超正統派 (ユダヤ教)
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超正統派、ハレーディー(ム)(חֲרֵדִים Haredi または Charedi Judaism, ultra-Orthodox Judaism)とは、ユダヤ教の宗派の一部。ユダヤ教正統派の中でも、特に東部ヨーロッパに由来する伝統的な形態とその人々に対する通俗的な呼称。ヘブライ語では、単数形は「ハレーディー」であり、複数形は「ハレーディーム」(意味は「神を畏れる人」)である。ユダヤ教の最右派。信仰上の理由から出生率が高い(6.9)ため、イスラエル国内で信者数が増加している[1]。人口に占める信者の比率は、2014年時点報道での10%近く[2]から、2019年1月時点の報道では12%(約100万人)へ増えている。21世紀半ばにはイスラエル人口の40%に達するとの予測もある[1]。
特徴
- 形容詞ハレーディーは、動詞の「ハーラド((神を)畏れる)」、形容詞の「ハーレード」に由来する。
- イディッシュ語話者が多い。
- 外見的な特徴としては、男性は頭髪のもみあげを伸ばして黒い帽子・衣服を着用し、女性は鬘やスカーフで地毛を隠すことが多い[1]。
- ユダヤ教の教義を学ぶことを最優先と考え、近代的な技術や価値観に否定的で、インターネットやテレビなどを利用せず、代わりに街頭に貼られた「パシュケビル」と呼ばれるポスターによって情報を得る。携帯電話は通話機能のみが付いた、宗教指導者から認定を受けたものしか使用できない。男性信徒はイェシーバーに籍を置き、教義を学ぶことに一生を捧げることが求められているため、就労していない者が多く、代わりに女性(妻)が就労して家計を支えるということが多い[3]。これに加えて大家族のために貧困層が多く、イスラエル国内の信徒は、政府から生活保護費である補助金(一家族平均で月3,000~4,000シェケル)の支給を受け、税や社会保障負担も減免されている。このような超正統派への公費支出に不満を抱く世俗派ユダヤ教徒もいる[1]。
- 2010年代のイスラエルで発生するはしかの感染者のうち、85-90%は超正統派の人々であった。超正統派にはワクチン接種に反対するような教えはなく、宗教指導者も健康維持のために接種を勧めているが、超正統派は大家族構成で子どもが多い傾向があり、かつ貧困層が多いことから子供に接種を受けさせる余裕がない家庭が多いことが、イスラエル保健当局から指摘されている[4]。
- ほとんどの正統派信徒がイスラエル国防軍の兵役についているのに対し、超正統派は教義を学ぶことを理由に、兵役を拒否している。政府も建国以来、兵役を免除していたが、2014年3月に兵役を課す法案が国会で可決された。これにより、2017年から男性信徒に限り、兵役が課されることとなった[2]ものの、反発は強く、2018年11月にはエルサレムで抗議デモが発生した[1]。
- 性的な表現の禁忌と性の分離を厳格に実施している。子供の頃から男女を分けて教育を行うほか、嘆きの壁での礼拝も男女別に柵で分けられる。異性交遊は禁止されているため、結婚は自由恋愛ではなく、仲介人を通じて家柄や宗教学校での成績によって相手を判断する見合い結婚がほとんどである。また、宗教や人種を問わず、女性の画像を見せることは慎みに欠けるとして避けられる傾向にあり、超正統派系の新聞では、ドイツのアンゲラ・メルケルやアメリカ合衆国のヒラリー・クリントンなどの女性政治家の姿を写真から消して(修整して)掲載したことがある[5]。ハシディームと呼ばれる一派はさらに厳格であり、女性の姿を見ることはおろか、頭の中で想像することすら禁じている。また、超正統派の居住地区では、「露出の多い服を着て地区内を歩かないように」といった注意書きが掲示されていることも多い。
- 特にナートーレー=カルターの一派はイスラエルの建国を認めていない。これは、イスラエルの再建はメシアの到来によってなされるべきであり、人為的に行うものではないという信念から来ている。しかし、ナハル・ハレーディー(Nahal Haredi)というイスラエル国防軍の超正統派部隊も存在する。
- イスラエルでは、エルサレムにおけるメアシェアリームやテルアビブ近郊のブネイ・ブラクなどに彼らの集住地域がある[3]。
- エルサレムにおいてはパレスチナ人とはほとんど接触がない。
組織
グループには次のようなものがある:
- ユダヤ・トーラ連合 - アシュケナジム系の政党
- シャス - ミズラヒム・セファルディム系の政党
- アメリカ・アグダット・イスラエル Agudath Israel of America
- ハシディズムのグループ - Hasidic: ハバド・ルバヴィッチ Chabad Lubavitch, サトマール派 Satmar, ベルツ派 Belz, ボボフ派 Bobov, ボストン派 Boston, ゲル派 Ger, ヴィジュニッツ派 Vizhnitz, ブレスロフ派 Breslov, プパ派 Pupa, ボヤン派 Boyan, ムンカッチ派 Munkacz, リムニッツ派 Rimnitz といったグループ (ハシディズムの宮廷の一覧を参照)
ラビ
- バアル・シェム・トーヴ(18世紀のハシディズム創設者)
- ヴィルナのガオン en:Vilna Gaon (リトアニア、ミスナグディーム)
- ハイム・ヴォロジン Rabbi Chaim of Volozhim (19世紀、ヴォロジン・イェシーバーなどの創設者)
- モーゼス・ゾーファー Rabbi Moses Sofer (18世紀から19世紀のラビ・宗教学者で、東欧の超正統派の指導者)
- ゲル派のラビ Rabbis of the Gerrer Hasidim (ポーランド出身、現在イスラエル)
- ハバド・ルバヴィッチのラビ Rabbis of Lubavitch
- アブアラム・イェシャヤフ・カレリッツ Rabbi Avraham Yishayahu Karelitz (イスラエルの超正統派の指導者)
- アハロン・コトラー Rabbi Aharon Kotler (アメリカ、レイクウッド Lakewood のレイクウッド・イェシーバー Lakewood yeshivasの創設者)
- オバディア・ヨセフ Rabbi Ovadia Yosef (セファルディム系の超正統派、シャス党首)
- ヨセフ・シャーローム・エリアシヴ Rabbi Yosef Shalom Eliashiv (イスラエルの超正統派の指導者)
出来事
題材にされた作品
脚注・出典
- ^ a b c d e 『読売新聞』朝刊2019年1月30日(国際面)掲載<【世界深層in-depth】イスラエル子宝の楽園>の関連記事<「超正統派」新たな問題>。
- ^ a b “超正統派ユダヤ教徒も兵役 イスラエル、17年から”. 共同通信. 47NEWS. (2014年3月12日) 2014年3月12日閲覧。
- ^ a b “ユダヤ教「超正統派」居住区で感染拡大 集団礼拝やめず 大家族で“密集”し生活”. 毎日新聞 (2020年4月5日). 2020年4月8日閲覧。
- ^ “客室乗務員がはしかに感染、昏睡状態に イスラエル”. CNN (2019年4月18日). 2020年4月29日閲覧。
- ^ “イスラエル紙、パリ行進写真から女性首脳の姿を削除”. CNN (2015年1月15日). 2020年4月29日閲覧。
- ^ “ユダヤ教葬儀散会させる NY市長、差別と批判も―新型コロナ”. 時事通信 (2020年4月30日). 2020年4月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月30日閲覧。
関連項目
外部リンク
- Varieties of Orthodox Judaism (Prof. Eliezer Segal at the カルガリー大学 University of Calgary)
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