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COVAXは、COVID-19の診断、治療、COVID-19ワクチンへの公平なアクセスを可能にするために国際的なリソースを調整することを目的としている

COVAX  

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

COVAX(こばっくす、COVID-19 Vaccines Global Accessの略)は、COVID-19ワクチンへの公平なアクセスを目的としたグローバルな取り組みで、GAVIアライアンス(GAVI)、世界保健機関(WHO)、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)などが主導する。これは、COVID-19パンデミックへの対応として、世界保健機関(WHO)、欧州委員会EU)、およびフランス政府によって2020年4月に開始したイニシアチブ「Access to COVID-19 Tools Accelerator英語版」の3本柱の1つである。COVAXは、COVID-19の診断、治療、COVID-19ワクチンへの公平なアクセスを可能にするために国際的なリソースを調整することを目的としている[1]

2020年7月15日までに、人口の60%を占める165カ国がCOVAXに加盟した[2]

ワクチン候補 

COVAXの恩恵を受ける国の多くは「規制能力が限られており」、WHOの認可に依存している。2021年初頭までに、WHOは緊急使用リスト(EUL)のために11種類のCOVID-19ワクチンを審査していた[3]。2020年12月31日、WHOが初めてEULを承認したのは、ファイザー社とバイオンテック社が協同で開発したファイザー-バイオンテックCOVID-19ワクチンで、Comirnaty(コミナティ)というブランド名で販売されているRNAワクチンである[4][5]

WHOは、2020年8月24日のプレスリリースで、COVAXにはCEPIがサポートする9つのワクチン候補と9つの試験中の候補があり、COVID-19ワクチンの選択肢が世界で最も多いと述べた[6]。12月までに、COVAXは他のメーカーとの交渉を最終的に完了し、20億回分のワクチンを入手できるようになった[7]

配布 (受領) 

COVAXは開発途上国にワクチンを提供している[8]。合計92カ国の中低所得国が、COVAXの仕組みを利用して[9]、COVAXワクチン先行市場コミットメント(AMC)という資金調達手段を通じてCOVID-19ワクチンを受け取る資格を得ている[9][10]。COVAX AMCはドナーからの拠出金で賄われている[10]。COVAX AMCは、ワクチン調達プラットフォームであるCOVAXファシリティに資金を提供している[10]

2021年2月3日、GAVI、WHO、ユニセフは、2021年上半期のファイザー-バイオンテックとオックスフォード-アストラゼネカのワクチンの国別分布予測を発表した[11]。早期の予測では、ファイザー-バイオンテックワクチンは2021年第1四半期に120万回分が、オックスフォード-アストラゼネカCOVID-19ワクチンは2021年上半期に145のCOVAXファシリティ参加者に3億3600万回分が含まれている[12][13]。医療従事者や最も弱い立場にある人々が最初の接種を受けると予想され、2021年上半期末までに各参加国の総人口の約3.3%に達すると予想されている[13]

2021年2月、WHOとChubb Limited(チャブ)社は、低中所得国を対象としたCOVID-19ワクチン接種に対する無過失補償制度の導入を発表した。これは、当初はGavi COVAX AMC資金によって賄われていた[14]

2021年2月24日、ガーナは世界で初めてCOVAXによるワクチン接種を受けた国となり、オックスフォード-アストラゼネカワクチン60万用量がアクラに届けられた[8][15]

2021年2月3日時点の中間配布予測 (用量)[13]AMC: 事前市場コミットメント (Advance Market Commitment) SFP:自己資金参加 (Self-Financing Participants)
参加者 SFP/AMC アストラゼネカ
SII
アストラゼネカ
SK Bioscience
ファイザー/バイオンテック 合計
インドの旗 インド AMC 97,164,000 - - 97,164,000
パキスタンの旗 パキスタン AMC 17,160,000 - - 17,160,000
ナイジェリアの旗 ナイジェリア AMC 16,008,000 - - 16,008,000
インドネシアの旗 インドネシア AMC - 13,708,800 - 13,708,800
バングラデシュの旗 バングラデシュ AMC 12,792,000 - - 12,792,000
ブラジルの旗 ブラジル SFP - 10,672,800 - 10,672,800
エチオピアの旗 エチオピア AMC 8,928,000 - - 8,928,000
コンゴ民主共和国の旗 コンゴ民主共和国 AMC 6,948,000 - - 6,948,000
メキシコの旗 メキシコ SFP - 6,472,800 - 6,472,800
フィリピンの旗 フィリピン AMC - 5,500,800 117,000 5,617,800
エジプトの旗 エジプト AMC - 5,138,400 - 5,138,400
ベトナムの旗 ベトナム AMC - 4,886,400 - 4,886,400
ミャンマーの旗 ミャンマー AMC 4,224,000 - - 4,224,000
イランの旗 イラン SFP - 4,216,800 - 4,216,800
ケニアの旗 ケニア AMC 4,176,000 - - 4,176,000
ウガンダの旗 ウガンダ AMC 3,552,000 - - 3,552,000
スーダンの旗 スーダン AMC 3,396,000 - - 3,396,000
南アフリカ共和国の旗 南アフリカ SFP - 2,976,000 117,000 3,093,000
アフガニスタンの旗 アフガニスタン AMC 3,024,000 - - 3,024,000
大韓民国の旗 韓国 SFP - 2,596,800 117,000 2,713,800
コロンビアの旗 コロンビア SFP - 2,553,600 117,000 2,670,600
ウズベキスタンの旗 ウズベキスタン AMC 2,640,000 - - 2,640,000
アンゴラの旗 アンゴラ AMC 2,544,000 - - 2,544,000
モザンビークの旗 モザンビーク AMC 2,424,000 - - 2,424,000
ガーナの旗 ガーナ AMC 2,412,000 - - 2,412,000
ウクライナの旗 ウクライナ AMC - 2,215,200 117,000 2,332,200
イエメンの旗 イエメン AMC 2,316,000 - - 2,316,000
アルゼンチンの旗 アルゼンチン SFP - 2,275,200 - 2,275,200
ネパールの旗 ネパール AMC 2,256,000 - - 2,256,000
アルジェリアの旗 アルジェリア AMC - 2,200,800 - 2,200,800
カメルーンの旗 カメルーン AMC 2,052,000 - - 2,052,000
コートジボワールの旗 コートジボワール AMC 2,040,000 - - 2,040,000
イラクの旗 イラク SFP - 2,018,400 - 2,018,400
朝鮮民主主義人民共和国の旗 朝鮮民主主義人民共和国 AMC 1,992,000 - - 1,992,000
カナダの旗 カナダ SFP - 1,903,200 - 1,903,200
モロッコの旗 モロッコ AMC - 1,881,600 - 1,881,600
ニジェールの旗 ニジェール AMC 1,872,000 - - 1,872,000
ペルーの旗 ペルー SFP - 1,653,600 117,000 1,770,600
サウジアラビアの旗 サウジアラビア SFP - 1,747,200 - 1,747,200
スリランカの旗 スリランカ AMC 1,692,000 - - 1,692,000
マレーシアの旗 マレーシア SFP - 1,624,800 - 1,624,800
ブルキナファソの旗 ブルキナファソ AMC 1,620,000 - - 1,620,000
マリ共和国の旗 マリ AMC 1,572,000 - - 1,572,000
マラウイの旗 マラウイ AMC 1,476,000 - - 1,476,000
ザンビアの旗 ザンビア AMC 1,428,000 - - 1,428,000
ベネズエラの旗 ベネズエラ SFP - 1,425,600 - 1,425,600
Non-UN Member States N/A - 1,303,200 - 1,303,200
カンボジアの旗 カンボジア AMC 1,296,000 - - 1,296,000
セネガルの旗 セネガル AMC 1,296,000 - - 1,296,000
チャドの旗 チャド AMC 1,272,000 - - 1,272,000
ソマリアの旗 ソマリア AMC 1,224,000 - - 1,224,000
ジンバブエの旗 ジンバブエ AMC 1,152,000 - - 1,152,000
ギニアの旗 ギニア AMC 1,020,000 - - 1,020,000
シリアの旗 シリア AMC 1,020,000 - - 1,020,000
ボリビアの旗 ボリビア AMC 900,000 - 92,430 992,430
チリの旗 チリ SFP - 957,600 - 957,600
ベナンの旗 ベナン AMC 936,000 - - 936,000
ルワンダの旗 ルワンダ AMC 996,000 -102,960   893,040
エクアドルの旗 エクアドル SFP - 885,600 - 885,600
ハイチの旗 ハイチ AMC 876,000 - - 876,000
南スーダンの旗 南スーダン AMC 864,000 - - 864,000
グアテマラの旗 グアテマラ SFP - 847,200 - 847,200
タジキスタンの旗 タジキスタン AMC 732,000 - - 732,000
チュニジアの旗 チュニジア AMC - 592,800 93,600 686,400
パプアニューギニアの旗 パプアニューギニア AMC 684,000 - - 684,000
トーゴの旗 トーゴ AMC 636,000 - - 636,000
シエラレオネの旗 シエラレオネ AMC 612,000 - - 612,000
ラオスの旗 ラオス AMC 564,000 - - 564,000
ドミニカ共和国の旗 ドミニカ共和国 SFP - 542,400 - 542,400
ヨルダンの旗 ヨルダン SFP - 511,200 - 511,200
アゼルバイジャンの旗 アゼルバイジャン SFP - 506,400 - 506,400
キルギスの旗 キルギス AMC 504,000 - - 504,000
ニカラグアの旗 ニカラグア AMC 504,000 - - 504,000
ホンジュラスの旗 ホンジュラス AMC - 496,800 - 496,800
コンゴ共和国の旗 コンゴ共和国 AMC 420,000 - - 420,000
リベリアの旗 リベリア AMC 384,000 - - 384,000
エルサルバドルの旗 エルサルバドル AMC - 324,000 51,480 375,480
中央アフリカ共和国の旗 中央アフリカ共和国 AMC 372,000 - - 372,000
モーリタニアの旗 モーリタニア AMC 360,000 - - 360,000
パラグアイの旗 パラグアイ SFP - 357,600 - 357,600
セルビアの旗 セルビア SFP - 345,600 - 345,600
リビアの旗 リビア SFP - 343,200 - 343,200
レバノンの旗 レバノン SFP - 340,800 - 340,800
シンガポールの旗 シンガポール SFP - 288,000 - 288,000
パレスチナの旗 パレスチナ AMC - 240,000 37,440 277,440
コスタリカの旗 コスタリカ SFP - 254,400 - 254,400
オマーンの旗 オマーン SFP - 254,400 - 254,400
ニュージーランドの旗 ニュージーランド SFP - 249,600 - 249,600
パナマの旗 パナマ SFP - 216,000 - 216,000
ジョージア (国)の旗 ジョージア SFP - 184,800 29,250 214,050
モンゴル国の旗 モンゴル AMC - 163,200 25,740 188,940
モルドバの旗 モルドバ AMC - 156,000 24,570 180,570
ガンビアの旗 ガンビア AMC 180,000 - - 180,000
ボスニア・ヘルツェゴビナの旗 ボスニア・ヘルツェゴビナ SFP - 153,600 23,400 177,000
ウルグアイの旗 ウルグアイ SFP - 172,800 - 172,800
レソトの旗 レソト AMC 156,000 - - 156,000
アルメニアの旗 アルメニア SFP - 146,400 - 146,400
ジャマイカの旗 ジャマイカ SFP - 146,400 - 146,400
ギニアの旗 ギニア AMC 144,000 - - 144,000
カタールの旗 カタール SFP - 144,000 - 144,000
アルバニアの旗 アルバニア SFP - 141,600 - 141,600
ナミビアの旗 ナミビア SFP - 127,200 - 127,200
ボツワナの旗 ボツワナ SFP - 117,600 - 117,600
ブータンの旗 ブータン AMC 108,000 - 5,850 113,850
カーボベルデの旗 カーボベルデ AMC 108,000 - 5,850 113,850
コモロの旗 コモロ AMC 108,000 - - 108,000
ジブチの旗 ジブチ AMC 108,000 - - 108,000
エスワティニの旗 エスワティニ AMC 108,000 - - 108,000
ソロモン諸島の旗 ソロモン諸島 AMC 108,000 - - 108,000
北マケドニア共和国の旗 北マケドニア共和国 SFP - 103,200 - 103,200
モルディブの旗 モルディブ AMC 108,000 -5,850   102,150
バハマの旗 バハマ SFP - 100,800 - 100,800
バーレーンの旗 バーレーン SFP - 100,800 - 100,800
バルバドスの旗 バルバドス SFP - 100,800 - 100,800
ベリーズの旗 ベリーズ SFP - 100,800 - 100,800
ブルネイの旗 ブルネイ SFP - 100,800 - 100,800
フィジーの旗 フィジー AMC - 100,800 - 100,800
ガイアナの旗 ガイアナ AMC - 100,800 - 100,800
コソボの旗 コソボ AMC - 100,800 - 100,800
モーリシャスの旗 モーリシャス SFP - 100,800 - 100,800
東ティモールの旗 東ティモール AMC - 100,800 - 100,800
トリニダード・トバゴの旗 トリニダード・トバゴ SFP - 100,800 - 100,800
バヌアツの旗 バヌアツ AMC - 100,800 - 100,800
サントメ・プリンシペの旗 サントメ・プリンシペ AMC 96,000 - - 96,000
モンテネグロの旗 モンテネグロ SFP - 84,000 - 84,000
サモアの旗 サモア AMC - 79,200 - 79,200
スリナムの旗 スリナム SFP - 79,200 - 79,200
セントルシアの旗 セントルシア AMC - 74,400 - 74,400
キリバスの旗 キリバス AMC - 48,000 - 48,000
ミクロネシア連邦の旗 ミクロネシア連邦 AMC - 48,000 - 48,000
グレナダの旗 グレナダ AMC - 45,600 - 45,600
セントビンセント・グレナディーンの旗 セントビンセント・グレナディーン AMC - 45,600 - 45,600
トンガの旗 トンガ AMC - 43,200 - 43,200
アンティグア・バーブーダの旗 アンティグア・バーブーダ SFP - 40,800 - 40,800
ドミニカ国の旗 ドミニカ国 AMC - 28,800 - 28,800
アンドラの旗 アンドラ SFP - 26,400 - 26,400
マーシャル諸島の旗 マーシャル諸島 AMC - 24,000 - 24,000
セントクリストファー・ネイビスの旗 セントクリストファー・ネイビス SFP - 21,600 - 21,600
モナコの旗 モナコ SFP - 7,200 - 7,200
ナウルの旗 ナウル SFP - 7,200 - 7,200
ツバルの旗 ツバル AMC - 4,800 - 4,800

参加者 (拠出) 

COVAXは主に欧米の豊かな国々から資金提供を受けている[8]。2021年2月19日現在、30カ国が、欧州連合と同様に、COVAXファシリティへのコミットメント契約に署名している。

COVAXスキームは主に政府(政府開発援助)からの資金提供を受けているが、民間企業や慈善事業からの寄付によっても資金提供を受けており、受領国はワクチンや配送にかかる費用の一部を分担することもある[10]

 

2021年2月19日現在のCOVAX-AMCドナー(100万米ドル)[16]
 ·  · 
Donor Contributions
アメリカ合衆国の旗 アメリカ 2,500
ドイツの旗 ドイツ 1,093
イギリスの旗 イギリス 735
欧州連合の旗 欧州連合 489
日本の旗 日本 200
カナダの旗 カナダ 181
Bill & Melinda Gates Foundation 156
サウジアラビアの旗 サウジアラビア 153
ノルウェーの旗 ノルウェー 141
フランスの旗 フランス 122
イタリアの旗 イタリア 104
オーストラリアの旗 オーストラリア 61
スペインの旗 スペイン 61
オランダの旗 オランダ 37
オーストリアの旗 オーストリア 32
Reed Hastings and Patty Quillin 30
スウェーデンの旗 スウェーデン 24
Anonymous Foundation 22
スイスの旗 スイス 22
ニュージーランドの旗 ニュージーランド 12
クウェートの旗 クウェート 10
カタールの旗 カタール 10
Shell 10
大韓民国の旗 韓国 10
TikTok 10
デンマークの旗 デンマーク 8
ベルギーの旗 ベルギー 5
アイルランドの旗 アイルランド 5
シンガポールの旗 シンガポール 5
Wise 5
Soccer Aid 4
Thistledown Foundation 4
ギリシャの旗 ギリシャ 2
アイスランドの旗 アイスランド 2
コロンビアの旗 コロンビア 1
KSRelief 1
ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク 1
Mastercard 1
エストニアの旗 エストニア 0.1
モナコの旗 モナコ 0.1
Nikkei, Inc. 1
Medline International 0.02
ブータンの旗 ブータン 0.01
Total 6,268

欧州連合 

2020年11月現在、欧州連合EU)とEU加盟国はCOVAXに8億7000万ユーロを公約した[17]。2020年8月31日、欧州委員会(EC)はEUがCOVAXに参加し、4億ユーロの保証を公約したが[18]、この資金がどのように支払われるのか、その条件は明言しなかった[19]。11月12日、ECはGAVIへの助成金を通じて、第11次欧州開発基金からさらに1億ユーロをCOVAXに拠出することを約束した。他のEU加盟国も追加の誓約を行い、フランスは1億ユーロ、スペインは5,000万ユーロ、フィンランドは200万ユーロを追加で寄付した。

ドイツ連邦共和国外務省によると、ドイツは欧州連合EU)を通じてCOVAXに参加し、発展途上国におけるCOVID-19の治療に3億ユーロを公約した[20]

イギリス 

英国はCOVAXに5億4800万ポンドを提供した[21]。英国は、ドイツと米国に追い抜かれるまで、COVAX-AMCへの最大の単一ドナーであった[22]

アメリ 

孤立主義的なアメリカ・ファースト政策の一環として[23]トランプ政権英語版は2020年9月1日、2020年7月6日に1年間の脱退手続きを開始したWHOとの関連を理由に[24][25]、COVAXに参加しないと表明した[26]

ジョー・バイデン氏は2020年の選挙でトランプ氏を破り、就任初日の2021年1月20日、バイデン政権は米国がWHOに残留し、COVAXに参加すると発表した。この米国の方針の逆転(アンソニー・ファウチ主席医務官)は世界的に歓迎された[27][28]。2月19日、米国は40億ドルの拠出を約束し、COVAXへの単独最大の貢献者となった[29]

脚注 

  1. ^ COVAX explained”. gavi.orgGAVI2020年11月15日閲覧。
  2. ^ World Health Organization (2020年7月15日). “More than 150 countries engaged in COVID-19 vaccine global access facility”2021年2月3日閲覧。
  3. ^ Widianto, Stanley (2021年1月29日).“COVAX to ship enough shots for 3% of poor countries' populations in H1 - WHO”.Reuters (Jakarta2021年2月3日閲覧。
  4. ^ Comirnaty EPAR”. European Medicines Agency (EMA)2020年12月23日閲覧。
  5. ^ “WHO issues its first emergency use validation for a COVID-19 vaccine and emphasizes need for equitable global access” (プレスリリース), (2020年12月31日) 2021年1月6日閲覧。
  6. ^ “172 countries and multiple candidate vaccines engaged in COVID-19 vaccine Global Access Facility” (プレスリリース), (2020年8月24日) 2021年2月4日閲覧。
  7. ^ “COVAX Announces additional deals to access promising COVID-19 vaccine candidates; plans global rollout starting Q1 2021” (プレスリリース), (2020年12月18日) 2021年2月4日閲覧。
  8. a b c Gabriele Steinhauser, Ghana Is First Nation to Get Free Covid-19 Vaccines Under Covax PlanWall Street Journal(February 24, 2021).
  9. a b 92 low- and middle-income economies eligible to get access to COVID-19 vaccines through Gavi COVAX AMC, Gavi, the Vaccine Alliance (31 July 2020).
  10. a b c d Seth Berkley. “The Gavi COVAX AMC Explained”. Gavi, the Vaccine Alliance. 2020年2月27日閲覧。
  11. ^ Jerving, Sara (2021年2月3日). “COVAX releases country-by-country of vaccine distribution figures”Devex 2021年2月3日閲覧。
  12. ^ COVAX publishes first interim distribution forecast”. Gavi (2021年2月3日). 2020年2月24日閲覧。
  13. a b c The Covax Facility: Interim Distribution Forecast – latest as of 3 February 2021”. COVAX (2021年2月3日). 2020年2月24日閲覧。
  14. ^ World’s first COVID-19 vaccination compensation scheme launched”. Health Europa. 2021年2月24日閲覧。
  15. ^ Covid: WHO scheme Covax delivers first vaccines”. BBC2021年2月24日閲覧。
  16. ^ Key Outcomes: COVAX AMC 2021”. Gavi. 2020年2月24日閲覧。
  17. ^ “EU increases its contribution to COVAX to €500 million to secure COVID-19 vaccines for low and middle-income countries” (プレスリリース), (2020年11月12日) 2021年2月3日閲覧。
  18. ^ “Coronavirus Global Response: Commission joins the COVID-19 Vaccine Global Access Facility (COVAX)” (プレスリリース), (2020年8月31日) 2021年2月4日閲覧。
  19. ^ Guarascio, Francesco; Nebehay, Stephanie (2020年8月31日). “EU offers 400 million euros to WHO-led COVID-19 vaccine initiative”Reuters 2021年2月4日閲覧。
  20. ^ “Corona-Impfstoff weltweit fair verteilen: GAVI kündigt erste Lieferung von Impfdosen über COVAX an” (ドイツ語).Federal Foreign Office (Federal Republic of Germany). (2021年2月3日) 2021年2月3日閲覧。
  21. ^ “Corona-Covax: How will Covid vaccines be shared with poorer countries? an” (英語). BBC News (BBC). (2021年1月26日) 2021年2月4日閲覧。
  22. ^ Key Outcomes: COVAX AMC”. Gavi. 2020年2月24日閲覧。
  23. ^ Williams, Abigail (2020年9月3日). “U.S. opts out of WHO-linked global COVID-19 vaccine effort”NBC News 2021年2月3日閲覧。
  24. ^ Beer, Thomas (2020年9月1日). “U.S. Won’t Join Global Coronavirus Vaccine Effort Because It’s Led By The WHO”.Forbes 2020年11月15日閲覧。
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  26. ^ Smith, Allan; Perlmutter-Gumbiner, Elyse (2020年7月7日). “Trump administration gives formal notice of withdrawal from WHO”NBC News 2021年2月3日閲覧。
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外部リンク 

 

ほとんどのクモは虫を殺す程度の毒を持っているが、人間に影響を持つほどのものは世界でも数種に限られる。

クモ   

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

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クモ目
 
様々なクモ類
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモガタ綱(クモ綱) Arachnida
階級なし : 蛛肺類 Arachnopulmonata
階級なし : 四肺類 Tetrapulmonata
: クモ目 Araneae
学名
Araneae
Clerck, 1757
英名
Spider
亜目

クモ蜘蛛spider)は、節足動物門鋏角亜門クモガタ綱クモ目(クモもく、Araneae)に属する動物の総称である。を張り、を捕食することで一般によく知られている。クモ目を指してクモ類ともいうが、クモガタ類やフツウクモ類との区別のために真正クモ類と呼称することもある。この類の研究分野はクモ学といわれる。

概説 

クモはを出し、鋏角毒腺を持ち、それを用いて小型動物を捕食する、肉食性の陸上節足動物の1群である。糸を使ってを張ることでよく知られるが、実際にはほぼ半数の種が網を張らずに獲物を捕まえる。人間に害をなすほどの毒を持つものはごく少数に限られる。

昆虫多足類などの陸生節足動物と同様に「虫」と扱う動物群の一つであるが、六脚亜門に属する昆虫とは全く別のグループ(鋏角亜門クモガタ綱)に属する。昆虫との主な区別点は、の数が8本であること、体は前体と後体の2部のみによって構成されること、触角を欠くことなどがある。

外部形態 

クモ類の外部形態:1:脚、2:頭胸部(前体)、3:腹部(後体)

体は頭胸部(前体)と袋状の腹部(後体)からなり、両者は細い腹柄によってつながる[1]

頭胸部(前体) 

前体(prosoma)は先節と6つの体節から癒合し[2]、一般に「頭胸部」(cephalothorax)と呼ばれる。他のクモガタ類と同様、ここには鋏角1対・触肢1対・歩脚4対という計6対の付属肢関節肢)がある[2]。口の前には鎌状になった鋏角があり、クモ類ではこれを「上顎」とも呼ぶ。その後ろからは1対の触肢と4対の歩脚が並んでいる。

頭胸部背面の外骨格は完全に一体化した背甲(carapace)であるが、第1歩脚の基部のあたりから前後には高さや形に差があることがある。特にその間に溝がある場合、頸溝という。前部にはがあり、基本的には8つの目が2列に並んでいるが、その配列や位置は科によって異なり、分類上重要な特徴になっている。網を張らずに生活するクモでは、そのうちのいくつかが大きくなっているものがある。一部の群では紫外線を見ることができる。

歩脚をもつ部位は多くの場合に目と鋏角をもつ前部より幅広く、背面の中央には小さなくぼみがあることが多く、これを中窪という。また歩脚の隙間に向かって溝が走ることも多く、これを放射溝という。

附属肢 

鋏角(chelicerae、上顎)は鎌状(ナイフ状、亜鋏状)で、先端が鋭く、獲物にこれを突き刺して、を注入する。触肢の基節は鋏角の下面で下顎を形成する。触肢(pedipalps)は歩脚状で、普通のクモでは歩脚よりずっと小さく、鋏角の補助のように見えるが、原始的なクモでは見掛けでは歩脚に似通う。

歩脚の先端にはがある。造網性のクモでは大きい爪2本と小さい爪1本があるが、徘徊性のクモでは、小さい爪のかわりに吸盤状の毛束がある。歩脚は第一脚が長いものが多いが、それぞれの長さの特徴はそれぞれの群である程度決まっている。

なお、脚の向きにも特徴がある。よく見かけられるコガネグモ科などでは前二対が前に向き、後ろ二対が後ろ向きになっている。この型を「前行性」という。それに対してカニグモ科やアシダカグモなどでは前三対が前を向くか、四対とも先端が前向きになっているかのいずれかで、横向きに動くわけではないがこの型を「横行性」という。

腹部(後体) 

後体(opisthosoma)は腹部(abdomen)ともいい、12節を含む[2]が、普通は外見上から体節が見られない。外骨格は柔らかく、全体に袋状になっている。そのうち第1節は頭胸部につなぐ幅狭い腹柄となる[2]。腹部の裏面前方には、通常1対の書肺という呼吸器官があり、その間に生殖腺が開いている。腹部後端には数対の出糸突起(糸疣)がある。その後ろに肛門がある。

ただし上述の特徴は普通のクモ、いわゆるクモ下目の特徴である。キムラグモなど原始的なハラフシグモ亜目では、腹部に体節が見られ、糸疣は腹部下面中央に位置し、書肺は2対で4つある[2]。触肢は歩脚とほぼ同じで、全体では脚が5対あるように見える。トタテグモ類とオオツチグモ類が属するトタテグモ下目は、腹部に節がなく、糸疣は腹端にあるが、他はハラフシグモ類と同じである。

出糸突起 

出糸突起は、腹部の第4-5節に由来の付属肢である[2]糸疣」(spinnerets)という。普通のクモ類では腹部後端にあるが、ハラフシグモ類では腹部の中央にある。

キムラグモなどハラフシグモ類では出糸突起は腹部の腹面中央にあり、それぞれの節に2対ずつ、外側に大きい外出糸突起、内側に小さい内出糸突起がある。それ以外のクモ類ではこれらが腹部後端に移動し、その一部が退化したものと考えられる。出糸突起の数や形は群によってやや異なる。

出糸突起の先端近くには、多数の小さな突起があり、それぞれの先端から糸が出る。この突起を「出糸管」という。これにはクモによって色々な種類があり、それぞれからでる糸にも差があり、クモは用途に応じて使い分けている。

一部のクモ類には、通常の糸疣の前に「篩板(しばん)」(cribellum)という糸を出す板状の構造を持つ。これを持つクモは、第4脚の末端近くに、毛櫛(もうしつ)という、きっちりと櫛状に並んだ毛を持つ。糸を出す時はこの脚を細かく前後に動かし、篩板から顕微鏡でも見えないほどの細かい糸を引き出し、これがもやもやした綿状に太い糸に絡んだものを作る。

雌雄 

性的二形がはっきりしているものが多く、雌雄の区別は比較的たやすい。模様にはっきりとした差のあるものが多い。雄が雌より小型である種が広く知られており、中でも雌雄による大きさの違いが著しいコガネグモ科のクモが有名であるが、徘徊性のクモ(コモリグモハエトリグモ)などには雄が雌よりやや華奢な程度で差が小さい種もよく見られる。

確実な区別は外性器でおこなう。雌では、腹部の腹面前方、書肺の間の中央に生殖孔があり、開口部はキチン化して、複雑な構造を持つ。雄では、生殖孔は特に目立たないが、触肢の先端に「移精器官」(触肢器官palpal organ)というふくらみがあり、複雑な構造になっている。精液をここに蓄え、触肢から雌の生殖孔へ精子を送り込むという、特殊な交接を行うためである。この雌の生殖孔と雄の触肢の構造は、種の区別の際にも重視される。

内部形態 

 

クモのは頭胸部にあり、こと小型のクモや幼生では身体に占める脳の容積は非常に大きい。中枢神経が容積の8割を占めて脚の中にまではみ出しているものや、幼虫の期間は身体の割に巨大な脳で体が膨れ上がっているものもある[3]。糸で網を張るクモも網を作らないクモもおおむね巨大な脳を持っていて、網を張る・張らないで目立った差はない[3]

消化系 

消化管は大きくは前腸(fore-gut)、中腸(mid-gut)、後腸(hind-gut)からなる。前腸と後腸は外胚葉性で、中腸は内胚葉性である。

前腸部 

頭胸部に収まる部分である。口に続いて咽頭(pharynx)、食道(oesophagus)、吸胃(sucking stomach)からなる。この部分では消化は行われない。

クモ類はあらかじめ体外消化するため、口からは液体のみが取り込まれる。咽頭や食道は二枚の、吸胃は三枚のキチン板を備え、特殊な筋肉とつながっているそれらを動かして食物を吸い込む働きを持つ。なお、これらのキチン板は脱皮の際には完全に外れる。

中腸部 

これは頭胸部と腹部にまたがる部分である。吸胃から後方に続く部分は、頭胸部の後半部から左右に突出し、それぞれ前に向かって胸部前方に至り、群によってはその先端部で融合する。この部分を前出分腸(thoracenteron)と言い、ここからは付属肢の基部に向かって嚢状に突き出ている。この部分を分腸枝(lateral ceaca)という。この部分では消化が行われていると考えられている。

腹柄を通り抜けるとそれに続く中腸は大きく膨らんで腹部背面近くを通る。この部分では数対の分枝が出ており、これを腺様中腸(glandular mid-gut)と言い、さらに細かく分枝して腹部の心臓の両側に大きな固まりとなる。ここでは消化と吸収が行われると考えられている。クモが餌を取るとすぐにこの部分に送られ、腹部が膨大する。

後腸部 

中腸末端に左右一対のマルピーギ管がつながっており、さらに膨らんで糞嚢(stercoral pocket)となっている。最後の部分は直腸(rectum)で、そのまま肛門に続く。

呼吸器系 

クモ類の呼吸器としては、書肺気管がある。特に前者は付属肢由来であると考えられる。

書肺 

書肺(book lung)は、クモ類とその近縁の独特の呼吸器官である、肺葉片が偏平で、それが並んでいる様子が書物の頁のようであることから、その名がある。

気管 

書肺を2対を持つ群と、ユウレイグモ科などでは気管(trachea)を欠くが、それ以外のものでは腹部の腹面に気管気門が開き、そこから体内に細長い気管が伸び、分枝して緒器官の間を通る。その先は頭胸部にまで伸びるものもある。気管気門は書肺と糸疣の間にある。

循環系 

他の節足動物と同様に開放血管系であり、動脈の先端から血液は細胞間(血体腔)へ直接流れ出て血リンパとなり、再び心門から循環系へ取り入れられる。心臓は腹部背面にあり、腹部と頭胸部へは動脈が走る。

心臓 

心臓は細長く、腹部背面にあって、前の端からは前行動脈(aorta)、両側には側腹動脈(lateral abdominal artery)、後ろへは尾行動脈(caudal artery)が出る。心臓は囲心嚢(pericardium)に包まれており、心臓との間の空間を囲心腔(pericardial cavity0という。側面には心門(cardiac ostia)があり、ここから体腔を流れる血液が取り入れられる。心門の数はハラフシグモ類では五対あり、派生的な群では少なくなる傾向があり、例えば普通のクモの多くは三対である。心臓の周囲には対をなす心靭帯(cardiac ligament)があり、これが心臓の動きに関係していると考えられている。

血管 

前行動脈は腸管の背面にあり、腹柄を通って頭胸部に入り、吸胃の上で左右の小動脈に分かれ、さらに細かく分かれて付属肢などに入り込む。側腹動脈、尾行動脈はそれぞれ枝分かれして腹部の諸器官の間に広がる。

なお、腹部に流れ出た血液のうち、書肺を通ったものはそこから心臓へ向かう血洞を通って囲心腔へ入る。この血洞を肺静脈(pulmonary vein, dorsal lacunae)と言い、クモ類の体内では唯一の静脈である。これは酸素を多く含んだ血液を優先的に心臓へ送り、全身へ送り出す仕組みである。

排出器官 

排出器官としては、マルピーギ管と脚基腺がある。

マルピーギ管 

マルピーギ管(Malpighian tube)は、腹部後半の中腸の背面部に分枝しながら伸び、中腸の後部に口を開く。体腔液中から不純物をくみ出す働きがあるとされるが、詳細は不明である。なお、昆虫に見られる本来のマルピーギ氏管が外胚葉起源であるのに対して、クモ類のそれは内胚葉である中腸より分化したものであるから、生物学的に相似ではあるが相同ではない。

脚基腺 

脚基腺coxal gland)は、歩脚の基節の間にあり、腎管の一種と考えられる。原始的なクモ類では、この器官はよく発達しており、排出小嚢となって第一脚、第三脚の後方に口を開き、ここから排出物を出す。しかし多くの普通のクモ類では退化傾向が著しい。

生態 

基本的に陸上性の動物で、多くの種類が砂漠高山森林草原湿地海岸などあらゆる陸上環境に分布している。これほど多彩な環境に分布があるというのは、現在多くのニッチを昆虫類に取って代わられた鋏角類の中でクモとダニだけである。ただし淡水にせよ海水にせよ、水際までは結構種類がいるが、水中生活と言えるものは、ミズグモただ1種だけと言ってよい。その点、ミズダニなど水中生活のものを含むダニ類の方がより多くのニッチに適している。

食性 

ほぼ全てが肉食性で、自分とほぼ同じ大きさの動物まで捕食する。オオヒメグモなど網を張るクモの一部は、自分の数倍もある大きさの獲物を網に捕らえて食べることもある。捕食対象は昆虫類から他のクモガタ類などの節足動物軟体動物、小型の脊椎動物まで多岐にわたる。日本国内においても沖縄県石垣島では日本最大のクモであるオオジョロウグモツバメを、同じく沖縄県糸満市ではシジュウカラ[4]捕食していたのが観察されている。また、オオツチグモ類はかつて、鳥を捕食するというのでトリトリグモあるいはトリクイグモ(バードイーター)と呼ばれていた。この話そのものは伝説めいているが、実際にカエルネズミはよく捕食するようである。

オニグモ類の円網・中心部

捕食行動としては、細い糸でや網をつくって捕らえる・徘徊して捕らえるの2つに大別できる。網を張るものを造網性、張らないものを徘徊性という。

原始的な種、例えばハラフシグモ亜目トタテグモ科は、地中にトンネル状の巣を作り、入り口に捕虫のための仕掛けを糸で作る。網はこれを起源として発達したと考えられる。クモの網は様々な形をしており、数本の糸を引いただけの簡単なものから、極めて複雑なものまである。約半数のクモが、網を張らずに待ち伏せたり、飛びかかったりして餌を捕らえる。いずれの場合にも、餌に食いつくには直接に噛み付く場合と糸を絡めてから噛み付く場合がある。

「生き血を吸う」という風にもいわれるが、実際には消化液を獲物の体内に注入して、液体にして飲み込む(体外消化)ので、食べ終わると獲物は干からびるのではなく、空っぽになっている。小さいものは噛み潰して粉々にしてしまうこともある。

他にアシブトヒメグモ花粉を食べる例やアリグモアリマキの甘露を食べるなど、非肉食性の習性もいくつか知られている。ハエトリグモ類の仲間であるバギーラ・キプリンギは、アカシアの芽を小動物より多く食べることが知られている[5][注 1]

ジェネラリストとスペシャリスト 

かつて動物生態学者のエルトンは「クモの網にゾウはかからない」という言葉を残し、喰う喰われるの関係の大事さを主張した。これは捕食者と言っても何でも喰うものではなく、その獲物の範囲は限られているという指摘ではあるが、「クモの網は大きささえ合えば、どんなものでも捕まえるだろう」、つまり「獲物の選り好みはしないだろう」という趣旨の予断がある。実際、多くのクモは特に獲物を選ばないジェネラリストであろうと予想される。だが、明らかに決まった獲物しか選ばないものも知られており、例えば以下のようなものがある。

糸の利用 

クモと言えばを想像するくらい、クモと糸とのつながりは深い。全てのクモは糸を出すことができ、生活の上でそれを役立てている。

造網性でも徘徊性でも、全てのクモは歩くときに必ず「しおり糸」という糸を引いて歩く。敵から逃れるために網から飛び落ちるクモは、必ず糸を引いており、再び糸をたぐって元に戻ることができる。ハエトリグモが獲物に飛びついたとき、間違って落下しても、落ちてしまわず、糸でぶら下がることができる。

代表的なクモの網である円網では、横糸に粘液の着いた糸があって、獲物に粘り着くようになっている。網を歩く時にはこの糸を使わず、粘りのない縦糸を伝って歩くので、自らは網に引っかからない。粘液をつけた糸を全く使わない網もある。

造網性のクモは、網に餌がかかるのを振動で感じ取る。網の隅にクモが位置している場合でも、網の枠糸か、網の中心から引いた1本の糸を脚に触れており、網からの振動を受け取ることができる。餌がかかると、糸を巻き付けて獲物を回転させながら幅広くした糸を巻き付けてゆき、身動きできなくして捕らえる。場合によってはクモが獲物の周りを回りながら糸をかけてゆく。徘徊性のクモでも、餌を糸で巻いて捕らえるものもある。

地中に巣穴を作るものや、テント状の巣を作り、特に網を作らないものでも、巣の周りの表面にまばらに放射状の糸を張り、虫が触れると飛び出して捕らえる種がある。このような糸を「受信糸」という。これが網の起源ではないかともといわれている。

多くの種では、子グモが糸を出し風に吹かせて、タンポポ種子のように空を飛ぶ「バルーニング」という習性を持つ。小型の種では、成虫でもそれを行うものがある。この飛行能力により、クモは他の生物よりもいち早く生息地を拡大することができる。一例として、インドネシアクラカタウ火山活動により新たなが誕生した時に、生物の移住について調査したところ、最初にやってきた生物はクモだったと報告されている。

産卵や脱皮のために巣を作るものもあり、その場合も糸を使う。地中性のクモでは巣穴の裏打ちを糸で行い、トタテグモのように扉を作るものは、糸でそれを作る。多くのものは卵塊を糸でくるんで卵嚢にする。

糸の組成タンパク質分子連鎖で、体内では液状で存在し、体外へ排出される際に空気と応力によって繊維状の糸となる。これは不可逆反応で、空気上で液状に戻ることはないが、使用した糸を蛋白源として食べ、消化して再び糸などに利用する種も見られる。

生活史 

生殖行動 

雄が触肢に入れた精子を雌の生殖孔に受け渡すという、動物界で他にあまり例のない方法を用いる。雄の触肢の先端には、雄が成熟すると触肢器官という複雑な構造が出来上がる。スポイトのようになっていて、精子を蓄える袋と、注入する先端がある。雄は雌の所へゆく前に、小さな網を作り、ここへ生殖孔から精子を放出し触肢に取り入れる。ほとんどのクモは肉食性であるので、雌が巨大である種の場合、雄の接近は危険が伴う。そのため安全に接近するための配偶行動がいろいろと知られている。コガネグモ科など造網性のものでは雄が網の外から糸をはじいて雌の機嫌を伺う種が多い。変わった例として、雄が前足を振ってダンスをする徘徊性のハエトリグモのような例もある。

 

は多くの場合、多数をひとかたまりで産み、糸を巻いて卵嚢(らんのう、egg sac)を作る。卵嚢は種によってさまざまな形をしている。卵は全体で丸い塊となり、柔らかな糸でくるまれる。それだけの卵嚢を作るものもあるが、さらにその外側に厚く糸で作った膜で袋や円盤状の卵嚢に仕上げるものもある。

卵嚢をそのまま樹皮に貼り付けたり、の裏にくっつけたりと放置するものもあるが、自分の網の片隅につるす、あるいは自分の巣の中に卵を産む、しばらくを一緒に過ごすなど、一定の親による保護を行う種も存在する。ユウレイグモハシリグモアシダカグモなどは卵のうを口にくわえて保護し、コモリグモは糸疣につけて運ぶ。

幼生 

孵化した幼生は、通常1回の脱皮をするまでは卵嚢内に留まる。初齢幼生は柔らかく不活発で、卵嚢内でもう1回の脱皮をおこなった後、やや活発になった子グモが卵嚢から出てくるのが普通である。卵嚢から出てきた子グモが、しばらくは卵嚢の周辺で固まって過ごす習性が見られるものが多く、クモの「まどい」という。この時期にちょっかいをかけると大量の子グモが四方八方へ散っていくため、大勢があちこちへ逃げ惑う様を例えて「蜘蛛の子を散らす」という比喩表現をする。

卵を保護する習性のあるものでは、子グモとしばらく一緒に過ごすものも多い。コモリグモ類では、生まれた子をしばらく背中で運ぶ。ヒメグモ科には雌親が幼虫に口移しで栄養を与える例があり、この時与えるものを「spider Milk」という。カバキコマチグモは雌親が子グモに自分自身を食わせてしまう。

その後、子グモはそれぞれ単独生活にはいるが、その際バルーニングを行う種が多い。

一般には幼虫は成虫を小さくした姿であるが、中には大きく色や模様が変わる例もある。また、習性についても親とほぼ同じなのが普通であるが、成虫は徘徊性なのに幼虫は網を張る例(ハシリグモなど)、逆に成虫になって網を張るようになる例(トリノフンダマシなど)がある。前者は祖先が造網性であったことを示すとの説明があるが、後者についてはよくわからない。

社会性 

ほとんどのクモ類は単独で生活し肉食性である。幼虫がしばらく成虫と生活を共にする例は少なくなく、これらは亜社会性といわれる。また、造網性のクモで、網を接した多数個体が集まる例も知られる。

さらに、大きな集団をつくり、長期にわたって共同生活するクモは、日本国外からは少数ながら知られている。それらは社会性クモ類といわれる。共同で営巣し、巨大化した網の集合体を形成し、そこに時には数千頭ものクモが住み、共同で餌をとる生活をする。このような生活をするクモは世界で約20種が知られ、それらはタナグモ科、ハグモ科、ウズグモ科など複数の科にまたがっているため、それらは個々に独自に進化したものと考えられる。

それらのクモでは以下の三点がその生活を成立させる条件として存在するとされる。

  • 寛容性:個体間で互いに攻撃する行動を取らない。
  • 個体間の相互作用:個体同士が互いに接近する傾向を持つ。
  • 共同作業:餌を捕らえる際や幼生の育児に際して互いに協力する。

また、これらのクモでは集団を作る個体間で遺伝的に非常に近いことが知られる。それらは往々にして一腹の集団から始まり、集団内で近親交配を繰り返す。

ただし、ハチアリなどの社会性昆虫では女王と働き蟻など分業とそれに伴う個体間の階級の分化が見られるが、クモ類ではそれは知られていない。しかし、一部のものでは真社会性を獲得しているのではないかとの説や示唆がある。

天敵 

小型の肉食動物にはクモ類を捕食するものは多いと考えられる。クモは他の昆虫に比べて体が柔らかいので、トカゲカエルハリネズミ小鳥など飼育下動物エサとしても非常に重宝する。

クモをくわえたベッコウバチ

特にクモ類の天敵としては、狩り蜂類のベッコウバチ類がクモを狩るハチとして有名である。これらのハチは、クモの正面から突っ込んで、大顎の間にを刺して麻酔を行い、足をくわえて巣穴に運ぶ。他に、寄生性のものとして成虫に外部寄生するクモヒメバチや卵のうに寄生するハエ類やカマキリモドキなども知られる。このクモヒメバチはウジ状の幼虫がクモの背中に止まっているように見られ、初めのうちは体液を吸うだけだが、最終的には寄主であるクモを食い殺し食い尽してしまう。また、センショウグモやオナガグモなどはクモを専門に食べるクモとして知られる。

直接にクモを攻撃するものではないが、メジロなどの小鳥はクモの網を巣の材料とする。そのためにクモの網に鳥は突っ込み、その体にまとわりついた糸を集め、巣材のなどをかためるのに用いる。クモの網に引っかかった虫を横取りする昆虫(シリアゲムシなど)も知られる。

人間との関わり 

益虫・害虫 

耕作地圏においては、農業害虫天敵であるため益虫として重視される。人家の内外にも多くの種類が生息し、これらは衛生害虫ハエダニゴキブリなど)を捕食するため、クモは家庭生活圏においても益虫の役割を果たしている。これを理解している人は、居宅や身の回りにクモが見られても気にしない事が多い。

しかし近年では、主に都市生活者の間で、その容姿から不気味な印象を持ち忌み嫌う人や、いわゆる「虫嫌い」の増加などの理由で、不快害虫のカテゴリーに入れられる場合もある。網や巣を張る種については家や壁を汚すとして嫌われる要因となる。実際2000年代後半に入り日本でも、従来のゴキブリハエ等と同様に、ムカデ、クモを駆除対象とすることをうたった殺虫剤が一般に市販されテレビCM等で宣伝までされるようになった。

毒性 

ほとんどのクモは虫を殺す程度の毒を持っているが、人間に影響を持つほどのものは世界でも数種に限られる。その中でも、人間を殺すほどの毒を持つクモはさらに限られる。また在来種のほとんどのクモは、人の皮膚を貫くほど大きな毒牙自体を持っていない。なお、ウズグモ科は毒腺そのものを失っている。

毒グモとして有名なのは、日本に侵入してニュースとなったセアカゴケグモハイイロゴケグモをはじめとするゴケグモ類である。それ以外にも世界でいくつかが危険視される。在来種でそれほど危険視されるクモは存在しないが、コマチグモ科の大型種(カバキコマチグモなど)は毒性が強く、噛まれるとかなり痛み、人によってはしばらく腫れ上がる。逆に毒グモとしてのイメージが強いオオツチグモ科の別称であるタランチュラは、強い毒を持つものは稀である。しかしながら全ての毒グモの毒にはアナフィラキシーショックを起こす可能性があり、注意が必要である。

毒性の有無・程度にかかわらず、人間など自身より遥かに大きなサイズの動物に対しては、ほとんどのクモは攻撃的でなく、近寄れば必死に逃げようとする。能動的に咬害を与えることも基本的にないが、不用意に素手で掴むなどすると、防衛のために噛みつかれる恐れがある。

捕食時に獲物へ注入する消化液には強い殺菌能力があり、また自身の体もこの消化液で手入れを行っている。このためクモ自体や、獲物の食べ殻が病原体を媒介する可能性は低い。

クモの糸が目に入ると炎症を起こすことがある。汚染によるものではなく、毒成分が関与しているともといわれる。[要出典]

網と糸 

網がはられている状態は、人間の生活する環境としては、全く手入れが行き届いていない証拠とみなされる。映画やテレビドラマ等では、空き家であること、通る人がいないことを示すために使われる。またホラーゲームを筆頭として各ジャンルのゲームにもよく登場する。「クモの巣が張る」というのは、誰も使う人がいない、誰もやって来ないことを暗示する表現である。

利用 

害虫の天敵として

クモを害虫駆除のために積極的に利用する試みが行なわれたことがある。元来、日本には生息していなかったアシダカグモは、江戸時代にゴキブリ退治用として人為的に輸入されたとの説もある。農業の方面では、害虫駆除の効果が様々に研究され、一定の評価を得ている。水田ではアシナガグモドヨウオニグモ、セスジアカムネグモなどの造網性のもの、コモリグモなどの徘徊性のもの等が農業害虫駆除に大いに役立っていることが知られている。

糸の利用

後述のように自然生成可能な糸の中でも比較的頑丈であるため、糸を工業的に利用する試みもあるが、大きく認められているものは少ない。クモを大量養殖することの困難さ(新鮮な生餌が必要で、クモの数が適当でないと共食いを起こしやすい)と、糸を取り出すことの困難さが障壁になる。これまでに最も用いられたのは、レンズにスケールを入れるための用途である。

現存する糸の大型の布製品の一つはアメリカ自然史博物館に存在するコガネグモ科のクモの糸による絨毯(約3.4メートル×1.2メートル)であるが、作成には野生のコガネグモ科のクモの捕獲に70人、糸の織布に12人の人員と4年間の年月を要した[6]。蜘蛛単体では手間と高価になりやすいため、生産のしやすいに蜘蛛の遺伝子を組み合わせた品種や微生物を使用し、人工的に蜘蛛の糸を出そうとする試みが行われている。

糸の強度は同じ太さの鋼鉄の5倍、伸縮率はナイロンの2倍もある。鉛筆程度の太さの糸で作られた巣を用いれば、理論上は飛行機を受け止めることができるほどである。そのため、長い間人工的にクモの糸を生成する研究が行われてきたが、コストが高い上に製造に有害性の高い石油溶媒が必要になるなど障壁が多く実用化は困難とされていた。しかし、2013年5月に日本の山形県ベンチャー企業スパイバーが世界初となる人工クモ糸の量産技術を開発し、人工クモ糸の工業原料としての実用化が現実のものとなる目処がたった[7]。2017年には理化学研究所もクモの糸を再現したポリペプチドの合成する方法を開発したと発表している[8]

その他

日本では伝統的にコガネグモなどを戦わせる遊びが子供たちの間にあり、「蜘蛛合戦」と呼んだ。多くの地域で廃れてはいるが、現在でも町を挙げて取り組んでいるところがある。

最近ではオオツチグモ科のクモ(通称タランチュラ)が飼育用として販売されるなど、ペットとしての地位を獲得している。その他のクモもペットとして輸入されており、変わった種類もみられる。

食用としてのクモ 

日本では一般的でないが、クモを食用する国はあり、中国ではジグモの巣が漢方薬とされる[9]インドシナ半島ミャンマーから中国南部では食用にしているといわれる。カンボジアでは、現在でもクモを油で揚げたクモのフライが食されることもある[10]。クモの種はいわゆるタランチュラであった。味についてはエビに近いとか卵黄のようだとか馬鈴薯の味だとか沢蟹のようだといわれ、今ひとつ判然としない。他にオオジョロウグモもこの地域では食されるという[要出典]

南米では大型のゴライアストリクイグモが好んで食用にされ、食後にはその鋭い牙を爪楊枝代わりに使うという。また、オーストラリアやアフリカでも大型のクモを食べる習慣があるという[11]

日本においては1980年代のサバイバル/探検ブームの時期に、クモを生で食するとチョコレートの味がして手軽な非常食になるという情報が広まったが、「昆虫料理を楽しむ」によればそのような味はしないとのことである。

文化的側面 

クモは、身近な生物であり形態や習性が特徴的である。一例として、益虫であるにもかかわらず、外観から誤解されたり嫌われたりすることが多い。肉食性であるにもかかわらず、天敵も多く臆病で草食的な性格である点等があげられる。このため古来世界各国において、人間に対し吉凶善悪両面にわたり様々な印象を与えており、擬人化されることも数多い。

呼称表 

  • 雌雄別々の漢字が割り当てられているのは、クモが日常的になじみのある生物である上、上記の通り雌雄の区別が比較的たやすいことによる。日本においてもこの熟語が伝来して古来日常的に定着して使用されているが、現代においては音読みで「チジュ」と読むことはほとんどなく、大和言葉に置き換えて「くも」と訓読みすることがほとんどである。

伝承・民俗 

  • クモは糸を紡ぐ事から、機織を連想させるエピソードが見られる。
  • 日本には、古来クモを見ることによって縁起をかつぐ風習が存在する。代表的なのは、いわゆる「朝蜘蛛」「夜蜘蛛」という概念であり、「朝にクモを見ると縁起が良く、夜にクモを見ると縁起が悪い」とするものである。ただ地方によって様々な違いがあり、例えば九州地方の一部ではクモを「コブ」と呼称するため、夜のクモは「夜コブ(「よろこぶ」を連想させる)」であり、縁起が良いものとされる。
  • 絡新婦(女郎蜘蛛、ジョロウグモ)は、その外観から、細身で華やかな花魁を連想して命名されたものである。
  • ギリシャ神話におけるアラクネの物語。
  • 古代日本で、大和朝廷に抵抗した異族として『日本書紀』などに記された土蜘蛛
  • タランチュラ:ヨーロッパの伝説上の毒蜘蛛で、噛まれると踊り狂うといい、その際の音楽がタランテラとなった。

現代におけるサブカルチャー 

蜘蛛を関連したサブカルチャー作品には、不気味な外見や肉食性、一部の種が持つ毒から恐怖の対象として登場する作品と、農業害虫を食べることから「悪を討つ」善玉として描かれる物の、両方が存在する。

系統と分類 

クモガタ綱(クモ綱)に含まれるクモ目以外のグループは、ダニ目、サソリ目、カニムシ目、ザトウムシ目などがある。クモガタ類の中での系統関係は、必ずしも統一した見解がない。ザトウムシは、別名をアシナガグモ、メクラグモといい、クモと比較的外見が似ているが、近縁ではない。クモ目に近いとされるクモガタ類は、ウデムシ目、サソリモドキ目などがあり、まとめて四肺類を構成する。

キメララクネの復元図

クモ類は尾節という尾のような部分をもたないが、近縁とされる群の1つであるサソリモドキ類と絶滅したUraraneida類は、鞭状の尾節を持つ。琥珀に閉じ込められた約1憶年前の化石からは、クモ類の形質(精子の運搬に適した雄の触肢器官、糸疣、腹柄など)をもつと同時にこのような尾節をも備えたキメララクネChimerarachne)が発見されており、これはクモ類の共通祖先の姿を示唆する重要な手がかりになると考えられている[12][13]

ウミグモ類は、名前にクモの字が付くが、クモガタ綱とは別系統であり、自らウミグモ綱を構成する。

下位分類 

メキシカンレッドニータランチュラ(トタテグモ下目オオツチグモ科

クモ目そのものの存在自体は、その単系統性という形で強く認められている。目全体で共有される特徴としては以下のようなものがある[14]

  • 鋏角に毒腺を有すること。
  • 雄の触肢が精子を運搬する構造(触肢器官)になっていること。
  • 腹部付属肢の一部が糸疣となり、糸を生産すること。

クモ目の中での系統関係についても、各部に諸説があり、必ずしも確定してはいない。しかし次の三点は古くから認められている。

  • クモ目の中では、キムラグモ類が最も原始的で、ハラフシグモ類として他のすべてのクモ類から分離される。クモ類では唯一、腹部に体節が残り、出糸突起は大きくて腹面中央にある。書肺は2対。糸を出す能力が低く、巣穴の裏打ちをしない。触肢は歩脚状。
  • それ以外のクモの中ではトタテグモ類・ジグモ類・オオヅチグモ類・ジョウゴグモ類のものが原始的特徴を有する。いずれも2対の書肺をもつ。トタテグモ類とオオヅチグモ類は触肢が歩脚状であるが、ジグモ類やジョウゴグモ類では普通のクモ類のように小さくなっている。
  • 残る一般的なクモ類に、クモ類の大多数が所属し、多くの科に分かれている。書肺は1対。

これらをかつては古蛛亜目、原蛛亜目、新蛛亜目としたが[15]、現在では古蛛亜目をハラフシグモ亜目(中疣亜目)として分け、残るものをまとめたクモ亜目(後疣亜目)にトタテグモ下目(原蛛下目)とクモ下目(新蛛下目)をたて、それらに当てる[16]

普通のクモ類(クモ下目)の中の分類では、上位分類のための形質として、さらに以下のような特徴が重視される。

  • 出糸突起の前に篩板を持つものを篩板類として大きくまとめるのが従来の分類法であった。現在の日本で出版されている図鑑等はこれに基づいているものが多い。ただし、この特徴に基づく分類は後に誤りではないかとされ、現在分類体系の見直しが行われている。
  • もう一つの上位の分類として、単性域類と完性域類の区分がある。これは外性器の構造に関するもので、前者ではそれが単純であるのに対し、後者でははるかに複雑になっている。これは現在でも重要な区分と考えられる。
    • さらに、完性域類の中では歩脚の爪が2つの二爪類と3つの三爪類が大きな系統をなすとされる。この内の前者は徘徊性、後者は主として造網性の系統である。

以下に古典的な分類体系として八木沼(1986)の体系を示す[15]

  • 古蛛亜目 Liphistiomorphae(ハラフシグモ類)
    • キムラグモ上科(キムラグモ科)
  • 原蛛亜目 Mygalomorphae(トタテグモ類)
    • トタテグモ上科(トタテグモ科、カネコトタテグモ科)
    • ジョウゴグモ上科(ジグモ科、ジョウゴグモ科)
  • 新蛛亜目 Araneomorphae(クモ類、フツウクモ類)
    • 篩板類 Cribellatae
      • ウズグモ上科(ウズグモ科、ガケジグモ科、ハグモ科、チリグモ科)
      • スオウグモ上科(スオウグモ科)
      • カヤシマグモ上科(カヤシマグモ科)
    • 無篩板類 Ecribellatae
      • 単性域類 Haplogynae
        • イノシシグモ上科(エンマグモ科、イノシシグモ科、タマゴグモ科)
        • ヤマシログモ上科(マシラグモ科、イトグモ科、ユウレイグモ科他)
      • 完性域類 Entelegynae
        • 三爪類 Trionycha
        • 二爪類 Dinonycha
          • フクログモ上科(フクログモ科、シボグモ科、アシダカグモ科他)
          • ワシグモ上科(ワシグモ科、イヨグモ科、ヒトエグモ科)
          • カニグモ上科(カニグモ科、エビグモ科)
          • ハエトリグモ上科(ハエトリグモ科)

しかし近年これを否定する考えが大きな支持を受け、分子系統学の発展もあって、分類体系に大きな変更の動きが続いている[16]。特に、篩板を持つ群の扱いが大きく変化した。それによると、クモ類の主な部分を占める系統はかつて篩疣を持っていたのだが、そのうちのいくつかの系統で篩疣が消失し、しかも篩疣を失った系統が大発展を遂げたため、篩疣を持つものが比較的まとまって見えるだけで、実際には側系統群なのだという。このような新たな考え方に基づく分類体系は、科の配置を始めとして従来の分類体系と大きく異なり、中にはそれまで篩板類と無篩板類に分かれていたものが同一の科に含まれるようになるものすらある。これは一部では分子系統学にも支持されているが、すべてがこの考えに合致しているわけでもない。また、篩板の有無はやはりそれなりに重視されるべきとの考えもあり、統一見解はない。今後の研究の進展が待たれる。

近年の分類体系 

小野(2009)は上記のように篩板の有無が系統を反映するとの判断を元にした分類体系を示した。小野・緒方(2018)ではさらにこれを改めて世界標準の分類体系を採用している。以下にこれを示す。

なお、下記のうち日本から記録のあるクモの科は64であり、これは全部のクモの科の数(117)の半分ほどでしかない。

  • Order Araneae クモ目
    • Suborder Mesothelae ハラフシグモ亜目
    • Suborder Opistothelae クモ亜目
      • Infraorder Mygalomorphae トタテグモ下目
        • Atypoidea ジグモ上科
          • Atypidae ジグモ科
          • Antrodiartidae カネコトタテグモ科
        • Avicularioidea オオツチグモ上科
          • Dipluridae ホンジョウゴグモ科
          • Hexathelidae ミナミジョウゴグモ科
          • Porrhothelidae ニュージーランドジョウゴグモ科
          • Actinopodidae ヤノテグモ科
          • Euctenizidae シントタテグモ科
          • Cyrtaucheniidae モサトタテグモ科
          • Barychelidae ヒラアゴツチグモ科
          • Theraphosidae オオツチグモ科
          • Nemesiidae イボブトグモ科
          • Migidae アゴマルトタテグモ科
          • Paratropididae ヘリタカジグモ科
          • Ctenizidae モノトタテグモ科
          • Halonoproctidae トタテグモ科
          • Idiopidae カワリトタテグモ科
          • Mecicobothriidae イボナガジョウゴグモ科
          • Microstigmatidae ビキモンジョウゴグモ科
      • Infraorder Araneomorpha クモ下目
        • Haplogynae 単性域類
          • Hypochilidae エボシグモ科
          • Filistatidae カヤシマグモ科
          • Trogloraptoridae ホラアナカリウドグモ科
          • Caponiidae カガチグモ科
          • Dysderoidea イノシシグモ上科
            • Segestriidae エンマグモ科
            • Oonopidae タマゴグモ科
            • Orsolobidae フタヅメイノシシグモ科
            • Dysderidae イノシシグモ科
          • Scytodoidea ヤマシログモ上科
            • Sicariidae イトグモ科
            • Drymusidae アヤグモ科
            • Periegopidae トゲヌキエンマグモ科
            • Ochyroceratidae エンコウグモ科
            • Telemidae ヤギヌマグモ科
            • Scytodidae ヤマシログモ科
          • Tetrablemmatidea ジャバラグモ上科
            • Tetrablemmatidae ジャバラグモ科
            • Plectreuridae クチコグモ科
            • Diguetidae コトグモ科
            • Pavuliidae パクラグモ科
            • Pholcidae ユウレイグモ科
          • (群名不詳)
            • Gradungulidae ハガクレグモ科
            • Cithaeronidae イダテングモ科
            • Leptonetidae マシラグモ科
            • Austrochilidae ムカシボロアミグモ科
        • Entelegynae 完性域類
          • Plpimanoidea エグチグモ上科
          • Nicodamoidea アカクログモ上科
            • Nicodamidae アカクログモ科
            • Megadictynidae オオハグモ科
          • (無篩盤・3爪・空間造網性)
          • (有篩盤~無篩盤・造網性~狩猟性・3~2爪)
            • (群名不詳)
            • Oecobioidea チリグモ上科
            • (群名不詳)
            • Titanoecoidea ヤマトガケジグモ上科
              • Titanoecidae ヤマトガケジグモ科
              • Phyxelididae トゲガケジグモ科
            • Zodarioidea ホウシグモ上科
              • Penestomidae アフリカイワガネグモ科
              • Zodariidae ホウシグモ科
            • (群名不詳)
              • Amaurobiidae ガケジグモ科
              • Agelenidae タナグモ科
              • Cybaeidae ナミハグモ科
              • Hahniidae ハタケグモ科
              • Toxopidae カニグモモドキ科
              • Dictynidae ハグモ科
              • Cycloctenidae マルシボグモ科
              • Stiphidiidae ナキタナアミグモ科
              • Desidae ウシオグモ科
              • Sparassidae アシダカグモ科
              • Homalonychidae トモツメグモ科
              • Udubidae ツヤシボグモ科
              • Zoropsidae スオウグモ科
              • Ctenidae シボグモ科
              • Senoculidae ホシダカグモ科
              • Oxyopidae ササグモ科
              • Pisauridae キシダグモ科
              • Trechaleidae サシアシグモ科
              • Lycosidae コモリグモ科
              • Psechridae ボロアミグモ科
              • Thomisidae カニグモ科
          • (無篩盤・狩猟性・2爪)
            • Dionycha A 2爪類A群
              • Prodidomidae イヨグモ科
              • Liocranidae ウエムラグモ科
              • Clubionidae フクログモ科
              • Anyphaenidae イヅツグモ科
              • Gallieniellidae アイアイグモ科
              • Trachelidae ネコグモ科
              • Phruolithidae ウラシマグモ科
              • Gnaphosidae ワシグモ科
              • Lamponidae オジロワシグモ科
              • Ammoxenidae ハシエグモ科
              • Trochanteriidae ヒトエグモ科
            • Dionycha B 2爪類B群
              • Xenoctenidae ヨソモノシボグモ科
              • Corinnidae ハチグモ科
              • Viridasiidae マダガスカルシボグモ科
              • Selenopidae アワセグモ科
              • Miturgidae ツチフクログモ科
              • Cheiracathiidae コマチグモ科
              • Philodromidae エビグモ科
              • Salticidae ハエトリグモ科

脚注 

[脚注の使い方]

注釈 

  1. ^ ただし、このアカシアはアリ植物であり、芽というのもアリの餌として供給する特殊なものである。

出典 

  1. ^ 小野展嗣「2.鋏角亜門」『節足動物の多様性と系統』石川良輔、岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、2008年、122-167頁。ISBN 9784785358297
  2. a b c d e f A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039.
  3. a b 小さなクモに大きすぎる脳”. ナショナルジオグラフィック日本版サイト2019年6月6日閲覧。
  4. ^ “クモが鳥を食った 糸満”沖縄タイムス. (2011年8月30日). オリジナルの2012年5月8日時点におけるアーカイブ
  5. ^ “草食のクモを初めて確認”ナショナルジオグラフィック協会. (2009年10月13日). オリジナルの2014年10月27日時点におけるアーカイブ。 2009年10月14日閲覧。
  6. ^ クモの糸の驚異と、100万匹が作った「黄金の織物」 « WIRED.jp Archives” (日本語). WIRED.jp2011年10月29日閲覧。
  7. ^ 人工「クモの糸」繊維、大量生産 山形ベンチャーが世界初”. 産経Biz (2013年5月25日). 2013年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ2019年6月6日閲覧。
  8. ^ “鉄のように硬い「人工クモ糸」、理研が合成 石油製品を代替へ”ITmedia NEWS. (2017年1月23日)
  9. ^ 虫を食べる話・第19回”. 公益社団法人 農林水産・食品産業技術振興協会. 2018年3月31日閲覧。
  10. ^ “ポル・ポト時代の食糧難の名残、田舎で珍重される食用クモ - カンボジア”AFPBB News. (2006年8月23日). オリジナルの2013年5月14日時点におけるアーカイブ
  11. ^ 虫を食べるはなし 第19回 (クモを食べる習俗)”. 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会. 2019年6月6日閲覧。
  12. ^ “Cretaceous arachnid Chimerarachne yingi gen. et sp. nov. illuminates spider origins”Nature Ecology & Evolution 2: 614-622. (2018).
  13. ^ 「クモに尾見つけた 1億年前の琥珀」『読売新聞』朝刊2018年2月19日(社会面)
  14. ^ Coddingston 2005, p. 21.
  15. a b 八木沼健夫「クモの分類学上の位置」「クモ目分類体系」『原色日本クモ類図鑑』保育社、1986年、v-vii,xviii-xix頁。
  16. a b 鶴崎展巨「第1章 系統と分類」宮下直編『クモの生物学』東京大学出版会、2000年、3-27頁。

関連項目 

参考文献 

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2019年6月)

外部リンク 

ウィキスピーシーズにクモ目に関する情報があります。
ウィキメディア・コモンズには、クモ目に関連するカテゴリがあります。

 

「醜形恐怖」という言葉が19世紀にこの病気について初めて発表したイタリア人医師の名付けた原語を日本語訳したものとして作られ、長らくこの用語が日本では一般的であった。

身体醜形障害  

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。出典検索?: "身体醜形障害" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL(2014年1月)
身体醜形障害
 
鏡を見る醜形恐怖症の患者
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
精神医学臨床心理学心理療法
ICD-10 F45.2
ICD-9-CM 300.7
DiseasesDB 33723
eMedicine med/3124
Patient UK 身体醜形障害
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身体醜形障害(しんたいしゅうけいしょうがい、body dysmorphic disorder ; BDD)あるいは醜形恐怖とは、極度の低い自己価値感に関連して、自分の身体や美醜に極度にこだわる症状である[1]。実際よりも低い自己の身体的なイメージが原因である。俗に醜形恐怖また醜貌恐怖とも呼ばれる。自殺率は非整形経験者の45倍と極めて高い[2][3]

精神障害の診断と統計マニュアル』第5版のDSM-5では強迫性障害関連症群(スペクトラム) に含まれる。その強い強迫観念から身体醜形障害はうつ病を併発する割合もかなり高いとされる。

人口有病率は、0.5-0.7%ほど[1]。BDDのハイリスク層には、うつ病社会恐怖アルコール乱用薬物乱用強迫性障害摂食障害などの罹患者が挙げられる[4]

定義 

精神医学的障害の一種である。

歴史 

醜形恐怖」という言葉が19世紀にこの病気について初めて発表したイタリア人医師の名付けた原語を日本語訳したものとして作られ、長らくこの用語が日本では一般的であった。しかし近年、患者が顔だけではなく身体全体を気にしだしたため「身体醜形障害」と呼ばれることも多くなった。

1995年に発表されたアメリカの調査によると、有病率は1%であるとされているが、患者は自身の身体醜形障害を医師にも言わない傾向が多いため、実際にはより多数の患者がいるのではないかと推測されている。

日本では1990年後半から多くなりだした。この内2割は引きこもりのような状況になるとされる[要出典]整形をする人も多いが、思い込みであることが多いため満足な結果が得られることは少なく、結果的に逆に顔を崩してしまうことさえある。この障害を持つ場合には、1日に何時間も自身の肉体的な欠陥について考えるようになり、極端に社会から孤立してしまうとされる。

特徴 

男性の場合、第二次性徴によって男らしく変化した部分を嫌い、幼児期のままの自分でいたいと思う傾向が強いとされる。また、女性の場合は、母親や姉妹など周囲の身体に対する優劣を意識する傾向が強いとされる。顔自体に限っていえば男性に多いが、身体全体にわたる場合は女性に多いとされる。醜形障害者の割合に男女比の差はあまりないとされるが、とらわれる箇所は男女個々様々で体全体にいたる。アメリカの調査ではこだわりの多い部位はまず髪の毛へのこだわりが63%と最も多く、次いで鼻、皮膚が50%、目27%、頭や顔全体20%、身体全体、骨の形20%、唇、顎、腰17%、歯、脚、膝13%、胸、胸の筋肉、自分の顔全体を醜いと考える10%、耳、頬、ペニス7%、手、腕、首、額、顔の筋肉、肩、お尻3%と報告されている。鼻を気にする人は特に多い。

ボディイメージとの関連 

上述の通り、醜形障害者は、自身の身体の至る部分に偏ったボディーイメージを持っている。一度鏡で見た顔や容姿にいたるイメージへも、確固たる真のイメージを持ちづらいとされる。それゆえ、何度も鏡を確認するものと思われる。

醜形障害者の日常生活における困難は、鏡などの反射物(鏡、ガラス、水面、なべのふた、スプーン、ペットボトル、食器類など)に映る顔全体の影形やその姿であり(更に症状が進むと、太陽や照明機器に照らされた影による自らのヘアスタイル、横顔の造形なども気になりだす)、その対象物を何十分、何時間という単位で目で確認し続けるという強迫性障害でいう強迫確認または強迫行動によって支配される苦しみや苦痛である。また外出した際は他人の視線(顔や容姿全体、こだわっている箇所)を意識しすぎて、ショーウィンドーのガラスや車のガラス、バックミラーなどに自身の顔や容姿を映し様々な角度から自分のこだわっている箇所を確認し続けるという行動をとる。その姿が自分の思っていた顔や容姿とのイメージと合致した場合は、気分が高揚し安心感を持ち、かけ離れていた場合は酷く落ち込み、目的だった事柄や場所に行けず冷や汗を掻いて引き返してくることもある。また外出時は自分の顔・容姿のこだわっている箇所を他人と必死に比べようともする。

また反射物に限らず、写真や映像(カメラやビデオ)に撮られることも嫌い、その自身が写った写真や映像から目を背けたり写りたがらない。写真や映像に写った自身の顔・姿のイメージが自己のイメージと合致すれば上記の様な心理状態になり、違った場合は落胆し鬱になったり、写真の場合は破り捨てることも見受けられる。その結果、履歴書などに載せる証明写真を撮るのに支障をきたす場合がある。

また、醜形障害者は鏡やガラスなどに映った自分を見続ける確認行動がある一方で、必死に鏡やガラスなどの反射対象物を避け、なるべくこだわっている箇所を映さない、映らない、確認しないなどといった極端な側面も持ち合わせていることが多い。なぜその両面を持ち合わせているのかは具体的には分からないが、強迫性障害で言う強迫確認の負のループに自身の大事な時間を費やされたくない、その確認しているさまを他人に見られるのが恥ずかしい、奇妙な行為だと思われるのが怖い、またその確認でこだわっている箇所を見てしまったための落ち込みの不安で、恐怖と絶望の渦に陥りたくないという心理的要因が働くのではないかと思われる。そしてこの二つの面を持ち合わせている者もいれば、そうでない者もいるようである。

醜形障害者は妄想的に確信を抱いたとらわれのパターンと、元々(生まれつき)の細かい「欠陥」(例えば、髪の毛が柔らかく細く頭髪が元々薄い傾向や、成人して止まってしまった身長などに対する変えられようのない事実)にとらわれてしまうパターンとがある。後者は投薬治療では中々改善しない場合が多く、10年近く症状で悩まされる場合も多い。いずれにしても、細かい顔や体に対する欠陥や妄想的とらわれが身体醜形障害の特徴である。自分の容姿にとらわれるあまり、家族にまでそのとらわれ箇所の確認を要求する(どのように思い、感じるか)家族巻き込み型もこの病の典型である。その結果、家族のいい回答が得られずに(正しい返答がない、もしくは家族として思いやってか言葉に表しにくいため)家庭内暴力にまで至るケースもある。

またこれら反射物による恐怖を発端とする忌避行為により、日常生活に多大なる影響を与える。特に就労に関してこの問題は大きい。例を挙げれば、反射するモニターを使用する光沢液晶やCRTの仕事を忌避したり、サイドミラーを恐れ運転免許が取れなかったり等致命的な支障を就労においてきたす。自分の顔への恐怖は、裏返せば他者の視線への恐怖であり、面と向かってのデスクワークや会議、及び面談等でまともに正対して視線を合わすことさえ困難を極める。結果的に、能力的にできる職種であっても、醜形恐怖が先行するあまり、自ら職業選択の幅を狭め、最悪何も仕事を選べないという状況になり得る。プライベートにおいてもそのような状態では恋愛はおろか友人関係を築くのにも著しい困難を生じる。

症状の性質上、健常的な範疇内での純粋な容姿のコンプレックスと身体醜形恐怖との判別がつきにくい事が、この病をより複雑化している。両者を併せ持つケースも考えられる。しかし、醜形恐怖患者は、自分の容姿について、絶え間なく悩まされるという部分に両者の間で決定的な違いがある。醜形恐怖患者の中には、もちろん誰にでもあるような、客観的に見られる体の醜さで悩む事もあるだろうが、それ以上にその「醜い」「容姿が気になる」という思考・感情をコントロールできない部分にこそ本当の根深さ・問題が隠されている。また顔というのは全体的バランスとして美醜を判断すべきだが、醜形恐怖患者は、目・鼻・口・毛髪等細部の各パーツ毎に極度のこだわりと理想を持っているのも特徴である。この状態が逸脱しすぎて、一般的に言われる美醜というより自分の中で描いている理想と現実のギャップに絶望・不安と混乱を生じやすい。妥協という言葉は一切生じない。この「醜い」という不快な思考を抑えても、抑えても、果てしなく湧き上がる状態は、たとえば強迫性障害で、人を車ではねたのではないか?物が決まった場所に無いと焦燥を感じる、等の恒常的な永遠と反復する不安に陥る、思考をコントロールできない部分で共通する。強迫性障害と深い関わりがあるといわれる理由はここにある。つまり、常に付きまとわれる容姿についての悩み(強迫観念)とその不安を消失させるために鏡を見る等の確認行為(強迫行動)、そして鏡や反射物を恐れる(逃避行動)は、全て強迫性障害によく見られる行動パターンである。健常的範囲での容姿コンプレックスであれば、一時的な観念的悩みはあれど、強迫行動や逃避行動までには至らない。また、鏡を見る行為ひとつとっても、健常者であればエチケット・身だしなみとして気軽に見る行為であるが、醜形恐怖患者の場合は、そのような要素よりもとにかく不安を抑えるための確認作業・苦渋の解決策として極度のストレスを伴いながら鏡を見る。これらの点を踏まえると、この障害は精神病というよりは、先天的あるいは環境による性格的・神経症的な要素が強い。したがって、この症状は外界からのストレスに比例しやすく、労働や人間関係等でストレスが増すとこの症状もまた増幅する傾向がある。このような悪循環なループに陥る事が多く、醜形恐怖患者は、自己解決能力が著しく乏しいとも言える。

高頻度でうつ病を合併しやすいのも特徴的で、これは強迫性障害患者においてもよく見られる。持続的に襲われる容姿に対する不安・恐怖やそれを抑えるための確認・逃避行為によって、精神が疲弊し、結果的にうつ病が導かれるものと考えられる。また醜形障害患者は、ある程度の割合で自臭症も併発しやすい。これは自分の臭いによって他人に迷惑を与えていないか、あるいは自分の容姿によって他人に不快な気分にさせていないか?という両点で対人恐怖症的要素が強く反映されている。また、客観性を欠いた、妄想的なとらわれから醜くないにもかかわらず、自己を醜いと判断しこの症状に陥る事もあり、これにより統合失調症の前駆症状としてみなされる事もある。強迫性障害から派生する場合は、統合失調症の妄想性と異なり、性格由来の「完全主義」「頑固さ」が局部的な思考の歪みとして容姿に集中するために起こる。この点で、ひとくちに醜形恐怖といっても、強迫性障害統合失調症等その発生過程は異なる。

患者によっては、時間帯によって症状が変化する事もある。たとえば、朝方から日中にかけて醜形恐怖の症状が強く現れ、日没後から症状が落ち着きだす等である。この日中~夜間における症状の変動は、関連性が持たれているうつ病患者においても顕著に見られるものである。これは本来生物に備わっている日中、精神活性化をつかさどる交感神経と夜間の精神緩和をつかさどる副交感神経の作用・影響が考えられる。

原因 

原因としては、うつ病強迫性障害との関連が挙げられる。また自臭症などと並んで、統合失調症の前駆症状として現れる場合も多い。あるアメリカ人の研究者は「醜形恐怖強迫性障害の仲間に入る」と述べている。また実際、醜形恐怖は脳内の神経伝達物質であるセロトニンを増加させる薬に反応するという報告がある。人とのコミュニケーションを上手く取れないため対人恐怖や劣等感に陥り、その感情を外見の劣等へ形を置き換える事で、無意識的にバランスを取っている側面もある。自己へ自己へと意識が集中しすぎ自身で、完璧なこうであらねば、という枠組みを形成してしまうのが根底にある。外界(他人)への意識を拡大させると共に、自分への美醜のこだわりより先に対人スキルを含む内面・精神に対する誤った認識の確認、再生、充実が結果的にこれらの強迫観念を解決させる一助になりえる。

  • マスメディアにおける時代の美醜の価値観も関連する。
  • 長期による深刻な悩みの末、自己同一性に欠ける問題もある。
  • 身体表現性障害と大まかに括れる事が出来る。
  • しばしば、ノイローゼ的になりパニック発作を起こす場合もある。
  • 強迫性障害からの視点では脳内伝達物質のセロトニンの異常と、眼窩皮質という箇所の異常だともいわれる。
  • 身体醜形障害はナルシシズムの病理であり、自己愛性パーソナリティ障害とも関連がある。理想の姿を追い求めることで、基底にある深い自己不信から逃れようとする。
  • 森田療法や暴露反応妨害法などが有効とされている。
  • 醜形恐怖は精神病というより元来持つ性格から発している部分が大きい、その際たるものが「完璧主義」である。醜形恐怖が難治といわれるのは、先天的あるいは、長年積み重なった性格・気質によるためでもある。
  • 最近のプチ整形を筆頭として美容整形の浸透が醜形恐怖を更に根深い問題とさせている。

診断 

DSM-IVの診断基準Bは著しい苦痛や機能の障害を呈していることを要求している。また診断基準Cは、他の精神障害にあてはまらないことを要求している。

BDDと診断された場合は、また自殺自傷行為リスクを評価すべきである[4]

鑑別診断 

正常な不満足はよくありうる[5]神経性無食欲症では、太っているかということに限定される[5]社交不安障害では、外見だけを気にしているわけではない[5]うつ病では自信のなさは、身体にのみへの関心ではない[5]

妄想であれば、妄想性障害である[5]

管理 

成人のBDDについては、その社会的困難が軽度の場合、認知行動療法(CBT)を個人またはグループ単位で提供する[6]。中度の場合はSSRIによる薬物療法、もしくは更なる強度の個人単位CBTを行い[6]、重度の場合は薬物療法とCBTの両方を実施する[6]

SSRIを使用する場合、NICEはその第一選択肢はフルオキセチンでなければならないとしている[7]。これは他のSSRIよりもBDDへの有効性の証拠が多いためである[7]SSRIにて緩解が見られた場合、その12ヶ月後をめどに断薬を検討する[7]

抗精神病薬三環系抗うつ薬SNRIMAOI抗不安薬ベンゾジアゼピンなど)は、一般的にBDDに使用してはならない[7]

児童青年のBDDについては、その年齢に合わせたCBTを実施する[6]SSRIは有害事象が報告されているため、投与は慎重を期する[6]

援助の方針 

醜形恐怖患者は、性格的に劣等感を持ちやすい。特にこの症状ゆえに、社会的活動を放棄し、ひきこもりなどで、就労学業が思うようにはかどらず、社会的コンプレックスを強く持ちがちで、周囲と足並みをそろえられない、自らの非力さで自責の念にとらわれがちである。しかしけして怠けている訳ではないので、そのような部分を含めて神経症精神療法で広く応用されている森田療法で言う「ありのままの自分を受け入れる」精神で、自らの容姿もさることながら、無理をせず自らの生き方も許容する事が大切である。本来持っている上昇志向などの良い側面が歪んだ形として、容姿に集中してしまっている状態であり、その向上心をたとえば仕事、学業、趣味・特技等良い方向へ生かしきるのも大切である。この障害は、性格的な要素が大きいため、完治を期待するよりは、いかに良い方向へ利用していくかが鍵となる。「こだわり」は短所でもあり、長所でもあるという認識が大切である。

心理療法 

この節の参考文献は、一次資料や記事主題の関係者による情報源に頼っています。信頼できる第三者情報源とされる出典の追加が求められています。(2017年12月)

心理療法に関しては、治療者や支援者のサポートに基づいた認知行動療法(認知再構成法・曝露反応妨害法を含む)、森田療法の治療効果が症例報告がある[8][9][10]

森田療法では、大丈夫である事実を繰り返し提示すること、本当にやりたいことを再認識できるように導くこと、「身体に関する不安をそのままにしておき、やりたいことや必要な行動をどんどんとしていくことで、不安はどこかに消えている」という考えに基づき行動の変容をサポートした事例がある[10]。また、同事例において治療者は、自身全体に対する患者の自己肯定感を高めることと、身体部位に対する患者の肯定感を高めることを同時にサポートしている[10]。さらに、患者が身体部位へのとらわれから脱し、現実の外界とのかかわりを徐々に増やしていくことで、生活に対する自信をつけていくことができるよう、支援も行っている[10]

また、鍋田 (2011) は、認知行動療法・問題解決法・暴露療法などのさまざまな心理療法を組み合わせた、3ステップアプローチという治療法を提案している[11]。治療の方向性を説明するガイダンスセラピー(第1ステップ)、認知行動療法を活かした心理教育的アプローチ(第2ステップ)、人生全体がテーマとなる心理療法(第3ステップ)から構成される[12]。その中で、顔や身体の部分ではなく顔や身体の全体さらには性格が大切であるということを再認識したり、醜いという考えは事実とは異なり客観的に醜くないという事実を確認したり、理想とする容姿の人はまれで自分自身と同じような容姿の人がほかにもいるということを認識したり、何らかの活動に参加し自分自身ができることを確認するとともに周囲からできたことを評価されることでやっていけるという自信をつけたり、長所について話し合い容姿とは別に自らに長所があるということを認識したりすることができるよう、治療者が本人をサポートする[13]

出典 

  1. a b 英国国立医療技術評価機構 2005, Introduction.
  2. ^ Bjornsson AS; Didie ER; Phillips KA (2010). “Body dysmorphic disorder”Dialogues Clin Neurosci 12 (2): 221–32. PMC3181960PMID 20623926.
  3. ^ Record China (2013年5月21日). “整形する人の自殺率は一般の人の45倍”. Record China2020年3月24日閲覧。
  4. a b 英国国立医療技術評価機構 2005, Chapt.1.4.2.
  5. a b c d e アレン・フランセス 2014, pp. 103-105.
  6. a b c d e 英国国立医療技術評価機構 2005, Chapt.1.5.1.
  7. a b c d 英国国立医療技術評価機構 2005, Chapt.1.5.3.
  8. ^ 矢島道、矢島新松田英子「身体醜形障害と妄想性障害を合併した成人事例に対する認知行動療法:―自動思考記録表と週間活動記録表の活用―」『カウンセリング研究』第46巻第4号、2013年、 214-225頁、 doi:10.11544/cou.46.4_214、 NAID 130005132071
  9. ^ 大塚明子「曝露反応妨害法が奏功した身体醜形障害を伴う強迫性障害の一治療例(実践研究,<特集>社会福祉と行動療法)」『行動療法研究』第29巻第2号、2003年9月30日、 171-181頁、 NAID 110009668021
  10. a b c d 川上正憲、中村敬、中山和彦アトピー性皮膚炎に身体醜形障害を併存する1例をめぐる考察 : 皮膚症状への"とらわれ"に対する外来森田療法」『心身医学』第55巻第4号、2015年、 359-366頁、 doi:10.15064/jjpm.55.4_359、 NAID 110009923721
  11. ^ 鍋田 恭孝 (2011). 身体醜形障害――なぜ美醜にとらわれてしまうのか―― 講談社, 182-184頁.
  12. ^ 鍋田 恭孝 (2011). 身体醜形障害――なぜ美醜にとらわれてしまうのか―― 講談社, 182-183頁.
  13. ^ 鍋田 恭孝 (2011). 身体醜形障害――なぜ美醜にとらわれてしまうのか―― 講談社, 182・211-212・214-215・219-220・222頁.

参考文献 

関連項目 

外部リンク 

 

意図的か否かにかかわらず、政治的文化的に疎外された集団に対する何気ない日常の中で行われる言動に現れる偏見や差別に基づく見下しや侮辱、否定的な態度のこと

マイクロアグレッション  

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

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マイクロアグレッション英語Microaggression)とは、1970年アメリカの精神医学者であるチェスター・ピアス英語版によって提唱された[1]、意図的か否かにかかわらず、政治的文化的に疎外された集団に対する何気ない日常の中で行われる言動に現れる偏見や差別に基づく見下しや侮辱、否定的な態度のこと[1][2]

提案したピアスは、黒人以外のアメリカ人がアフリカ系アメリカ人に対して行うものをさしていたが、その後2000年代にコロンビア大学心理学教授のデラルド・ウィング・スー英語版によって再定義され、様々な人種、LGBTといったジェンダーや障害を持つ人などあらゆる社会的に疎外されているといわれている集団も対象になった[3]

2015年以降は特に、海外の多くの学者や社会的コメンテーターがマイクロアグレッションの概念は、主観的な根拠に過度に依存している、科学的根拠がとぼしいエセ科学である[4]、対人関係等の心理的負荷を自分で処理する能力を低下させ心理的脆弱性を助長している[5][6]コールアウトカルチャー(キャンセルカルチャー)の原動力になっている、論理的思考や批判的思考といった大学生や社会人に求められる思考能力が身につかなくなるなど、マイクロアグレッションの科学的社会的妥当性が疑問視されてきている[7][8][9][10][11][12][13][14]

定義 

1970年アメリカの精神医学者であるチェスター・ピアスによって提唱され[15]、元は人種主義が精神衛生に及ぼす影響の中で、白人が黒人に対して無自覚に行う貶しを意味した[1][16]。2000年代に人種やジェンダー、障害をかかえる等が原因で人が無意識の中で軽視されたり侮辱されたりすることで受ける悪影響の研究が行われた際に、コロンビア大学心理学教授のスーによって再定義され、白人黒人だけでなくその範囲は拡大した[1]

再定義を行ったスーはアジア系アメリカ人に対するマイクロアグレッションについてこのような事例があるとした[3]

  • Alien in own land: 人々が有色人種を外国人だと思い込むこと。例えば、「どこから来たの?」や「なぜ訛ってないの?」などを質問したり思うこと。
  • Ascription of intelligence: 有色人種(とくにアジア系)は知的であるというステレオタイプに基づいて一定レベルの知性を持っていると思い込むこと。例えば、「その授業にアジア系の学生が多くいたら、その授業は難しい、大変だろう。」など。
  • Denial of racial reality: 有色人種は決して差別を受けていないと強調し、不平等な扱いを受けている事実はないと暗に主張すること。
  • Exoticization of non-white women: メディアや創作などで、エキゾチックな存在として描くこと。例えばアジア系女性は従順なタイプかドラゴンレディタイガー・マザーのようなパワフルだが短気なタイプ、アジア系男性は性的意欲がない、弱弱しい描かれ方がステレオタイプだといわれることがある。
  • Refusal to acknowledge intra-ethnic differences: 民族内にも違いがあることを認めない。例えばアジア系アメリカ人はみんな似ており、全員同じ言語を話したり同じ価値観や文化を持っているという前提に基づき、これらの人と接すること。
  • Pathologizing cultural values/communication styles: アジア系アメリカ人の文化や価値観が好ましくないものとして見ること。例えば、アジアの文化的規範が沈黙を大事にするものなのに学校や大学の授業では口頭で参加することを期待され、アジア系アメリカ人の多くがアメリカで学業を成功させるために西洋の文化的規範に従うことを余儀なくされていると感じているとスーは述べている。
  • Second-class citizenship: 有色人種の人が、他の人とは異なる扱いをされ平等な権利を与えられていないと感じるような言動。例えば、韓国人男性がバーに入って飲み物を頼むが、バーテンダーは白人男性に飲み物を出すときに無視した。
  • Invisibility: 人種差別についての議論などが行われる際、議論の外にいると感じさせるようなこと。例えばアメリカの人種に関する議論をする際に、白人と黒人の問題にだけ焦点を当てられ、アジア系アメリカ人は除外されてしまったりすること。

これはあくまでも人種だけで一部であり、ほかにも性別や病気に対してにもあるとしてスー達は2007年に「人種差別のニューフェース」と表現し、差別があからさまなものからより曖昧で、意図的でない回避的な人種差別に変化してきたと述べこれらをマイクロアグレッションと定義している[3]

ただこのスー達の文献に対してアメリカの心理学者スコット・リリエンフェルド英語版は2017年、文献内で提供されている事例の中にはマイクロ(微小)でなく、明白な攻撃、脅迫、偏見であるものがありマイクロアグレッションとは分けるべきものがあると述べている[17]。また同じくカナダの教育者カミーユターナー英語版は、マイクロアグレッションとされるものの中には、自閉症社会不安障害など他のものが起因している可能性があり、マイクロアグレッションに基づき差別をするという悪意があることを前提にすることは事実を見誤り、これらの病を抱える人々には良くないとオックスフォード大学で起きた事例を踏まえ彼女は述べている[18]。オックスフォード大学では2017年、視線を合わせないことをマイクロアグレッションとしていたが、これが視線を合わせることを苦手とする自閉症の人に対して無神経であるとして批判され大学は謝罪した[19]

日本で定義について言及されているものだと、精神保健福祉士でZAC 在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター代表の丸一俊介によると「微細な攻撃」と直訳されることもあるが、マイクロはそのまま「小さい」という意味ではなく、あくまで個人間で発生するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が関係してくる日常的な差別事象のことを指すとしている[2]。表面的には攻撃性がないので、マイクロアグレッションをする側は悪気もなく気づいてすらいないケースがほとんどだが、マイクロアグレッションをされた側は精神的に傷つき、健康を害することがあると丸一は指摘している[20]

批判 

この概念には国外で数多くの批判がある。

マイクロアグレッション研究そのものの信頼性について 

2013年に出されたマイクロアグレッションに関する研究レビューでは、「マイクロアグレッションによる心理的身体的負の影響が文書化され始めているが、これらの研究のほとんどは経験的なものや自己報告に基づいているため、実際に負の影響があるのか、もしそうならばどのようなメカニズムで引き起こされるのかを判断することは困難である」と結論づけている[21]

2017年に出されたレビューでは、心理学者のリリエンフェルドが、10年近く前にスーが提案したころから認知研究や行動研究、十分な実験があまり行われておらず、特定集団を代表しているといえない少ないサンプルからの逸話的な証言に過度に依存しており、マイクロアグレッション研究はほとんど進歩していないと批判している。彼はマイノリティにむけられた小さな差別そのものは否定していないが、マイクロアグレッションの概念と科学的評価のためのプログラムは現実世界での適用を正当化するには、概念的・方法論的な面であまりにも未発達であると結論づけている。彼はマイクロアグレッションに「アグレッション」という言葉を使うのは混乱を招き誤解を招くとして、この用語の放棄を推奨している[7]

アメリカのシンクタンク、機会均等センターの研究員であるアルシア・ナガイはマイクロアグレッション研究は似非科学であると批判する文書を発表した。彼女はマイクロアグレッション理論の背後にいる学者達が、現代科学の方法論、規範を拒絶していると述べている。彼女はマイクロアグレッション研究の欠点として、「偏ったインタビュー質問、物語性への依存、回答者数の少なさ、信頼性や再現性の問題、代替説明の無視」などを挙げている[4]

心理的悪影響、精神的未熟な大人の増加 

ノンフィクションベストセラー『The Coddling of the American Mind英語版』において、グレッグ・ルキアノフ英語版