人獣共通感染症
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人獣共通感染症(じんじゅうきょうつうかんせんしょう:ズーノーシス(zoonosis))は、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染または寄生する病原体により生じる感染症のこと。動物由来感染症とも呼ぶ(呼称についてを参照)。感染している動物との直接接触やその糞や毛垢などを介して再感染が起きる。
人獣共通感染症の問題点
特に以下の点が公衆衛生上大きな問題となる。
- 新興感染症としての人獣共通感染症
- 種々の動物がペットとして輸入され飼われる機会が増えたことなどにより、従来は稀であったり知られていなかった病原体がヒト社会に突如として出現する。このように新興感染症として現れた場合、未だヒトが免疫を獲得していないために大流行を引き起こす危険性が高く、診断や治療の方法も確立していないために制圧が困難である。2003年に出現した重症急性呼吸器症候群(SARS)にこの問題点が顕著に見られた。
- 予防の難しさ
- 1980年に撲滅宣言が出された唯一の感染症である天然痘では、その原因となる痘瘡ウイルスがヒトにのみ感染するものであり、かつ終生免疫が成立するワクチンの開発に成功したことが、その功績につながった。すなわち世界中の人すべてにワクチンを接種すれば、それ以上天然痘は伝染しえない。
- これに対して人獣共通感染症である狂犬病ウイルスは撲滅して予防することが極めて困難だと言われている。狂犬病ウイルスは全ての哺乳類に感染するため、それら全てにワクチンを接種することは極めて困難である。またネズミなどの小動物はきわめて小さな門戸から侵入して感染源となることがあり、予期せぬ接触によって感染する危険性がある。
呼称について
人獣共通感染症以外の呼称としては動物由来感染症などがある[1]。
以前は人畜共通感染症または人畜共通伝染病という呼称が一般的であったが、「畜」という語が家畜のみを想起するのに対して、近年[いつ?]は愛玩動物(ペット)や野生生物からの感染が重大な問題になっているという指摘がある。これらを考慮して、人獣共通感染症という言葉を用いようとする動きがあり、この呼称が定着しつつある。ただし、「獣」とは本来なら哺乳類など体毛で被われた動物を指す言葉であり、オウム病や鳥インフルエンザなど鳥類由来の感染症や、爬虫類由来のサルモネラ感染症、昆虫類や魚類由来の寄生虫疾患等も包含する語としては必ずしも「畜」より適切とは言い難い。
いずれにしても、どの語を用いるべきかについては未だ議論の分かれるところであり、統一されるにまでは至っていない。
なお、厚生労働省はヒトへの感染経路を重視する観点から動物由来感染症という呼称を使っている[1]。 これに対して獣医学の立場からは、「動物は汚いもの」という意識を必要以上に広く植え付けるだけでなく、ヒトから動物への感染(ヒト由来感染症)による動物への被害という問題もあるため不適切ではないかということも指摘されている。特にヒト由来の抗生物質耐性菌による動物への被害を問題視する意見もある。
感染しやすい人
獣医師は常に人獣共通感染症にさらされており、咬傷や切り傷などに対する慣れによる危険性の欠如から継続的な危険への教育を行うべきだという指摘も行われている[2]。
伝播様式による分類
- ダイレクトズーノーシス(direct zoonosis)
- サイクロズーノーシス(cyclo-zoonosis)
- メタズーノーシス(meta-zoonosis)
- サプロズーノーシス(sapro-zoonosis)
- 混合型
- 上記4型が組み合わされたもの。
- 肝蛭症、ダニ麻痺症など
- 上記4型が組み合わされたもの。
主な人獣共通感染症
その他
出典
- ^ a b 動物由来感染症ハンドブック 厚生労働省
- ^ “Mink found to have coronavirus on two Dutch farms – ministry” (英語). Reuters. (2020年4月26日). オリジナルの2020年4月27日時点におけるアーカイブ。 2020年4月27日閲覧。
- 参考文献
- 木村 哲、喜田宏 編『人獣共通感染症』医薬ジャーナル社、ISBN 978-4753220946
- 高島郁夫、熊谷進 編『獣医公衆衛生学 第3版』文永堂出版、2004年、69-159頁、ISBN 978-4830031984
- 藤田紘一郎『イヌからネコから伝染るんです』講談社、ISBN 978-4062758512
関連項目
外部リンク
- 人獣共通感染症連続講座 - 山内一也 東大名誉教授
- 動物由来感染症 - 厚生労働省
- 人と動物の共通感染症に関するガイドライン(pdf) - 環境省
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