緊急安全確保
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緊急安全確保(きんきゅうあんぜんかくほ)は、住民の生命に被害が発生する災害が切迫または現に起こったことを覚知した場合、住民に対して直ちに自らの命を守る最善の行動をとることを知らせる情報として、通常は市区町村長の判断で発令される。
概要
従来、地方公共団体(市区町村)が出す情報は避難指示が最高であったが、それを上回るものとして2019年(令和元年)5月29日の防災気象情報(水害・土砂災害)に関する警戒レベル導入時より、警戒レベル5の「災害発生」に相当する情報である「災害発生情報」(さいがいはっせいじょうほう)が新設された。その後、2021年(令和3年)5月20日に改正災害対策基本法が施行され、実際に災害の発生を確認できなくても切迫した状態で発令できるよう、「緊急安全確保」に表現が変更されている[1][2][3][4]。
この情報は災害に結び付くような危険な状態であっても必ずしも発令されるわけではないが、発令された時点で災害が切迫または現に発生しており、避難中の住民に対しては安全な施設への緊急的な避難を促したり、避難が困難な住民に対しては屋内のより安全な部屋などへ避難(上階への垂直避難や崖側から離れるなど)させることを目的としている[5]。
発令された主な事例
- 災害発生情報
- 東京都町田市(2019年10月12日):土災害特別警戒区域において土砂崩れが発生したため発令[6]。
- 大分県由布市(2020年7月8日):市内各地での土砂災害が多発し、更に大分川が由布市内の複数個所で氾濫したため、同日未明に市内全域に対して発令[7](「令和2年7月豪雨」も参照)。
- 緊急安全確保
- 神奈川県平塚市(2021年7月3日):市内を流れる金目川などで浸水被害が発生している恐れがあるとして、午前8時までに流域住民(8万9000世帯、およそ19万9000人)を対象に発令[8][9][10]。なお、この情報は同日午後3時頃に解除されている。けが人等の人的被害は出ていない[11]。改正災害対策基本法施行後、初めての発令となった。
- 静岡県熱海市(2021年7月3日):午前10時半頃に市内で20人以上が巻き込まれる大規模な土石流が発生[12](「令和3年7月3日の熱海市の土砂災害」を参照)したのち、土砂災害が発生する恐れが極めて高まったとして、午前11時5分に発令[13]、さらに午後3時までに市内全域(2万957世帯、3万5602人)を対象に発令した[12][14]。
- 島根県松江市(2021年7月7日):市内を流れる意宇川が氾濫する恐れがあるとして、午前6時50分に八雲町日吉地区(755世帯、1884人)に発令[15]。
- 鳥取県鳥取市(2021年7月7日):市内を流れる清水川の水があふれたとして、午後1時26分に吉成南町1丁目と2丁目(697世帯、1529人)に発令[16]。
- 広島県三原市(2021年7月8日):市内を流れる天井川の水があふれたとして沼田東地区と明神5丁目、さらに土砂崩れが発生した小泉地区に午前9時40分までに相次いで発令。対象は3478世帯、8264人[17]。
- 鹿児島県(2021年7月10日):大雨特別警報が発令されたとして、同日未明から朝にかけてさつま町内全域(1万481世帯、2万1165人)[18]、伊佐市内全域(1万3123世帯、2万4696人)[19]、薩摩川内市内の離島を除く全域(4万3549世帯、8万9098人)[20]、出水市内全域(2万5299世帯、5万2547人)[21]、湧水町内全域(4721世帯、8913人)[22]に発令[23]。
- 熊本県人吉市(2021年7月10日):大雨特別警報が発令されたとして、午前6時15分に市内全域(1万5308世帯、3万1223人)に発令[24]。
- 宮崎県えびの市(2021年7月10日):大雨特別警報が発令されたとして、午前8時6分に市内全域(8304世帯、1万7794人)に発令[25]。
伝達
テレビやWebサイト等による伝達の際、ガイドラインではISO 22324等を参考に危険度をカラーレベルで表現することが望ましいとされており[26]、一例として2021年5月時点で緊急安全確保は警戒レベルの配色に合わせて、NHKのテレビ放送やYahoo! JAPANの避難情報のページでは 黒系統を使用している[27][28]。
脚注
- ^ 避難情報改善へ 警戒度最高は「緊急安全確保」 21年から運用 - 毎日新聞 (2020年12月25日) 2020年12月26日閲覧
- ^ “「避難勧告」廃止し「避難指示」に一本化 法律改正案可決 成立”. NHKニュース (2021年4月28日). 2021年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月7日閲覧。
- ^ “新たな避難情報の運用 5月20日から 避難指示に一本化など”. NHKニュース (2021年4月30日). 2021年4月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月7日閲覧。
- ^ “災害時の「避難勧告」廃止、「避難指示」に一本化…違い分かりにくく”. 読売新聞オンライン (2021年5月10日). 2021年5月10日閲覧。
- ^ 避難勧告等に関するガイドラインの改定 ~警戒レベルの運用等について~ (PDF) - 内閣府(防災担当)2019年3月(2020年7月8日閲覧)
- ^ “町田市メール配信サービス”. 2021年7月10日閲覧。
- ^ “【警戒レベル5】洪水に関する災害発生情報発令について”. 由布市 (2020年7月8日). 2020年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月8日閲覧。
- ^ 静岡で住宅流される 太平洋側で記録的大雨、被害広がる - 朝日新聞デジタル (2021年7月3日) 、2021年7月3日閲覧。
- ^ 神奈川県平塚市で「緊急安全確保」発令…警戒レベル5、「命の危険が迫っている」 - 読売新聞オンライン (2021年7月3日) 、2021年7月3日閲覧。
- ^ 神奈川などで大雨、土砂崩れも 平塚市に「緊急安全確保」初発令 - 毎日新聞 (2021年7月3日) 、2021年7月3日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月3日). “平塚市の緊急安全確保を解除”. NHKニュース. 2021年7月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月3日閲覧。
- ^ a b 熱海で土石流、住民20人不明 2人心肺停止 - 日本経済新聞 (2021年7月3日) 、2021年7月3日閲覧。
- ^ 被害世帯は100超 熱海市幹部「人的被害増える恐れ」 - 朝日新聞デジタル (2021年7月3日) 、2021年7月5日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月3日). “緊急安全確保 命を守る行動を 静岡 熱海市内全域2万957世帯に”. NHKニュース. 2021年7月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月3日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月7日). “緊急安全確保 命を守る行動を 松江 八雲町日吉地区755世帯に”. NHKニュース. 2021年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月7日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月7日). “鳥取市 吉成南町 1529人に緊急安全確保 命を守る行動を”. NHKニュース. 2021年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月7日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月8日). “【緊急安全確保】命を守る行動を 広島 三原市3478世帯に”. NHKニュース. 2021年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月8日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “鹿児島 さつま町全域に「緊急安全確保」発表 命を守る行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “鹿児島 伊佐 市内全域に「緊急安全確保」命が助かる行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “鹿児島 薩摩川内 離島除く全域に「緊急安全確保」命守る行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “鹿児島 出水 市内全域に「緊急安全確保」命を守る行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “鹿児島 湧水町 全域に「緊急安全確保」 命を守る行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ “避難情報”. Yahoo!天気・災害. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “熊本 人吉 市内全域に「緊急安全確保」命が助かる行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2021年7月10日). “宮崎 えびの市 全域に「緊急安全確保」命を守る行動を”. NHKニュース. 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月10日閲覧。
- ^ “避難勧告等に関するガイドラインの改定(平成31年3月29日)”. 内閣府(防災担当) (2019年3月29日). 2021年5月23日閲覧。
“避難勧告等に関するガイドライン①(避難行動・情報伝達編) (PDF)”. 内閣府(防災担当) (2019年3月). 2021年5月23日閲覧。 - ^ “5段階の大雨警戒レベル|災害 その時どうする|災害列島 命を守る情報サイト|NHK NEWS WEB”. 日本放送協会. 2021年5月23日閲覧。
- ^ 「天気・災害トップ > 避難情報」、Yahoo! JAPAN、2021年5月23日閲覧〈Wayback Machineによる同日時点のアーカイブ〉
関連項目
外部リンク
- 避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月) - 内閣府(防災担当)
- 防災気象情報と警戒レベル - 首相官邸
- 避難はいつ、どこに? - 首相官邸
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