報道した[292]。
3月4日、ドミトロ・クレーバ外相は同国に侵攻した兵士が女性に対し性的暴行をはたらいていると非難。ロシアによる侵略行為を罰する特別法廷の設置の支持を表明[293]。
フェイクニュース・デマ動画拡散
侵攻以後は、TwitterなどのSNSで、アメリカの戦闘機F-16をロシア戦闘機とする動画や、2020年の軍事パレードの練習風景の映像、ロシアのパラシュート部隊の映像は2016年制作の映像であったり、2011年のリビア国軍の戦闘機がベンガジで反政府組織に撃墜された際の映像、発電所への落雷を空爆の映像と称したり、中国語話者が2020年ベイルート港爆発事故の映像を「プーチン大王がウクライナを攻撃」と説明して投稿したりしており、これらはすべてフェイクニュースやデマであることがBBCの精査で分かった[294]。
日本でも一部メディアが海外記事元の真偽不明な記事を取り上げた事例も発生している。中日スポーツは、2月25日付でイギリスのタブロイド紙である