Qアノン
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Qアノン(キューアノン、英: QAnon、発音: [ˌkjuːəˈnɒn])、あるいは単にQとは、反証され信用されていないアメリカの極右の陰謀論である。この陰謀論では、世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者[1]・小児性愛者・人肉嗜食者の秘密結社が存在し、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄であるとされており[2][3][4][5][6][7][8][9]、神に遣わされた救世主として信奉者に崇拝されている[10][11][12][13]。Qアノンは、一般的にカルト宗教とみなされており[14][13][15]、FBIによって自国産テロリズムの潜在的要因として認識されている[16][17]。
概要
この陰謀論で仮定されている秘密結社は、一般的にディープ・ステート(英: deep state、影の政府)やカバール(英: cabal、直訳で「陰謀団」)と呼ばれている[3]。この陰謀論の信奉者は、自由主義的(リベラル)なハリウッドセレブや民主党の政治家、および政府高官の大多数をその秘密結社のメンバーであるとして非難しており[18]、トランプが計画している「嵐」(英: The Storm)と呼ばれる報復の日には、秘密結社のメンバーが大量に逮捕されると信じている[19][20]。また、バラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ジョージ・ソロスによるクーデターを阻止するために、トランプはロシア人との共謀(ロシア疑惑)を装ってロバート・モラーに児童売春組織の存在を暴露し、彼に協力を仰いだと信奉者は主張している[21][22]。Qアノン陰謀論は、ロシア政府の支援を受けたソーシャルメディア上の荒らしアカウント[29]、およびロシアの国営メディア(ロシア・トゥデイやスプートニクなど)によって拡散されている[23][11]。
ピザゲートなどの同様の陰謀論が先行して拡散されていたが[30][31]、Qアノンの正確な始まりは、2017年10月に「Q」というハンドルネームの人物によって、匿名画像掲示板の4chanに投稿された一連の書き込みである。この時点でのQは、恐らくアメリカに住む個人だったが[32]、現在では同じ名前で行動している複数人のグループである可能性が高い[33][34]。Qの投稿を対象に計量文献学的分析を行った研究では、少なくとも二人の人物が異なる時期に「Q」という名前で投稿を行ったことが示唆されている[35][36]。「Q」というのは、トランプ政権とその反対派に関する米国内の機密情報にアクセスできる「Qクリアランス」の権限を持つ政府高官という意味である[37]。NBCニュースは、Qがオリジナルの投稿を行った直後、3人の人物が複数のメディアプラットフォームにその投稿を拡散し、インターネット上の信奉者を増やして利益を得ていたと報告している。Qアノン以前にも、FBIAnon、HLIAnon(High-Level Insider)、CIAAnon、WH Insider Anonといった同様の書き込みが行われていた[38]。米国発祥であるにも関わらず、Qアノン運動は米国外でも興隆しており、2020年以降はイギリスやフランス[39]、ドイツと日本では「特に強力で大規模な」運動が展開されている[40]。日本のQアノン信奉者は「Jアノン」と呼ばれている[41]。
2018年8月には、トランプ再選キャンペーンの集会にQアノン信奉者が現れ始めた[42]。Qアノンの主要な拡散者であるビル・ミッチェルは、2019年7月にホワイトハウスで行われた「ソーシャルメディアサミット」に出席した[43][44]。Qアノン信奉者は、ソーシャルメディアの投稿に「#WWG1WGA」というハッシュタグを一般的に付けている[45]。これは「Where We Go One, We Go All」の略であり、日本語だと「我々は一致団結して進んでいく」という意味の標語である。2019年8月の集会には、Qアノンの標語を使用して群衆を鼓舞していた男性がいたが、後に彼はQアノンを意識したものではないと否認した。これは、FBIがQアノンを自国産テロリズムの潜在的要因であるとする報告書を発表した数時間後に発生した。なお、米国政府機関が正式に陰謀論をそのように評価したのは初めてのことである[46][47]。Media Matters for Americaが行った分析によると、2020年10月の時点で、トランプはQアノンと関係している150個のTwitterアカウントに返信したりリツイートすることで、少なくとも258回、時には1日に何度もQアノンの主張を拡散・増幅させていた[48][10]。Qアノン信奉者は、トランプのことを「Q+」と呼ぶようになった[49]。
Qアノン陰謀論の信奉者数は不明だが[50]、この陰謀論はオンライン上で多くの信奉者を擁している。2019年に「8kun」へと改名された画像掲示板の「8chan」は、Qがメッセージを投稿する唯一の場所であるため、Qアノンの牙城となっている[9][51][52][53]。2020年6月には、Qは信奉者に「デジタル兵士の誓い」を行うように促し、多くの信奉者がTwitterのハッシュタグ「#TakeTheOath」を使って誓いを立てた[54]。2020年7月には、Twitterは数千個のQアノン関連アカウントを停止し、陰謀論の拡散を抑制するためにアルゴリズムに変更を加えた[55]。2020年8月に報告されたFacebookの内部分析によると、数千のグループやページにまたがる数百万人の信奉者がいたことが判明した。Facebookは、同月後半にQアノンの活動を削除・制限する措置を講じ[56][57]、10月には陰謀論をプラットフォームから完全に禁止すると述べた[58]。また信奉者らは、EndChanなどの専用の画像掲示板にも移行しており、そこでは、2020年アメリカ合衆国大統領選挙に影響を与えることを目的とした情報戦を行うための組織化が行われていた[59]。
選挙でトランプがジョー・バイデンに敗れると、Qの投稿は著しく減少した。Qアノンは選挙結果を覆そうとする試みの一部となり、連邦議会議事堂襲撃事件で最高潮に達し、ソーシャルメディアによるQアノン関連コンテンツの規制強化が急速に進んだ[60][61][62][63]。バイデン大統領の就任式が執り行われた日、8chanの元管理人であり、Qアノン信奉者の事実上のリーダーであるロン・ワトキンスは、「できる限り元の生活に戻るべきときがやってきた」ことを示唆した[64][65]。他のQアノン信奉者は、バイデン大統領の就任は「計画の一部」であると考えている[65]。
背景
ピザゲート
David Goldberg Twitterより @DavidGoldbergNY Rumors stirring in the NYPD that Huma's emails point to a pedophila ring and @HillaryClinton is at the center. #GoHillary #PodestaEmails23
October 30, 2016[66]
2016年10月30日、ニューヨーク市在住のユダヤ人弁護士とされる白人至上主義者のTwitterアカウントが、「ニューヨーク市警察がアンソニー・ウィーナー下院議員の不祥事を調査したところ、小児性愛者グループと民主党員が繋がっていることを発見した」とする虚偽の投稿を行った[67][68]。同年10月から11月にかけて、大統領選挙でヒラリー・クリントン陣営の選挙責任者であったジョン・ポデスタの私的な電子メールがウィキリークスに流出した。そのメールを読んだ陰謀論提唱者は、メールの中に小児性愛や人身売買を示唆する暗号が含まれていると推測した[69][70]。また彼らは、ワシントンD.C.にある「コメット・ピンポン」というピザ屋が、悪魔的儀式虐待の拠点になっていると考えた[71]。
この陰謀論はその後、同年の4chanの書き込みを典拠としたYour News Wireの記事を皮切りに、フェイクニュースサイトに投稿され始めた。Your News Wireの記事はその後、SubjectPolitics.comなどを含む親トランプ派のウェブサイトによって拡散された。そこでは、ニューヨーク市警がヒラリー・クリントンの家宅捜索を行ったという虚偽の主張が追加されていた[67]。『Conservative Daily Post』は、連邦捜査局がこの陰謀論を正しいものと認めたとする虚偽の記事を掲載した[72]。
「アノン」たち
「アノン」(英: Anon)は、「Anonymous(アノニマス)」という言葉の略語であり、匿名や偽名で書き込みを行っているインターネット利用者のことである[73]。アノンが「調査を行っている」という概念や、機密情報を開示しているとの主張は、Qアノン陰謀論の重要な構成要素ではあるものの、決してQアノンだけに限定されている訳ではなく、Qアノン以前にも多くの「アノン」たちが政府の機密情報へのアクセス権を持っているとする虚偽の主張を行っている。2016年7月2日には「クリントン事件の内幕に詳しい」と主張する自称「ハイレベルなアナリストおよびストラテジスト」の匿名投稿者である「FBIAnon」が、2016年のクリントン財団の捜査に関する虚偽の投稿を開始し、トランプが大統領になったらヒラリー・クリントンは投獄されると主張していた。同時期には「HLIAnon」(High-Level Insider Anon)が、オンライン上で長時間に及ぶ質疑応答を行っており、「アメリカ同時多発テロ事件を阻止しようとしていたためにダイアナ妃は暗殺された」といった様々な陰謀論を吹聴していた。2016年アメリカ合衆国大統領選挙の直後には、「CIAAnon」と「CIAIntern」という二人の匿名投稿者が、CIAの高官であるとの虚偽の主張を行っており、2017年8月下旬には「WHInsiderAnon」という匿名投稿者が、民主党に影響を与えるとされるリークのプレビューを提示していた[38]。
4chan文化の影響
/HTG/(Human Trafficking General)という4chanのスレッドは、ピザゲートとQアノンの間にある「ミッシングリンク」であると表現されている。/HTG/の文化は、漏洩したEメールを詳細に調査するのではなく、「考えうるストーリーの構築」にユーザーを積極的に参加させることを可能にするものだった。/HTG/の主要な投稿者は「Anonymous 5」(「Frank」という名でも知られている)であり、彼は「児童買春調査官」を名乗っていた。しかし、首尾一貫したストーリーの欠如が足枷となり、/HTG/がピザゲートほどの人気を得ることはなかった[74]。
「ヒラリー・クリントンは小児性愛者組織に直接関与していた」「ロバート・ミュラーはトランプと密かに協力していた」「大規模な軍事法廷が差し迫っている」などの主張を含むQアノンの主要教義は、Qの登場以前から既に4chanに存在していたものである。そのためQは、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマ、ジョージ・ソロスといった事前にコミュニティ内で強く嫌われていた人物を主なターゲットにしている。また、Qアノンの「カノン」(正典)の中心的概念である「嵐」(英: The Storm)は、「カバールのメンバーが大量逮捕される様子がテレビで放映される」という「イベント」(英: The Event)が差し迫っているとの予言を書き込んでいた「光の勝利」(英: Victory of the Light)という名前の別の投稿者から借用された概念であるとの主張もある[74]。
起源と拡散
2017年10月28日、「Qクリアランスの愛国者」(英: Q Clearance Patriot)というハンドルネームのユーザーが画像掲示板の4chanにある/pol/という板に現れ、「嵐の前の静けさ」(英: Calm Before the Storm)というタイトルのスレッドを作成した[32]。このタイトルは、自身が出席した米軍首脳の会合を「嵐の前の静けさ」と表現したドナルド・トランプによる謎めいた発言を引用したものである[32][75]。「嵐」(英: The Storm)は、秘密結社のメンバーが大量に逮捕・投獄され、子供を食い物にしている小児性愛者であることを理由に処刑されるという、近い将来に起こると信じられている出来事を表すQアノン用語になった[19]。投稿者のハンドルネームは、核兵器などに関する最高機密情報にアクセスするために必要な米国エネルギー省の機密情報取扱権限[76]である「Qクリアランス」を有していることを暗示しているものである[77][78]。Qの投稿を解釈・分析することを中心としたインターネットコミュニティは直ちに形成され、何人かの個人がそのコミュニティ内での有名人となった[79][80]。
ロイターの報道によると、2017年11月には早くもロシア政府の支援を受けたTwitterアカウントがQアノンの拡散に関与していたという[24][26]。
2017年11月には、ポール・ファーバー、コールマン・ロジャース、トレーシー・ディアスの3人が2人の4chanモデレーターと小規模なYouTuberと協力して、Qアノンをより多くの人々に拡散するための活動を開始した[81][82]。一部のQアノン信奉者は、この3人はQアノン運動から利益を得ているとして非難している[38]。3人はその後、Redditのコミュニティを作成し、2018年3月にそのサブレディットが禁止・閉鎖されるまで、陰謀論を広めるための影響力を保っていた。Redditの運営は、暴力の扇動や個人情報の投稿を行っていたため閉鎖したと説明している[38]。Qアノンは、TwitterやYouTubeなど他のソーシャルメディアにも拡散された[79]。ロジャースと彼の妻であるクリスティナ・ウルソは、この陰謀論に特化したYouTubeライブストリーム『Patriots' Soapbox』を立ち上げ、寄付を募っていた。その配信で招かれたゲストには、議員選立候補者のローレン・ボーベルトやトランプ陣営の広報担当者が含まれている[81]。Qの投稿は後に8chanに移行し、4chanには「スパイが潜入している」としてQは懸念を表明した[38]。8chanがエルパソ銃乱射事件といった凶悪事件に関連しているとして2019年8月に閉鎖されると、Qアノン信奉者は8kunやEndChanに移行した[49][59]。
Qアノンは、2017年12月に初めて主流のマスコミから注目を集め、2018年の初めには、主流派の右翼からの支持も集め始めた。テレビ司会者のSean HannityとエンターテイナーのRoseanne Barrは、ソーシャルメディアのフォロワーにQアノンに関するニュースを拡散した。InfoWarsの主催者であり、極右の陰謀論者であるアレックス・ジョーンズは、Qと個人的に接触していると主張した。2018年7月にフロリダ州タンパで行われた中間選挙に向けたトランプ派の集会にQアノン信奉者が一斉に現れたことで、この陰謀論は主流なものになった[30][79]。
Qの投稿を集約することに特化したウェブサイトである『Qdrops』は、この陰謀論の拡散に欠かせないものとなった。『QMap』は最も人気かつ有名な情報収集サイトであり、「QAPPANON」という名で知られている匿名の開発者かつQアノンに関する重要人物によって運営されていた[83][84]。しかし、『QMap』は2020年9月に事実確認サイト『Logically』が報告書を発表した直後に閉鎖され、「QAPPANON」はニュージャージー州を拠点に活動しているJason Gelinasというセキュリティ・アナリストではないかとの仮説が立てられた[84][85]。
南カリフォルニア大学教授でデータサイエンティストのEmilio Ferraraは、Qアノンのハッシュタグを使用して研究を行い、Infowarsやワン・アメリカ・ニュース・ネットワークをリツイートしているアカウントの約25%がボットであることを明らかにした[86]。
パステル・Qアノンは、主にInstagram・Facebook・WhatsApp・Telegram・TikTokなどのソーシャルメディア上で、主に女性を陰謀論に教化することを目的とした諸々の技法である[87][88]。これらの技法は、女性的な美的感覚(名前の由来となっているパステルカラーを含む)や言葉、活動、およびコミュニティを使用し、ゲートウェイ・メッセージを利用して、陰謀論を一見すると筋が通っているように見える関心事に仕立て上げている[89][87]。カナダのコンコルディア大学の研究者であるMarc-André Argentinoがこの傾向を指摘した[90]。
ヨーロッパにおける拡散
新型コロナウイルスの大流行が発生した2020年3月から6月の間には、Qアノンの活動はFacebookで3倍近く、InstagramとTwitterでは2倍近くに増加した[91]。その頃には、Qアノンはヨーロッパ(特にドイツ)にまで拡散されていた。極右の活動家やインフルエンサーたちは、YouTube・Facebook・Telegramにおいて推定20万人のドイツ人Qアノン信奉者を生み出した。ドイツのReichsbürgerというグループは、現代のドイツは主権国家ではなく、第二次世界大戦後に連合国によって作られた傀儡国家であるという信念を広めるためにQアノンを利用し、トランプが軍勢を率いてライヒを復興させるのではないかという願望を表明した[92]。カナダでもQAnonを宣伝しており[93][94][95]、イギリスでは4人に1人はQAnon関連の理論を信じていると言われているが、QAnonを支持しているのは6%に過ぎない[96]。チャーリー・ウォードとマーティン・ゲッデスはQAnonの影響力のあるイギリスの宣伝者として人種差別とファシズムに反対する利益団体の「Hope not Hate」にリストアップされており、ゲッデスは「世界で最も人気のあるQAnonのTwitterアカウントのひとつを運営している」としている[97]。スペインでは、極右のVox党はTwitterアカウントにて、バイデンは 「小児性愛者によって好まれる」候補者であると主張することによって、反バイデン陰謀論を支持していると非難された[98]。RTVEのニュースレポートによると、スペインのQAnon支持者のほとんどがVoxを自分たちの希望する政党として特定していることが判明した[99]。
中南米における拡散
この動きは中南米にも広がり、コスタリカ、コロンビア、アルゼンチン、メキシコ、パラグアイ、ブラジルなどの国がオンラインで存在感を示している[100][101]。コスタリカ最大の新聞社「ラ・ナシオン(La Nación)」の調査によると、Facebookのページは誤報やフェイクニュースを拡散し、カルロス・アルバラド大統領の退陣を求め、極右大統領候補のフアン・ディエゴ・カストロ・フェルナンデスや物議を醸しているドラゴス・ドラネスク・バレンシアノ、エリック・ロドリゲス・ステラーなどの右翼の人物を称賛している[102]。
日本における拡散
画像提供依頼:日本におけるトランプ支持デモの画像等の画像提供をお願いします。(2021年1月) |
トランプ支持デモ
日本においても2020年アメリカ大統領選挙以後(2020年11月3日以降)も東京や大阪など各地で「トランプ応援デモ」が行われている。2020年11月、12月に各地で数回行われたデモの中では、反共主義、反中国共産党を掲げる幸福の科学、法輪功、統一教会分派のサンクチュアリ協会といった新宗教の関係者や新約聖書の言葉を印刷した横断幕を持つ一群、日の丸を掲げる者や、安倍晋三への支持を表明するプラカードが確認される一方で、トランプへの支持を表明するプラカード、星条旗、太極旗、南ベトナム旗、南モンゴル旗、郭文貴やスティーブ・バノンが設立した新中国連邦の旗など多種多様な旗やプラカードが確認できたという。幸福実現党の与国秀行はデモ後の街頭演説で「アメリカでトランプが今ディープステートと闘っている。私達日本人もまた闘わなければならないときに来ています。」と訴えた。日本では、Twitter上などで、日本国内でアメリカ大統領戦の不正などを主張するトランプ支持者などを「Qアノン」ならぬ「Jアノン」と呼ぶ声もある[103]。
法輪功系マス・メディアの看中国は、2020年11月29日に東京の日比谷公園で行われた「トランプ米大統領再選支持デモ」には、日本沖縄政策研究フォーラム、統一日報、新中国連邦、大韓民国自由民主主義を守る在日協議会(韓自協)など約30の団体と1000人以上の参加者があったと報じている。デモには北海道から沖縄まで全国各地から参加者が集まり、さらには中国人、韓国人、ポーランド人の参加もあったとも報じている。このデモの実行委員長は、トランプと反トランプ勢力の戦いは「善と悪の戦い」であると演説している。デモに参加した仲村覚は看中国のインタビューに対して「もしバイデンが本当に勝ったんでしたら、おそらく日本は沖縄が中国に乗っ取られてしまうという強い危機感を持っております。問題はアメリカもそうですし、日本は事実上中国の統一戦線工作に革命ツールとして利用され、乗っ取られてしまっているということに日本全体が、気が付いていない人が多いと(思います)。」と答えている[104]。 日本の右派系メディアの文化人放送局はこのデモを好意的に報じた[105]。また、日米を中心に旧満州国の継承を自称して現在も活動する満洲国政府もジョー・バイデンの当選を認めていない[106]。
2020年1月17日に福岡市内で行われた「トランプ米大統領支持デモ」では、開始前集会で参加者の男性が「ディープ・ステートはロスチャイルドやロックフェラー、中国共産党と結託しており、GAFAを丸め込んでバイデンを支持している」と言う趣旨のスピーチをしたり、デモ隊の中に「ピザゲート事件」に関するプラカードを掲げる者が現れたり、「ゴッド・ブレス・トランプ!」、「バイデンは、トランプの票を盗むな!」、「トランプは、法と秩序を守る善の大統領だ!」などの掛け声がデモ隊から上がったり、巨大なトランプ神輿を担ぐものが現れたり、マスクをつけずに旭日旗を持ち、チベット旗、東トルキスタン(ウイグル)旗、南モンゴル旗、満州旗と「人権・信仰」と書かれた文字がプリントされた腕章を付けて歩く男性がいたり、台湾旗を持つものなど多様な顔ぶれが参加していたと報じられている。参加者数は250人ほどで、サンクチュアリ協会のメンバーや個人の立場で参加したと話す中国人女性や複数の未成年者やその母親らしき女性の姿も確認できたと言う。現地で取材をしたルポライターの安田峰俊は「日本におけるトランプ支持のデモ参加者は統一教会系の新宗教団体が主催し、在野のネット右翼、反体制派の中国人などが参加しているとし、結果的に非常にカオスなムーブメントが作り出されている。」と評している[107]。一方で安田浩一や野間易通はのりこえねっとのYouTubeチャンネルの中で、日本におけるトランプ政権推進勢力や朝鮮学校関連のヘイトデモの背後には、韓国の国情院(NIS)や民間の反共主義団体がいるのではないかと推測している[108]。
2020年米大統領選に関する大量の陰謀論や偽情報
日本のSNS上では、2020年米大統領選に関する大量の陰謀論や偽情報が流れており、主な内容としては「トランプ大統領が戒厳令が発令」、「戒厳令の布告は緊急放送システムを使って行われるとみられる」、「戒厳令 速報!ペロシ逮捕 & 特殊部隊PC押収について!」、「停電したバチカンでローマ教皇が逮捕された」などがある。匿名のSNSユーザーがTwitterやFacebook、YouTubeを利用して発した例もある一方で、著名な政治評論家がSNS上で発言している例もある。元々、ゲーム実況などをしていた者が陰謀論に「衣替え」してアクセス数を荒稼ぎしているケースも推測されるという[109][110]。また、日本のネット上ではトランプのことを「おやびん」や「トランプおやびん」などと呼ぶミームがおきた[111]。
アメリカの匿名掲示板の4chanや8chanが、日本の匿名掲示板(2ちゃんねるなど)の影響を受けて誕生したことを指摘する論考もある[112]。
藤倉善朗は統一教会系メディアのワシントン・タイムズや世界日報、法輪功系メディア大紀元(Epoch Times)といった新興宗教系メディアの存在が2020年米大統領選に関する陰謀論やフェイクニュースの発信源となっていたと指摘する[113][114]。
なお、公人の中でも大紀元を引用する向きはあり、例えば元北海道議会議員の小野寺秀(自由民主党)は大紀元の報道を引用する形で「この大問題を日本のマスコミは一切スルー…今回の大統領選挙のデータだけが消去されていた事や集計ソフトに問題があった事等が判明したにも拘らず…だ。正に民主主義を嘲笑うテロ行為ではないか!【ドミニオン調査レポート「重要記録が削除された」「エラー率68%」】」といわゆる「ドミニオン社をめぐる陰謀論」についてツイートしている[115]。
公人がトランプ寄りのフェイク情報を拡散した例としては、神戸市会議員の岡田祐二(自民党)がいる。岡田は、トランプ氏の支持者が2020年11月14日に首都ワシントンで開いた集会をめぐり、トランプ側に立ったフェイク情報をツイッターで拡散した[116][117]。他にも豊島区議会議員の沓沢亮治(元N国党、元しきしま会)がトランプ支持を表明して、フェイク情報を拡散している[118]。
2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件においても、アメリカ議会占拠はANTIFAの仕業だという陰謀論がSNS上で広まった。このときは、単に匿名のSNSユーザーが拡散させたのみならず、夕刊フジは、2021年1月8日付(7日発売)の紙面で「議事堂に侵入したデモ隊について、トランプ支持者と報じるメディアが多いが、ネット上には極左集団が紛れ込んでいるとの情報もある」と報じたり、現地のワシントンDCで2021年1月に取材をしたジャーナリストの我那覇真子が「ANTIFA犯行説」を唱えたり、朝日放送テレビの『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(2021年1月9日放送)で、お笑い芸人のほんこんが「TwitterとかYouTubeとかで見させてもろたけど、警察の方々が招き入れてる映像も残ってるんですよ……これがほんまにANTIFAっていう証言も出てるんで、それは平行に〔?〕公平性をもって放送したほうがエエと思いますけども」と発言したりしている[119]。また、日本文化チャンネル桜の水島総も「米議会侵入は本当にトランプ派か?」と題した番組(2021年1月13日放送)の中で「議会突入をした者の背後には中国政府の工作員がいるに決まっている。」、「襲撃事件後にトランプ及びトランプ派の共和党議員に資金提供をやめると発表した大企業(ロックフェラーなど)こそがディープステートの構成員だ。」という趣旨の話をしている[120]。
ニュースサイトのLITERAは、トランプ寄りの立場から2020年米大統領選の不正デマを発した著名人の例として、小説家の百田尚樹、ジャーナリストの有本香、動物行動学者の竹内久美子、フジテレビ報道局解説委員室上席解説委員の平井文夫、高須クリニックの高須克弥、小説家の門田隆将の名前を挙げている[121]。他に深田萌絵[122]、田母神俊雄[123]、ASKA[124]、藤原直哉[125]、石平と大高未貴[126]、洪熒[127][128]、孫向文[129]、井上太郎[130][131]、岡村幹雄[132]、河添恵子と馬渕睦夫[133]、仲田洋美[134]、宮崎正弘と渡辺惣樹[135]、篠原常一郎と山口敬之[136]、中杉弘[137]、フィフィ[138]らも2020年米大統領選に関する陰謀論を主張している。
右派メディアのDHCテレビジョンの「虎ノ門ニュース」は米大統領選をめぐって2つに割れた。2020年11月24日の虎ノ門ニュースで、百田尚樹、藤井厳喜が「大統領選は不正選挙だ」という立場で出演して、特に百田は番組内で「トランプの弁護士のシドニー・パウエルやL・リン・ウッドを支持する」という趣旨の発言をした[139]のに対して、翌日25日には上念司、ケント・ギルバートは「トランプは大統領選で正式に敗北した」という立場で虎ノ門ニュースに出演している[140]。これに関して京本和也は、上念らを擁護して百田を批判した[141]。その後、百田と京本の間で論争が起こり、11月29日には百田及び百田と近しい有本香が京本を裁判で訴えると表明[142]し、上念もDHC側の要望で、虎ノ門ニュースを含むDHCテレビジョンのすべての番組から2021年1月5日付けで降板させられた。降板後に本件に関して上念は「極右や差別主義には迎合しない」という趣旨のツイートをした[143]。
他に保守・右派サイドからの2020年米大統領選に関する陰謀論への批判を行った者として、言論人には倉山満、渡瀬裕哉、渡部悦和、江崎道朗[144]、政治家には野田聖子[145]、音喜多駿[146]、武井俊輔[147]らがいる。倉山はトランプ関連の陰謀論を唱える右派の言論人に対して「ネトウヨ言論人どもの所業、目に余る」、「ネトウヨメディアに出演する言論人に、言論の正当性などという概念はない。サービス業の如く、客が望む言論を発するだけだ」と辛らつに批判した[148]。渡部もトランプ支持者[149]に批判されたが、渡部自身はトランプ支持者を「日本の主要メディアをマスゴミと馬鹿にして信じないし、そこから情報を入手しようとしない。無条件に信じているのはトランプがツイッターなどで発信する内容だ。自分が信じていることを裏付けてくれる出所不明の権威のない情報に飛びついて、ファクトチェックをしないで信じている。」とこれを批判しつつ、分析している[150]。
木下ちがやは、アメリカ大統領選の不正選挙の陰謀論を唱えた百田及びその支持者のネット右翼がそれに異を唱えた上念らを攻撃する様について、上念らを「常識的な右翼言論人」と一旦は捉えた上で、この陰謀論に加担する右翼言論人は「もう限界値を超えてしまい、後戻りできないところに行ってしまった残念な保守(限界ネトウヨ)」とし、一連の出来事は「安倍政権終焉で始まった右翼の内ゲバ」と分析した[151]。古谷経衡も、日本の保守派やネット右翼がトランプ支持を表明し、大統領選の不正選挙論まで唱えた背景には「第2次安倍政権のイデオロギーを継承しない菅義偉政権に不満を溜めていた彼らにとって、トランプ前大統領は心のよりどころだったからだ」[152]と安倍政権の終焉に絡めて、これを論じている。
江川紹子はオウム真理教の行った不正選挙主張、在特会のいわゆる在日特権の主張、2017年の特定の弁護士への大量懲戒請求(余命事件)といった過去にあった日本の陰謀論の事例と今回のQアノン現象の類似を指摘した上で「陰謀論は善悪二元論だからシンプルだし、面白くて分かりやすい。だけど、現実はもっと複雑で、面倒臭いし分かりにくいものですよね。日本のメディアも分かりやすさを最優先させてきた、という点で、土壌を作る役割を果たしてしまったところはあると思います。」と分析した[153]。
保守・右派サイドからの陰謀論が目立つが、大袈裟太郎によると、軍産複合体に反対するリベラル系の中にも「不正選挙デマ」に乗る者がいるという。その理由としては「リベラル派の中にトランプ支持が浸透する大きな理由は『トランプは戦争をしていない』というイメージ」があるからだという。沖縄の基地反対運動を行う人、山本太郎が代表のれいわ新選組の支持者の人[154]、さらには香港の民主派の人の中にすらトランプ支持の声があると大袈裟は報告している。また、Kダブシャインなどいわゆるスピリチュアル系の人やその系統のミュージシャンにも不正選挙論は浸透しているとも大袈裟は指摘する。その理由としては「社会経験の乏しさから、社会の構造への認知が歪んでおり、そこにQ的な陰謀論が入り込むのだろう」という。なお、熱を入れてQアノンに染まってしまったKダブシャインは今や名前を捩られ「Qダブシャイン」とアメリカで呼ばれてしまっているとも大袈裟は報じている[155]。
日本国内で新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に関するPCR検査所に抗議する活動をしている集団が、Qアノンと相互に影響しあっているという指摘もある[156]。
内容
この陰謀論は「事実無根」[42][157]で「証拠がない」[158]と広くみなされている。信奉者たちは「気の狂った陰謀論カルト」[22]や「インターネット上で最も常軌を逸しているトランプ支持者」[159]と呼ばれている。この陰謀論は主にトランプ支持者によって拡散されており、「嵐」(英: The Storm)や「大いなる覚醒」(英: The Great Awakening)などが唱えられている。Qアノンの教義と語彙は、千年王国や終末論といった宗教的概念と密接に関連しており[19]、新宗教運動との見方にも繋がっている[49][160][161]。Qアノン信奉者は、トランプをキリスト教徒としては欠陥があると見ている一方で、神が遣わした救世主(メシア)とも見ている[10][11][12]。
『ワシントン・ポスト』でQアノンについて詳説している陰謀論研究者のトラビス・ビューによると、この陰謀論の本質は次のようなものである[19]。
Qアノン信奉者は、「嵐」と呼ばれる日が差し迫っていると信じている。その日には、何千人もの秘密結社のメンバーが逮捕され、グアンタナモ湾収容キャンプに送られるか、あるいは軍事裁判にかけられ、アメリカ軍が国の支配を容赦なく取り戻し[19]、地上に救いと楽園がもたらされると信じられている[162]。
虚偽の予測(予言)
Qアノンの最初の予測は、ヒラリー・クリントンは逮捕され、国外逃亡するだろうというものであったが、この予測は外れた。他の外れた予測には以下のようなものがある[164]。
- 2017年11月3日に「嵐」が始まる(何も発生しなかった)
- 2018年2月1日に国防総省を巻き込んだ大事件が発生する(何も発生しなかった)
- 2018年2月10日に大統領に狙われた人々が一斉に自殺する(その日に自殺した著名人は一人もいない)
- 2018年2月16日にロンドンで自動車爆弾テロが発生する(テロは発生しなかった)
- トランプによる軍事パレードは「決して忘れられないものになる」(パレードは中止された)
- ファイブ・アイズは「長くは続かない」(まだある)
- 2018年4月10日に重慶で何か大きなことが起こる(特に何も起きなかった)
- 2018年5月に北朝鮮に関する「爆弾発言」の暴露がある(目立った展開はなかった)
- 2018年3月にヒラリー・クリントンによる悪行の「決定的証拠」となる動画が現れる(そんな動画は現れなかった)
- ジョン・マケインは上院議員を辞任する(辞任しなかった)
- マーク・ザッカーバーグはFacebookを辞職して国外逃亡する(ザッカーバーグは現在もFacebookのCEOである)
- TwitterのCEOであるジャック・ドーシーは辞職に追い込まれる(ドーシーは現在もTwitterのCEOである)
- フランシスコ法王が重罪で逮捕される(フランシスコは逮捕されていない)
- 「何か大きなこと」が起こる、あるいは「来週」には真実が明らかになるだろうという複数の予測(どれも外れている)
- 2021年1月20日にドナルド・トランプが選挙で負けたにも関わらず再就任するという複数の予測。実際にはジョー・バイデンが予定通り大統領に就任した[165]。
- 2021年3月4日にドナルド・トランプが第19代大統領として就任するという予測。これは、「1871年のコロンビア特別区基本法によってアメリカ合衆国は法人化された」というソブリン市民運動が提唱している陰謀論から派生したものであり[166]、トランプがユリシーズ・グラントに次ぐ第19代大統領として就任すれば、アメリカは法人ではなくなり、再び建国の父が始めた本当のアメリカに戻るという主張がなされている[167][168]。3月4日が就任日となっているのは、1869年以降の合衆国憲法の修正を陰謀論信奉者らが認めていないためである[169]。
- 2021年3月20日にドナルド・トランプが再び大統領に就任するという予測。2021年3月4日にトランプが就任するという予言が外れたため、Qアノンは就任日を2021年3月20日に「延期」した[170]。
虚偽の主張
「Q」は、上記の外れた予測と同様に、以下のような多数の虚偽で事実無根かつ裏付けのない主張を投稿している。
- 北朝鮮の金正恩はCIAが任命した傀儡の支配者であるという主張[171]
- ドイツのアンゲラ・メルケル首相はアドルフ・ヒトラーの孫娘であるという主張(2018年3月1日)[172]
- 「銃乱射事件はすべて秘密結社によって行われている偽旗作戦である」という主張(2018年7月7日にデイリー・ビーストの記事が指摘)[18]
- 下院議員で民主党全国委員会委員長のデビー・ワッサーマン・シュルツは、エルサルバドルのギャング「マラ・サルバトルチャ」を雇ってDNC職員のセス・リッチを殺害したという主張(2018年2月16日)[75][173]
- バラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ジョージ・ソロスらはトランプに対するクーデターを計画しており、国際的な児童売春組織に関与しているという主張[174][175]
- ロバート・モラーによるロシア疑惑の捜査は、実際には上述のクーデターに対するトランプ主導の反撃であり、トランプは民主党を極秘裏に調査するために、ロシアとの共謀を装ってモラーを任命したという主張[22]
- 一部のハリウッドセレブは小児性愛者であり、ロスチャイルド家は悪魔崇拝のカルト教団を率いているという主張[21]。これは、1970年代から出回っている政治的疑惑や噂と同種のものである。一般的には、捜査官が既存の悪魔崇拝カルトを利用して左翼活動家をおびき寄せて脅迫したり、フランクリンの児童買春組織疑惑の場合には、エリート共和党員による悪魔崇拝的な性的虐待を行ったりすることが疑惑の中心となっていた。昔の陰謀論と今回のQアノンの大きな違いは、共和党員ではなく民主党員が悪役にされている点である[176]。
新型コロナ奇跡の治療法
Qアノン信奉者は、新型コロナウイルスの「奇跡の治療法」であるとして、ミラクルミネラルソリューションという工業用漂白剤を飲むことを奨励している[177][178][179]。
児童の大量誘拐
ピザゲートと同様に、Qアノン信奉者は、児童売春組織へ供給するために子供たちが大量に誘拐されていると信じている。Twitterのハッシュタグ「#SaveTheChildren」は、一部の信奉者が2020年までに使い始めたものである[180]。これは、児童福祉団体「セーブ・ザ・チルドレン」の商標名と同じであるため、セーブ・ザ・チルドレンは同年8月7日に名前の無断使用に関する声明を出している[181]。National Center for Missing & Exploited Childrenのデータによると、実際には行方不明の子供の圧倒的大多数は単なる「家出」であり、2番目に多い原因は「家族による誘拐」(米国は離婚が多いため、両親のどちらが子供を引き取るかについて揉めることが多い)で、家族以外による誘拐は1%未満である[182][183]。同年9月、FacebookとInstagramは、ハッシュタグを検索したユーザーを児童福祉団体にリダイレクトすることで、#SaveTheChildrenがQアノンと関連付けられることを防ごうとする措置を講じた[184]。10月には、Facebookはハッシュタグへのリーチを制限することを発表した[185]。Qアノン信奉者は、家具会社のWayfairが児童人身売買被害者を販売して出荷するための密約をしていたとする陰謀論(ウェイフェアゲート)も同時期に流布していた[186][187]。
同様に、「Freedom for the Children」というアメリカとイギリスのグループは、児童の性的虐待と人身売買に対する意識を高めるための街頭デモの開催を支援した[188][189]。これらの抗議活動は、典型的なQアノングループよりも、Qアノン陰謀論のすべての側面を完全には信じていない人々を含む、より多様で若年層の群衆を集める傾向にあり[190]、ソーシャルメディアによる制限措置を避けることが可能であることが多かった[191]。
バイデンの関与
ジョー・バイデンが無事大統領に就任して「嵐」が起こらなかったのをみた信者達は騙されていたと投稿し始めたが、多くのインフルエンサーが、ジョー・バイデンは実はQAnonとともにいる、もしくはQ自身である、という主張を始めた[192]。
Qの主張の変遷
「Q」の投稿は、謎めいた曖昧なものになっていった。そのため、信奉者自身の信念を対応付けることが可能になっている[193]。いくつかの投稿には、暗号化されていると考えられる文字列が含まれている。
「Q」は、外れた予測や虚偽の主張を意図的なものであるとして何度も退けており、「偽情報も必要だ」と主張している[194]。これを受け、オーストラリアの心理学者であるステファン・ルワンドウスキーは、陰謀論の「自己欺瞞的性質」を強調して論じている。彼は、匿名の情報提供者はもっともらしい否認を行っており、陰謀論と矛盾する証拠があっても「信者の心の中では妥当な証拠と化す」と述べている[163]。作家のウォルター・カーンは、「Q」は証拠を直接提示するのではなく「手がかり」を少しずつ出すことで信者を魅了していると考えており、数ある陰謀論の中でも革新的なものであると評している。彼は「インターネットに投稿される物語の読者は、それを読みたいのではなく書きたいのである。提供された答えは望んでおらず、それらを検索したいのだ」と述べている[195]。
「Q」の正体
一部の研究者は、「Q」として知られている匿名の人物は、複数の人物が協力して管理しているものである可能性が高いと考えている[81]。Qの投稿を対象に計量文献学的分析を行った研究では、少なくとも二人の人物が異なる時期に「Q」という名前で投稿を行ったことが示唆されている[35][36]。
4chanや8chanといった匿名の画像掲示板は、投稿者の身元が分からないように設計されているが[81][196]、匿名のまま複数の投稿の間で一貫した身元証明を行いたい人は「トリップ」という機能を使用できる。トリップは、トリップキーを知っている人にのみ与えられるユニークなデジタル署名であり、投稿と関連付けることができる[49][9]。これまでに「Q drops」というQのトリップに関連付けられた投稿は何千件もあったが[49]、トリップは何度か変更されており、投稿者の継続的な身元は不明瞭になっている[49]。8chanはトリップキーを簡単にクラックできることで有名であり(いわゆる「トリバレ」や「漏れ」)、Qのトリップキーは何度も漏洩し、Qになりすました人々に利用されてきた[197]。2019年11月に8chanが8kunとして数ヶ月ぶりに復帰した際、8kunに現れたQは自分自身が本物であることを示すために、以前の8chanの投稿に写っていたペンやノートの写真を投稿し、8chanにおけるトリップを使い続けた[49]。
Qのトリップキーは8chanのサーバーによって一意に検証されるものであり、他の画像掲示板では再現できないため、2019年に発生したエルパソ銃乱射事件に関連して8chanが閉鎖された後、Qは投稿を行えなかった[198]。この明らかな利害対立は、8chan創設者であるフレドリック・ブレンナンの発言や、8chan管理人のジム・ワトキンスによる「Q」のカラーピンの着用、そして8chanに広告を出しているため事実上QアノンのスーパーPACであるジム・ワトキンスの金銭的利害関係も相まって、多くのジャーナリストや陰謀論研究者が、ジム・ワトキンス[199]、あるいは彼の息子で8chan元管理人のロン・ワトキンスは、Qと一緒に活動しているか、あるいはQの身元を知っている、またはQ自身であると考えている[49][53][85][200][201]。しかし、両者ともQの正体は知らないと否認している[49][202]。ドキュメンタリー映画監督のカレン・ホーバックは、ワトキンス親子とブレンナンに3年間密着し、Qアノンの起源と8chanの関連性を調査した。その調査を元に制作されたHBOのドキュメンタリー番組『Q: イントゥ・ザ・ストーム』の最終回で、ホーバックは、ロンとの最後の会話を紹介している。ロンは、カメラに向かって次のように述べている。
私はこの10年間、毎日、匿名でこのような調査を行ってきました。現在では公にしていますが、それが唯一の違いです。基本的には3年間の諜報活動の訓練で、一般人に諜報活動のやり方を教えていました。これは基本的に私が匿名でやっていたことですが、以前はQとしてはやっていませんでした。
そして彼は、「Qとして行っていた訳ではありません。約束します。なぜなら、私はQではないし、Qであったこともないからです」と訂正した[203][204][205]。ホーバックは、これをロンの不用意な告白とみなし、このインタビューとその他の調査から、「ロン・ワトキンスがQである」と結論づけた[205]。ロンは、シリーズ初放送の少し前に、Qであることを再び否定した[206]。
分析
Qアノンは、歴史家のリチャード・ホフスタッターが「アメリカ政治におけるパラノイド・スタイル」と呼んでいる現象として理解するのが最も良い可能性がある[19]。彼は同名のエッセイを1964年に著しており、そこでは宗教的至福千年説と終末論について解説されている。Qアノンは「嵐」(創世記での洪水の物語や審判の日)や「大いなる覚醒」といったキリスト教的な表現を用いており、18世紀初頭から20世紀後半にかけての歴史的・宗教的な大覚醒を想起させるものとなっている。Qアノンに関するある動画は、トランプと「カバール」(陰謀の首謀者であるとされている秘密結社の名前、ディープ・ステートと呼ばれることもある)の間で繰り広げられている戦いは「聖書的」であり、「地球のための戦い、善対悪の戦い」であるとしている。Qアノン信奉者の中には、差し迫っているとされる報復の日は我々が知るような世界の終わりではなく、新たな始まりであり、生き残った人々のために地上に救いと楽園がもたらされる「逆の携挙」であると述べている人もいる[162]。
キリスト教の牧師の中には、自分の信徒にQアノンを紹介している人もいており、少なくとも一人の牧師が、Qアノンとキリスト教を組み合わせた考えを広めている[207]。
Qアノンは、発生から1年足らずで一般の人々に大きく認知されるようになった。2018年8月の『ワシントン・ポスト』紙に掲載されたクアルトリクスの世論調査によると、フロリダ州民の58%がQアノンに関する見解を持つほどQアノンに精通していた。なお、見解を持っていた人のうち、ほとんどの人は好ましくないと回答している。フィーリング・サーモメーターの平均スコアは20点ほどで、非常にネガティブな評価であり、他の政治家によるスコアの約半分であった[159][208]。Qアノンに対する肯定的な感情は、陰謀論的思考に高い受容性を持つことと強い相関があることが判明した[208]。
ピュー研究所による2020年3月の調査によると、アメリカ人の76%がQアノンについて聞いたことがないと回答し、20%が「少し聞いたことがある」と回答し、3%が「よく聞いたことがある」と回答した[209][210]。同年9月に行われたピュー研究所の調査では、Qアノンについて聞いたことがあると回答した47%の回答者のうち、共和党員および共和党支持者の41%がQアノンはアメリカにとって良いことだと考えているのに対し、民主党員および民主党支持者は7%がQアノンはアメリカにとって良いことだと考えていることが判明した[211]。
2020年10月に行われたYahooのYouGovによる世論調査では、Qアノンのことを知らなくても、共和党員とトランプ支持者の大多数は、民主党の幹部は児童売春組織に関与していると考えており、トランプ支持者の半数以上が、自分はそのような組織の解体に取り組んでいると考えていることが判明した[212]。
反ユダヤ主義
『ワシントン・ポスト』と『前進』は、Qアノンがジョージ・ソロスやロスチャイルド家などのユダヤ人を標的にしていることを、「著しい反ユダヤ的要素」「人種差別や反ユダヤ主義を含意しているありふれたナンセンス」と表現している[22][213]。2018年8月のJewish Telegraphic Agencyの記事は「Qアノンの典型的な要素(特に秘密のエリートや誘拐された子供など)のいくつかは、歴史的かつ進行中の反ユダヤ主義的陰謀論を反映している」と主張している[214]。
名誉毀損防止同盟(ADL)は「Qアノンに触発された陰謀論の大部分は、反ユダヤ主義とは何の関係もない」としつつも、イスラエル・ユダヤ人・シオニスト・ロスチャイルド家・ソロスに関するQアノン信奉者の「印象論的な」ツイートは、反ユダヤ主義の「いくつの厄介な事例を明らかにした」と報告している。ADLによると、Qアノン陰謀論のいくつかの側面は長年の反ユダヤ主義の典型を反映している[215]。
Qアノンは有名な偽書である『シオン賢者の議定書』とも関係があり、共和党員のQアノン信奉者であるMary Ann Mendozaは、「『シオン賢者の議定書』は偽書ではない。そして、この事実を指摘することは特に反ユダヤ主義的ではない」と述べているTwitterのスレッドをリツイートしている[216][217]。MendozaはWomen for Trumpの諮問委員会のメンバーであり、彼女のTwitterにおける活動がニュースになるまでは、2020年の共和党大会でスピーチを行う予定だった[218]。彼女はその後、スレッドの最初の数ツイートに反ユダヤ主義的な内容が含まれていたにも関わらず、内容を見ていなかったとして否認した[219]。同様に、トランプもQアノンについて「愛国者たちである」ということ以外は何も知らないと否認している[220]。
Qアノン信奉者は「子供の血液からアドレナリンを抽出し、アドレノクロムという向精神薬・若返り薬を合成するという残虐な搾取行為」にハリウッドセレブたちが加担しているという「アドレノクロム陰謀論」を2020年までに吹聴してきた。アドレノクロム陰謀論は、反ユダヤ主義的陰謀論である「血の中傷」にルーツを持つ出鱈目な陰謀論である[221][222][223]。Qアノン信奉者はまた、何世紀も前からある反ユダヤ主義的な陰謀論である「ロスチャイルド一族によって組織された国際的な銀行家による陰謀」を拡散してきた[224]。
ジェノサイド研究者のグレゴリー・スタントンは、Qアノンを「リブランドされたナチス」と表現しており、この陰謀論は『シオン賢者の議定書』をリブランドしただけのものに過ぎないと述べている[225][226]。
カルト宗教的性質
専門家によると、Qアノンの魅力はカルト宗教に匹敵するものであるという。オンライン陰謀論の専門家であるレニー・ディレスタは、Qアノンの誘惑方法は「教団の奥深くに導かれ、友人や家族から孤立していく」という点において、インターネット登場以前のカルト教団によるそれと類似していると述べている[227]。愛する人や親しい人がQアノンの虜になってしまった人々のための互助会的オンライングループは急速に発達しており、特にサブレディットの「r/qanoncasualties」は、2020年6月には3,500人の参加者だったが、同年10月には2万8000人にまで増加した[228]。このインターネットの時代では、Qアノンは「現実世界」での繋がりをほとんど持たずに、オンライン上のバーチャルコミュニティで数万人規模の信者を獲得できるという[227]。カルト宗教専門家で復帰治療を専門とするレイチェル・バーンスタインは、「Qアノンのような運動が野火の如く広まる理由は、『他の人々がまだ知らない何か重要なものと繋がっている』と人々を錯覚させるからである。(中略)すべてのカルト宗教は、このような特別感を提供している」と述べている。自己強化的な狂信者は、集団思考によって生まれる修正・反論・ファクトチェックに対する免疫を持っているため、集団内に自己修正的プロセスは生まれない[227]。Qアノンのカルト的性質は、新宗教運動の可能性があるという見方にも繋がっている[49][160][161]。その魅力の一部は、信奉者が『Qdrops』で提示された謎をトランプの演説やツイート、およびその他の情報源と結びつけて真意を解明しようとしていることからも伺える「ゲーム性の高さ」にある[38]。信奉者の中には、同心円状の文字盤で構成された「Qクロック」を使用して、『Qdrops』とトランプのツイートのタイミングを見計らって謎を解こうとしている人さえいる[49]。
陰謀論研究者のトラビス・ビューは、Qアノンにはビデオゲームのような中毒性があり、「プレイヤー」には世界的・歴史的に重要な何かに関わることができるという魅力的な可能性が提供されていると述べている。ビューによると、「パソコンの前に座って情報を検索し、発見したものを投稿するというプロセスだけで、国家を根本的に変え、信じられないような無血革命を起こし、何世代にも渡って書き継がれる歴史的運動の一部になれることをQアノンは約束している」という。ビューはこれを、自分の努力が州議会議員候補を当選させるのに役立つかもしれないというありふれた政治的感情に例えている。また彼は、「Qアノンは『観念の市場』ではなく『現実性の市場』で勝負しているのだ」とも述べている[229]。
陰謀論は、社会的に不安定な時代に発達する傾向にあり、人々が不安になるような情報に直面しても、統制下にあるように感じさせる[230]。2020年末に行われた調査では、Qアノンの存在を知っている人の4分の1が、Qアノンには何らかの真実が含まれていると考えているという結果が出ている[230]。陰謀論に取り巻かれている環境では、かつては信頼できる公平な権威として機能していた社会の主要機関が、陰謀論の信念に反する場合には容易に否定され、信者の思考に対抗することは非常に困難となる[230]。
幻滅
Qアノン信者の中には、家族や友人からの孤立に苦しんでいることに気づき始めた者もいる。ある人にとっては、孤独感はカルトからの離脱を始めるための道筋であるが、また別の人にとっては、孤独感はカルトに帰属することで得られる利益を強化するものでもある。ビューは次のように述べている[231]。
一部のQアノン信者は、この陰謀論は自己矛盾したものであり、福音派や保守的なキリスト教徒などの一部の信者から寄付や利益を直接得ようとしている内容が含まれていることを理解した際に離脱する。これにより、陰謀論が彼らにかけていた「呪いが解ける」のである。『Q-debunking』(Qアノンを論破する)という動画を見始めた人もいる。ある元信者は「動画に救われた」と語っている[231]。
このような幻滅は、陰謀論による予言が外れることが原因となって発生することもある。Qは、2018年の中間選挙における共和党の成功を予言し、ジェフ・セッションズ司法長官がトランプの秘密工作に関与していると主張した。暫くの間は二人に見られる明らかな緊張感が信憑性を生んでいたが、民主党が大成功を収め、トランプがセッションズを解任すると、Qコミュニティの多くの人々が幻滅した[232][233]。またさらなる幻滅が、12月5日に予言されていた秘密結社メンバーの大量逮捕・投獄が実現しなかったこと、およびトランプの元国家安全保障顧問であるマイケル・フリンに対する告発が却下されたことが要因となって発生した。一部の人にとっては、これらの失敗はQアノンというカルト教団からの離脱要因となったが、別の人にとっては、政府に対する反乱という形での直接的な行動を促す要因となった。このような予言失敗への反応は、珍しいものではない。ヘヴンズ・ゲートや人民寺院、マンソン・ファミリー、およびオウム真理教といった過去の終末カルトは、啓示や預言が実現しなかった際に集団自殺や大量殺人に駆り立てられている。心理学者のロバート・リフトンは、これを「終末の強制」と呼んでいる。この現象は、一部のQアノン信者の間で見られる[231]。ビューは、幻滅したQアノン信者が何らかの事件を起こすのではないかと懸念している[162]。2016年には、Qアノンの前身であるピザゲート陰謀論を信じていたエドガー・マディソン・ウェルチが事件を起こしており、2018年にはマシュー・フィリップ・ライトがフーバーダムで事件を起こしている。また2019年には、自分はトランプの庇護下にあると信じていたアンソニー・コメロがマフィアのボスであるフランク・カリを殺害する事件を起こしている。
2018年に「ジョン・F・ケネディ・ジュニアの死亡は嘘である」との主張[234]を行ったQアノン信奉者のリズ・クロキンは、児童売春組織の想定メンバーを逮捕するためには、トランプの行動をただ待っているだけではいけないと2019年2月に述べており、「正義の自警団」の時が近づいていることを示唆している[235]。他のQアノン信奉者もケネディ・ジュニア生存説を支持しており、ピッツバーグのヴィンセント・フスカという男性が変装して生活しているケネディ・ジュニアであるとされ、2020年アメリカ合衆国大統領選挙でトランプの副大統領候補になることが期待されていた。その中には、ケネディ・ジュニアが現れることを期待してワシントンで行われた2019年独立記念日の祝賀会に出席した者もいる[236][237]。
FBIによる自国産テロ脅威との評価
2019年5月30日付けのFBI・フェニックス現地事務所の情報広報の文書において、Qアノンを動機とする過激派が自国産テロの要因であると認識されていた。同文書では、Qアノンに関連した多数の逮捕者が挙げられており、その中にはこれまで公表されていなかったものも含まれていた[16]。文書によると「これは、陰謀論に基づく国内の過激派による脅威を調査した最初のFBIによる資料であり、今後提供される情報資料の基線を示すものである。FBIは、これらの陰謀論は現代の情報市場で出現・拡散・進化していく可能性が非常に高く、ときおり過激派の集団や個人を犯罪や暴力行為に駆り立てていると評価している」という[16][17]。
5月に議会で行われたFBIのMichael G. McGarrityの証言によると、FBIは国内テロの脅威を「人種差別を動機とする暴力的過激主義、反政府・反権威に関する過激主義、動物の権利・環境保全に関する過激主義、中絶に関する過激主義(避妊賛成と反中絶の過激派を共に含む)」の4つの主要カテゴリーに分類しているという。Qアノンなどの陰謀論は、反政府・反権威に関する過激主義によく関連している[16][17]。
フェニックス現地事務所の情報広報の文書では、メディアによって報じられていないQアノン関連の事件についても言及されていた。それは、2018年12月19日に、「ピザゲートと新世界秩序を社会を駄目にしているアメリカ人に知らしめる」ために、イリノイ州スプリングフィールドの国会議事堂のロタンダの「悪魔教寺院の記念碑を爆破する」事を意図して爆弾製造材料を車に積んでいたカリフォルニア州の男が逮捕されたというものである。またFBIによると、この脅威を強めているもうひとつの要因は、「政府高官や有力政治家による違法・有害・違憲な活動を含む本物の陰謀や隠蔽工作が明らかになったこと」だという[16]。
Qアノン信奉者の反応は、文書は偽物ではないかと疑うもの、トランプに反抗しているFBI長官のクリストファー・レイの解雇を求める、というものや、文書は実際にはQアノンに注目を集めさせ、メディアを誘導してトランプにそのことについて尋ねるための「隠語的なシグナル(wink and nod)」の方法だった、などである[238]。この文書の存在が知られるようになって数時間後、トランプの再選集会で、リベラルに民主党からの離党を促すウォークアウェイ・キャンペーン(WalkAway campaign)の創設者ブランドン・ストラカは、かつてリベラルな民主党員だったと主張するゲイのトランプの支持者であるが、Qアノンの主要なスローガンのひとつである「Where we go one, we go all」を使って群衆に演説した。ビデオグラファーは、大きな「Q」または「WWG1WGA」と書かれている Qアノンのシャツから、群衆の中に多数のQアノンの支持者を発見した[46]。
米国の選挙・政治への影響
2019年議会選挙候補者
2019年、2名の共和党下院議員候補者がQアノンに興味を示した。フロリダ州の候補者であるマシュー・ラスクは、デイリー・ビースト紙に対し、自分は「洗脳されたカルト教徒」ではないと語り、Qアノンは「正当な何らかのもの」であり、「過去の出来事に関する非常に明瞭な考察、現在の状況の非常に明瞭な考察、そして政治的・地政学的な展開が次に繰り広げられる場所のやや予言的な占い」であると述べた[239]。ミネソタ州のイルハン・オマルの失脚を狙って共和党から立候補したダニエル・ステラは、「Q」のネックレスを着用した写真をツイートし[240]、Qアノンの標語である「WWG1WGA」のハッシュタグを2回使用した。彼女のTwitterアカウントは、ネックレスを認識したQアノン信奉者からの反応に「いいね!」しており、また同アカウントは著名なQアノン信奉者をフォローしている。選挙運動に携わった元側近は、ステラは有権者の支持を集めるためにQアノン信奉者を装っていたに過ぎないと主張している[241][242]。
2020年のトランプ陣営の選挙戦に関する事件
Qアノン信奉者は、2019年8月15日にニューハンプシャー州マンチェスターで開催されたトランプ陣営の集会で、「Q」の記章やその他のQアノン関連シンボルを隠すよう要求されたと主張している。集会に入場する際に、「Q」のシャツを裏返しにするよう言われたある人物は、そうするように指示した人物をシークレットサービスのエージェントだと特定したものの、シークレットサービスはこれを否定し、ワシントン・ポスト紙に宛てたメールで、「米国のシークレットサービスは、ニューハンプシャー州の集会で、参加者に服を着替えるように頼んだり、要求したことはない」と述べている。またQアノン信奉者は、トランプ陣営の集会において、あまり人目につかないよう何ヶ月も抑制されていたと主張している[243]。
2019年8月には、同年7月下旬に「Women for Trump」がネット上に投稿した動画に、「Q」が描かれた2つのキャンペーン看板が映っていることが報じられた。「Make America Great Again」と書かれた1枚目の看板には、隅に「Q」が貼り付けられていた。2枚目の「Women for Trump」という看板は、「Women」と「for」の「O」の部分に「Q」が貼られていた。これらの看板を含む映像が、Qアノン信奉者が増えているトランプ陣営の集会で撮影されたものであることは明らかなため、これらの看板が意図的に動画に選ばれたのかどうかは不明である[244]。その後、この動画は削除された[245]。
2020年7月、ビジネスインサイダーは、左派系のメディア監視団体である「Media Matters for America」によると、トランプの再選キャンペーンは、Qアノン関連のアカウントで構成されるネットワークに依存して、ソーシャルメディア、特にTwitterで偽情報やプロパガンダを拡散していたと報じた。2020年4月上旬から5月末までに送信された38万件のツイートと、1,000件のアカウントが使用した最も人気のある言葉を分析した結果、Qアノンネットワークが「トランプのプロパガンダを生成し、広める上で重要な役割を果たしている」ことが判明した[246]。
2020年8月上旬、ワシントン・ポスト紙は、トランプのキャンペーン広告に、Qアノンのグッズが目立つ支持者の画像が掲載されていたと報じた。YouTube上の何千件ものコメントは、これらの詳細を勝利の兆候であるとみなした[12]。
ニューヨーク・タイムズ紙は、Qアノン信奉者は、トランプが地滑り的に勝利するだろうと何年間も安堵していたのに、2020年アメリカ合衆国大統領選挙でトランプが敗北したことに衝撃を受けていると報じた。信奉者の中には、広範な不正投票が行われ、実際にはトランプが再選したという根拠のない主張を繰り返す者もいれば、バイデンの勝利を受け入れ始めた者もいた[199]。バイデン大統領の就任式が執り行われた日、8chan利用者の間では、自分たちの運動の将来性について意見が別れた。Qアノン拡散の中心人物かつ元8chan管理人[247]のロン・ワトキンスは、「できる限り元の生活に戻ろう」「次の政権が始まっても、この数年間に出来た友人や楽しい思い出を忘れないでほしい」と提案した。Qのメッセージの履歴を削除した掲示板のモデレーターは、他の人によってQのメッセージが復元された後、殺害予告を受けた。また、バイデンの就任は「計画の一部」ではないかという意見もあった[65]。多くの人々が幻滅した後、オルタナ右翼や白人ナショナリスト、およびネオナチは、そのような人々を勧誘する活動を行った[248][249][250]。
その他の2020年選挙候補者と議員
マージョリー・テイラー・グリーンは、2020年8月の予備選挙で勝利し、共和党が多数を占めるジョージア州第14下院議員選挙区の共和党候補となった。トランプが大統領に就いた数ヶ月後、彼女は動画の中で「悪魔を崇拝している小児性愛者の世界的な陰謀を排除する一生に一度の機会があり、我々の大統領はそれをやってくれると思う」と述べた[251]。彼女は人種差別的・反ユダヤ的な発言を行っており、ケビン・マッカーシーやスティーブ・スカリースなどの共和党幹部が彼女の発言を非難していた[252][253]。トランプは、指名の翌日に彼女の立候補を支持し、彼女を「未来の共和党のスター」「真の勝者」と評した[254][255]。
8月にジョージア州で行われた決選投票でグリーンが勝利した後、イリノイ州共和党のアダム・キンジンガー下院議員は、Qアノンを「でっち上げ」と呼んで糾弾した[256]。トランプ陣営のスタッフであるマット・ウォルキングは、「彼はスティール文書や民主党が喧伝している陰謀論を非難すべきだ」と述べ、キンジンガーに攻撃的な反応を示した[257]。キンジンガーはその後、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件が発生したわずか数週間後に立ち上げた政治活動委員会「Country First」で、共和党内部における陰謀論の影響力と戦うことを目的とした活動を開始した[258]。
オレゴン州の2020年共和党上院候補者であるジョー・レイ・パーキンスは、5月の予備選挙で勝利した夜に、WWG1WGAのステッカーを手にして「私はトランプ大統領の味方です。私はQとそのチームの味方です。アノンの皆さん、愛国者の皆さん、ありがとうございます。そして一緒に、私達の共和国を救いましょう」と述べている。彼女は、政治コンサルタントの助言により、後に動画を削除したことを後悔したと表明している[259][260][261]。翌月には、Qが3日前に信奉者に呼びかけた「デジタル兵士の誓い」を行っている動画をツイートしている[262][54]。
2020年6月30日、コロラド州第3下院議員選挙区の予備選挙で、共和党現職のスコット・ティプトンがローレン・ボーベルトに逆転負けを喫した。ボーベルトは、インタビューで一時的にQアノンへの支持を表明していたが、予備選挙で勝利した後、「私は(Qアノン)信奉者ではない」と述べ、以前の表明から距離を置こうとした[263][264]。2020年7月、ビジネスインサイダーは、少なくとも10名の共和党議会候補者が、Qアノン運動への支持を表明していると報じた。ボーベルトは、翌11月に議会に選出された[265]。
2020年9月、新人政治家のローレン・ウィツケは、党が推薦した候補者を破り、デラウェア州の上院議員共和党候補者となった。ウィツケは、TwitterでQアノンを喧伝し、QのTシャツを着用している姿を写真に撮られているが、選挙期間中はこの運動から距離を置いていた。また彼女は、自らを「フラット・アーサー」(地球平面論者)と呼び、9月には民主党の対立候補であるクリス・クーンズを「キリスト教嫌いの赤ん坊殺し」と呼び、「悪魔崇拝者のあなたの議席を奪いに行く」と付け加えた[266][267]。11月の総選挙では、クーンズが59-38%でウィツケを破った[268]。
ジョージア州下院議員候補者でトランプ支持のアンジェラ・スタントン・キングは、Twitterで「ブラック・ライヴズ・マター」(Black Lives Matter)は「小児性愛と人身売買の隠蔽工作」であり、「嵐がやってきた」(THE STORM IS HERE)と投稿した。彼女は、自分の投稿はQアノンとは関係ないと記者に語り、「その日は単に雨が降っていただけだ」と主張したが、投稿日の彼女の地域で降水はなかった[269]。
テキサス州共和党が掲げた標語
2020年8月、ニューヨーク・タイムズ紙は、テキサス州共和党がQアノンから直接引用した標語を使用していることを示唆した。テキサス州の共和党関係者はこれを否定し、掲げていた標語「We Are the Storm」は、聖書の一節に触発されたものであり、Qアノンとは何の関係もないと主張した[270][271]。
議会決議
2020年8月25日、民主党のトム・マリンノースキー下院議員と共和党のデンバー・リッグルマン下院議員は、Qアノンを非難し、その陰謀論を否定する超党派の単一決議案(H. Res. 1154)を提出した[272][273]。マリンノースキーは、この決議案の目的は、「米国人を過激化し、暴力に駆り立てているとFBIが評価している、危険で反ユダヤ的な陰謀論を提唱しているカルト」を正式に否定することだと述べた[272]。また同決議案では、FBIをはじめとする法執行機関や国土安全保障機関に対し、「非主流派の政治的陰謀論を動機とする過激派による暴力、脅迫、嫌がらせ、およびその他の犯罪行為の防止に向けた取り組みを引き続き強化する」ことが求められており、米国諜報コミュニティに対し、「Qアノンが受けている外国からの支援、援助、オンラインでの増幅、およびQアノンと外国の過激派組織や暴力を支持するグループとの連携、協調、接触を明らかにする」ことが促されている[273]。
2020年9月、マリンノースキーは、性犯罪者の保護を望んでいるという誤った非難を受け、Qアノン信奉者から殺害予告を受けた。この脅迫は、全米共和党議会委員会(NRCC)のキャンペーン広告で、マリンノースキーがヒューマン・ライツ・ウォッチのロビイストとして働いていたときに、2006年の犯罪法案で性犯罪者の登録を増やす計画に反対していたと誤認されたことがきっかけであった[274][275][276]。
この決議案は、2020年10月2日に371対18で可決された[273][274]。共和党員17名(スティーブ・キング、ポール・ゴサール、ダニエル・ウェブスターを含む)と無所属1名(ジャスティン・アマッシュ)が反対票を投じ、アンディー・ハリスは出席(present)に投票した[273][274][277]。なお、この決議は法的効力を持たない[277]。投票前、マリンノースキーは、Slate誌に対し、NRCCの広告について「今週、議場で反対票を投じた共和党員が、来週も民主党候補者にこのような広告を出して火遊びをするようなことは、私は見たくない」と語った[278]。
トランプと関係者からのコメント
ドナルド・トランプ
Media Matters for Americaが行った分析によると、2020年8月の時点で、トランプはQアノンと関係している129個のTwitterアカウントに返信したりリツイートすることで、少なくとも216回、時には1日に何度もQアノンの主張を拡散・増幅させている[48][10]。2017年11月26日、トランプは、Qアノンが初めて投稿を開始してから一ヶ月も経たないうちに、Qアノンの主要拡散者であり、「ドナルド・トランプ大統領の業績の公式リスト」を自称しているTwitterアカウント「@MAGAPILL」の投稿をリツイートした[159]。2019年9月9日、トランプは、Qアノン支持者のTwitterアカウント「The Dirty Truth」の動画をリツイートした。その動画は、次期国家情報長官のジョン・ラトクリフが元FBI長官のジェームズ・コミーを批判する内容であった[279]。2018年8月24日、トランプは主要なQアノン拡散者であるウィリアム・"ライオネル"・レブロンを執務室に招き、写真撮影を行った[280][281][282]。2019年のクリスマス直後、トランプは十数人のQアノン信奉者の投稿をリツイートした[283]。
2020年8月19日、記者会見でQアノンについて質問された際、トランプは「彼らが私のことをとても気に入ってくれているということ以外、この運動についてはよく知らない。支持してくれていることには感謝しているが、この運動についてはよく知らない」と答えた[284]。FBIのフェニックス現地事務所は、Qアノンを自国産テロリズムの潜在的要因と認定しているが、トランプはQアノン信奉者を「我が国を愛している人々」と呼んでいる[285][284]。記者がトランプに、「小児性愛者と人肉嗜食者による悪魔崇拝カルトから、トランプは密かに世界を救っている」と示唆する考え方を支持できるかと質問したところ、彼は「そのようなことは聞いたことがないが、それは何かしら悪かったり良かったりすることだろうか?」と答えた。ジョー・バイデンは、トランプは「FBIが自国産テロ脅威と認定した陰謀論を正当化する」ことを狙っていたと答えた[286][6]。
2020年10月15日、タウンホール形式の選挙イベントでQアノンを糾弾する機会を与えられたトランプは、糾弾することを拒否し、代わりにQアノンが小児性愛に反対していることを指摘した[287]。また、Qアノンについては他に何も知らないと述べ、質問者であるNBCニュースのサバンナ・ガスリーに対して、Qアノン陰謀論の前提が真実かどうかは誰にも分からないと語った。「彼らは、ディープ・ステートが運営する悪魔崇拝カルトがあると信じている」とガスリーが伝え、陰謀論は真実ではないと主張すると、トランプは「いや、私はそんなことは知らない。そしてあなたも知らないだろう」と答えた[288]。
マイク・ペンス
2020年8月21日、マイク・ペンスは、Qアノンが「自分の手に負えない」陰謀論であること以外、「何も知らない」と述べた[290]。この陰謀論に「酸素を与える」ことに政権が果たした役割を認めるかどうか質問されたペンスは、首を振って「勘弁してくれ」と答えた[290]。2020年8月、ペンスは、Qアノンについて、そしてQアノンを奨励している人の取り組みに関して報道機関が行う質問の問題点は、「明るいものを追いかける」かのように、間違った質問をしていることだと述べた[291]。
マイケル・フリン
2019年8月、同年9月にアトランタで「Digital Soldiers Conference」が開催されることが発表された。このイベントの目的は、来たるべき「デジタル内戦」に備えて、「愛国的なソーシャルメディア戦士」を準備することであるとされていた。このイベントの告知には、星条旗の青い部分に星で綴られたアルファベットの「Q」が大きく描かれていた。このイベントには、トランプの元側近であるマイケル・フリンとジョージ・パパドプロスのほか、トランプの友人であり、選挙戦の報道機関諮問委員会のメンバーであるジーナ・ルードン、歌手のジョイ・ヴィラ、ラジオ司会者で熱烈なトランプ支持者のビル・ミッチェルなどが登壇を予定していた[292][293]。このイベントの主催者であるリッチ・グランビルは、ホワイトハウスの高官との繋がりを持つ「諜報企業」であると特徴づけられており、保守的な意見を検閲しないと主張している検索エンジン「Yippy」を手掛けているYippy社のCEOである。彼は、記者に対して「お前は誰に横槍を入れているのか理解していない」と語り、TwitterでQアノンについて何度か言及しているにも関わらず、Qが描かれた星条旗はQアノンを意識したものではないと否定した[294]。
2020年7月4日、マイケル・フリンは、自身のTwitterアカウントに、Qアノンの標語である「Where We Go One, We Go All」を掲げながら、少人数のグループを率いて宣誓している自身の動画を投稿した[295]。アナリストによると、この宣誓は、来たるべき政治的・社会的な終末に備えて、Qアノンが「デジタル兵士」を組織しようとする試みの一環であるという。Media Matters for Americaの分析によると、トランプは少なくとも152のQアノン関連Twitterアカウントを265回以上リツイートまたは言及しているが、Qアノンへの忠誠を示したフリンは、この陰謀論を支持した最も著名な元政府高官となっている[296][48]。
フリンの弁護士であるシドニー・パウエルは、Qアノンに関する宣誓を否定し、それはジョン・F・ケネディのヨットの鈴に刻まれている文言に過ぎないと述べた。しかし、それ以前の数日間に、多数のQアノン信奉者がフリンと同じ「#TakeTheOath」のハッシュタグを使用して、Twitter上で同様の、いわゆる「デジタル兵士の誓い」を立てていた[297][298]。
2021年3月、フリンの兄であるジャック・フリン退役中将とその妻は、名誉毀損であるとして、CNNに対して7500万ドルの訴訟を起こし、Qアノン信奉者だとする虚偽の報道を行ったと主張した。彼らは、フリンが2020年7月に投稿し、またCNNが放送した動画には、Qアノンではなく憲法に宣誓する様子が描かれていると主張した。また訴訟では、その動画では他の参加者全員がQアノンの標語である「Where We Go One, We Go All」を唱えていたにも関わらず、フリンだけが唱えているように報道されたとも主張されている。さらに原告は、「Qアノンを含む、いかなる過激派やテロ集団の信奉者、あるいは支持者でもない」と述べている[299][300][296]。
その他のトランプ関係者
2019年から2020年にかけて、トランプの首席補佐官代理兼ソーシャルメディア・ディレクターのダン・スカヴィーノは、Qアノン信奉者が「嵐」までのカウントダウンを意味するために使用している時計のミームを3回ツイートしている[270]。トランプの顧問弁護士であるルドルフ・ジュリアーニも、ときおり「#QAnon」のハッシュタグが付けられた投稿をリツイートしており、彼がフォローしている限られた数のアカウント(2019年10月時点で224件)も、多数がQアノン信奉者となっている[10][301]。エリック・トランプは、2020年の夏に行ったツイート(後に削除)で、大きな「Q」の画像と「Where We Go One, We Go All」というテキストを使って、タルサで開催される父の集会を宣伝した[12]。
反応
2017年12月28日、ロシアのテレビネットワークであるロシア・トゥデイ(RT)は、「Qアノンの暴露」を議論する番組を放送し、匿名の投稿者を「Qアノンで知られるトランプ政権内部の機密情報工作員」と呼称した[78]。Qアノンの成立にロシアは関与していなかったが、ロシア政府の支援を受けたソーシャルメディアのアカウントは、2017年11月か12月の時点で、初期のQアノンの主張を拡散していた[26]。ロシア政府が資金提供を行っているRTやスプートニクなどのロシア国営メディアは、2019年から陰謀論を増幅させ、米国が内輪揉めや分裂で荒れている証拠としてQアノンを挙げた[23][11]。
2018年3月13日、妊娠中絶に反対する団体「Operation Rescue」の副会長であるシェリル・サレンジャーは、Qアノンを「ドナルド・トランプに近い内部関係者のグループ」と呼び、「我々の知る歴史の中で、公に投下された最高レベルのインテリジェンス」と呼んだ[302][303]。3月15日、ウクライナ共産党の機関紙であり、キエフに拠点を置く『Rabochaya Gazeta』は、Qアノンを「軍事諜報グループ」であるとする記事を掲載した[304]。3月31日、米国の女優であるロザンヌ・バーは、Qアノンの宣伝を行う出演を行い、その後、CNNやワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなどによって取り上げられた[305][306][307][308]。
2018年6月28日、タイム誌の記事で「2018年のインターネットで最も影響力のある25人」にQが挙げられた。タイム誌は、YouTubeで13万本以上の関連動画が投稿されていることを指摘し、陰謀論の幅広さと著名な信奉者やニュース報道について言及した[309]。同年7月4日、ヒルズボロ郡の共和党は、FacebookとTwitterの公式アカウントでQアノンに関するYouTubeの動画を共有し、彼らを「デープ・ステートの活動とトランプによる反対活動を内部告発している謎の匿名人物」と呼称した。この投稿は、すぐに削除された[159][310]。
2018年8月1日、前日にフロリダ州タンパで開催された中間選挙に向けたトランプの集会にQアノン信奉者が大量に参加したことを受けて[22][311]、MSNBCのハリー・ジャクソン、ブライアン・ウィリアムズ、クリス・ヘイズは、それぞれのテレビ番組の中でこの陰謀論を取り上げた[312][313][314]。翌日には、PBSニュースアワーも続いてQアノンに関する番組を放送した[315]。同年8月2日、ワシントン・ポスト紙の論説委員であるMolly Robertsは、「彼らが耽溺している陰謀は実在しないものであるため、Qアノン信奉者が予想している『嵐』とやらは決して起こらない。しかし、彼らは自ら『嵐』を引き起こそうとし、残った我々は避難所を探すのに苦労することになるだろう」と書いている[316]。同年8月4日、元ホワイトハウス報道官のショーン・スパイサーは、サブレディット「r/The_Donald」で行われた「ask me anything」(なんでも質問してください)のセッションで、Qアノンに関するコメントを求められた。「Is Q legit?」(Qが言ってることは本当か?)という質問に対して、スパイサーは「No」(いいえ)と答えた[317]。
オンラインプラットフォームの反応
個人情報の公開
2018年3月14日、RedditはQアノンに関する議論を行っていたコミュニティの一つである「r/CBTS_Stream」を「暴力の助長や扇動、個人情報や機密情報の投稿」を理由に禁止した[318]。その後、一部の信奉者はDiscordに移行した[319]。Qアノンについて議論するために他にもいくつかのコミュニティが形成されたが、2018年9月12日には、「暴力や嫌がらせ、個人情報の流布を扇動している」として禁止された。これを受け、数千人の信奉者が、スイスに拠点を置くRedditのクローンであり、オルタナ右翼の巣窟と言われているVoatに再集結した[320][321][322]。
QDropsアプリ
陰謀論を拡散するアプリ「QDrops」がApp StoreとGoogle Playで公開され[323]、2018年4月にはAppleのオンラインストアの「エンターテイメント」部門で最も人気のある有料アプリとなり、有料アプリ全体では10番目に人気のあるアプリとなった。ノースカロライナ州の夫婦のRichardとAdalita Brownによって運営されているTiger Team Inc.によって公開されていた[324][325][326]。2018年7月15日、NBCニュースから問い合わせを受けたApple社は、このアプリの公開を停止した[327]。
2020年5月中旬、Googleは他にも「QMAP」、「Q Alerts!」、「Q Alerts LITE」の3つのアプリを規約に違反しているとしてAndroidのアプリストアから削除した[328][329]。
関連コンテンツの削除
2019年初頭、Twitterは、「#WWG1WGA」の標語を使用した#QAnon関連のツイートを大量に投稿しており、ロシアのインターネット・リサーチ・エージェンシーとの関連が疑われるアカウントを削除した[23][25]。
2020年5月5日、Facebookは、2020年アメリカ合衆国大統領選挙を前にした「協調した不審な行動の疑い」を調査する一環として、「Qアノンネットワークに関連する人物」と繋がっている5つのページ、20のアカウント、および6つのグループを削除したことを発表した[330][331]。同年8月19日、Facebookは「危険な個人・団体」のポリシーを拡充し、「直接的な暴力を組織している訳ではないが、暴力行為を称賛したり、武器を持ってそれを使うことを示唆したり、暴力的な行動パターンを持つ個人のフォロワーがいる成長中の運動」に対応することを決定した。このように警戒を強めた結果として、Facebookは既に「Qアノンと関連している790以上のグループ、100のページ、1,500の広告を削除し、FacebookとInstagramにおける300以上のハッシュタグをブロック。さらにFacebookにおける1,950のグループと440のページ、Instagramでは10,000以上のアカウントに制限を課した」と報告している[23][332][333][334]。8月の発表から一ヶ月の間に、Facebookは1,500のQアノングループを削除したと発表した。そうしたグループには、それまで400万人のフォロワーがいた。2020年10月6日、Facebookは「Qアノンを示しているFacebookページ、グループ、およびInstagramアカウントは、たとえ暴力的な内容を含んでいなくても、直ちに削除を開始する」と発表した。また同社は、Qアノンを示しているあらゆるグループを直ちに禁止すると述べた[335][336][337]。
2020年7月1日、Twitter社は、フェイクニュースや陰謀論を協調して増幅させたとして、Qアノン関連の7,000以上のアカウントを凍結すると発表した。Twitter社はプレスリリースの中で、「オフラインでの被害に繋がる可能性がある行動に対しては、強力な強制措置を執ることを明確にしてきた。今週、このアプローチに従って、サービス全体でいわゆる『Qアノン』の活動に対してさらなる措置を講じる」と述べた。また、その措置は15万件以上のアカウントに適用される可能性があるとした[338][339]。
Facebookは、2020年10月6日にすべてのQアノングループ、およびページを禁止した。同日、Qアノン信奉者は、この措置は敵の逮捕を開始するというトランプ政権の複雑な戦略の一部であるとか、Facebookがこの出来事に関するニュースを封じ込めそうとしているのではないかとの推測を行っていたが、どちらも事実ではない。信奉者の中には、翌日に予定されている司法省の「国家安全保障」に関する記者会見は、ヒラリー・クリントンを含む民主党員の告発に関連しているのではないかと推測する者もいた。実際には、司法省はイスラム国のメンバーの捜査と逮捕を発表した[340]。
2020年10月7日、EtsyはオンラインのマーケットプレイスからQアノン関連商品をすべて削除することを発表した[341]。
2020年10月12日、YouTubeのCEOであるスーザン・ウォシッキーは、CNNのインタビューで、Qアノン関連コンテンツの大多数は、明確なルール違反を行っていない「境界線上のコンテンツ」であるが、関連動画を表示するアルゴリズムに変更を加えたことで、Qアノン関連コンテンツの閲覧が80%減少したと述べた[342]。その3日後、YouTubeはヘイト&ハラスメントのポリシーを変更し、Qアノンやピザゲートなどの「現実世界における暴力を正当化するために使用されてきた陰謀論を擁している、個人や集団を標的にしたコンテンツ」を禁止することを発表した[343][344]。ただし、個人を標的にしていない場合は、Qアノン関連コンテンツであっても許可されている[345]。
それ以降、Qアノンに関連するハッシュタグは、Facebook・Twitter・TikTok・Instagramなど多数のソーシャル・ネットワーキング・サービスで禁止されている。
Qアノンを抑制する取り組み
Qアノンへの対応を進め、社会への影響を低減させるための提案としては、ソーシャルメディア上の個人やソーシャルメディアプラットフォーム企業への対応が挙げられる[346]。「r/QAnonCasualties」や「r/ReQovery」などのソーシャルメディアのプラットフォームは、Qアノン陰謀論の元信奉者や支持者、または家族が陰謀論に魅了された人を支援することを目的としている[230]。「Go Viral!」は、COVID-19に関する誤報に特化して開発されたものであるが、そういったメカニズムを理解している人は、自分自身もハマりにくいという研究結果もあり、誤報の広がり方を理解するためのオンラインゲームが開発されている[230][347]。
心理戦であるとの非難
2021年1月、連邦議会議事堂襲撃事件が発生したあと、スティーブ・バノンやビル・スティルなどの多くの著名な保守派は、Qアノンを米国の諜報機関やFBIが作った「サイオップ」(心理戦)であるとして、非難・糾弾を始めた[348][349]。
ブルー・アノン
「ブルー・アノン」(英: Blue Anon)は、2021年初頭に保守派が造語した用語であり、リベラルや左派が陰謀論を広めているとして非難する言葉として使用されている[350][351]。この用語は、キャンディス・オーウェンズ、マージョリー・テイラー・グリーン、ジャック・ポソビエク、イアン・マイルズ・チョンなどの複数の人気のある保守派・極右の人物によって使用されている[350][351]。
2021年3月、「Blue Anon」の項目がUrban Dictionaryから説明なしに削除されたため、保守派の人物やウェブサイトがUrban Dictionaryの検閲を非難した[351]。その後、「Blue Anon」の項目は復活した[351]。
事件
セメント工場占拠事件
2018年5月、マイケル・ルイス・アーサー・マイヤーは、ツーソンのセメント工場からFacebookで動画をライブ配信し、「誰も話したがらず、見て見ぬ振りをしている児童性的人身売買の収容所がここだ」と主張した。この動画は、その後の一週間で65万回再生された。ツーソン警察が工場を調査したが、犯罪行為の証拠は見つからなかった。その後、警察と合意の上で退去するまで、マイヤーは敷地内の塔を9日間占拠した。彼は7月に再び塔にやってきたが、不法侵入で逮捕された。マイヤーは、自身のFacebookページでQアノンや「#WWG1WGA」のハッシュタグを使用していた[352][353][354]。
フーバーダム占拠事件
2018年6月15日、ネバダ州ヘンダーソン在住のマシュー・フィリップ・ライトは、AR-15や拳銃を積んだ装甲車をフーバーダムまで運転し、90分間にわたって交通を妨害したとして[355]、テロ容疑などで逮捕された[356]。彼は、Qアノンの任務として、ヒラリー・クリントンのプライベートメールサーバーの使用に関する捜査中のFBI捜査官の行動について、司法省に「監察総監室(OIG)の報告書を公開すること」を要求していると述べた[34][42][357]。OIGの報告書は、前日に複写が公開されていたため、「公開された報告書は大幅に修正されており、トランプが(民主党員の)悪事を証明する本物の報告書を所有しているが、公開を拒否している」と主張する「Qドロップ」が彼の動機となっていた。装甲車の中で記録された動画の中で、ライトは、トランプが「特定の人々を監禁する」という「義務」を果たさなかったことに失望を示し、「あなたの誓いを守ってください」を懇願した[42][358]。
ライトには有罪判決が下され、2020年12月17日にテロ容疑で7年、逃亡罪で9ヶ月を連続して言い渡された[359]。
マイケル・アヴェナッティへの嫌がらせ
2018年7月29日、Qは、ストーミー・ダニエルズの弁護士であるマイケル・アヴェナッティのウェブサイトへのリンクと、カリフォルニア州ニューポートビーチにある彼のオフィスビルの写真を、「Buckle up!」(ベルトを締めろ)というメッセージと共に投稿した。その後、Qは、片手に携帯電話を持ち、もう片方の手には細長い物体を持っているように見える正体不明の男性が、アヴェナッティのオフィス付近の路上に立っている写真を共有し、「メッセージが送られてきた」と付け加えた。これをきっかけに、ニューポートビーチ警察が捜査を開始した。同年7月30日、アヴェナッティは自身のTwitterのフォロワーに、写真の男性について「何か詳細を知っていたり、目撃したことがあれば」ニューポートビーチ警察に連絡するよう呼びかけた[360][361][362]。
ジム・アコスタへの嫌がらせ
2018年7月31日、フロリダ州タンパで開催されたトランプの集会で、トランプ支持者がCNNのホワイトハウス報道記者であるジム・アコスタに対して敵対的な行動を示した。集会には、Qアノン関連の陰謀論信奉者が参加していた[363]。
翌日、デイリー・メール紙のデイビット・マルトスコは、ホワイトハウス報道官のサラ・ハッカビー・サンダースに、ホワイトハウスが「Qアノン過激派グループ」を支持することを奨励しているかどうか質問した。サンダースは、Qアノンへの言及には特に答えず、「他の個人に対する暴力を扇動するようなグループ」を糾弾した[364]。さらに同氏は、トランプが「その種の行動を支持するようなグループを支持していないことは確かだ」と付け加えた[365][366]。
グラスバレー・チャータースクールの資金調達
4月27日に元FBI長官のジェームズ・コミーがハッシュタグ「#FiveJobsIveHad」を使ってツイートした際、挙げられた仕事の頭文字が「GVCSF」となっていたことから、Qアノン信奉者は「グラスバレー・チャータースクール財団を暗示した言及であり、コミーがイベントで『偽旗』のテロ攻撃を計画していることを示唆している」と解釈した。これを受けて、2019年5月11日に予定されていたカリフォルニア州グラスバレーのグラスバレー・チャータースクール